移転場所は?跡地活用は? 錯綜する福岡市民病院(後)

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移転先の候補地は東区内の3カ所に

候補地概要

 従前の審議会では市民病院単独での移転が検討されており、その候補地としては東区6カ所、博多区1カ所の計7カ所が選定されていた。だが、今回の審議会では千早病院との統合・再編によって増床していく方針が検討の俎上に乗ったことも踏まえて、多角的かつ総合的な視点で市民病院にとって最適な整備場所を選定するため、「①土地の状況・活用性」「②医療環境への影響」「③利便性」「④救急・災害対応」「⑤経済性」の大項目ごとに各候補地の評価・比較を実施。その結果、「かしいかえん跡地」(香住ヶ丘7丁目)、「香椎浜ふ頭緑地」(香椎浜ふ頭1丁目)、「箱崎中学校」(筥松4丁目)と、いずれも東区内の3カ所に絞られた。

 かしいかえん跡地は、21年12月に閉園となった市内唯一の遊園地「かしいかえん シルバニアガーデン」(以下、かしいかえん)の跡地である。敷地面積は約12万㎡で、用途地域/その他制限は、第一種住居地域/第二種20M高度地区。建ぺい率/容積率は、60%/200%となっている。もともと長らく地域から愛されてきた遊園地だけあって、地権者である西日本鉄道(株)は時間をかけて周辺住民と合意形成しながら活用策を模索していきたいとしており、今のところ具体的な跡地再開発の情報を出していない。22年4月からは再開発着手までの期間限定営業というかたちで、かしいかえん跡地を継続活用した複合型アウトドア施設「かしいのはまビレッジ」を開業。キャンプサイトやドッグランサイト、ワーケーションサイト、アスレチックサイトなどを備え、再開発着手までのつなぎとしての活用がなされている。

左:かしいかえん跡地 右:香椎浜ふ頭緑地
左:かしいかえん跡地 / 右:香椎浜ふ頭緑地

 香椎浜ふ頭緑地は、香椎浜中央公園に隣接し、対岸にはアイランドシティを臨む緑地であり、もともとは港湾地域と住宅地域間の緩衝機能や修景機能などを目的とした場所である。敷地面積は約4万5,000m2で、用途地域/その他制限は、第二種住居地域/第二種20M高度地区。建ぺい率/容積率は、60%/200%となっている。ただし、この場所に新たに病院を建設するにあたっては、港湾計画の変更が必要になるとともに、地域住民や関係機関との調整も必要となるため、活用可能時期は未定となっている。

箱崎中学校
箱崎中学校

    箱崎中学校は、いよいよ再開発がスタートする九大・箱崎キャンパス跡地への移転が計画されている現役の中学校である。現在の敷地面積は約3万㎡で、用途地域/その他制限は、第一種住居地域/第二種20M高度地区。建ぺい率/容積率は、60%/200%。27~28年度にかけて箱崎キャンパス跡地内で新校舎の建設工事が行われ、移転後に旧校舎の解体工事や、区画整理工事などが5年程度実施される予定となっているが、その終了時期は確定しておらず、現時点では活用可能時期が未定。また、区画整理事業によって、敷地面積が減歩される予定となっている。

 今回、候補地は3カ所にまで絞られたものの、いずれの候補地も現時点では活用可能時期が未定となっている点がネックだ。その一方で、市民病院も千早病院も、施設・設備の狭隘化および老朽化が課題となっているほか、新興・再興感染症や激甚化する災害に対応した施設整備が喫緊の課題であり、新病院の早期整備が求められている。そのため、現在の3つの候補地については引き続きヒアリングなどを進めていく一方で、市では新たな候補地となり得る土地の探索も同時並行で実施している。

 新たな候補地については、増床に向けた取り組みの状況から新病院の病床規模を300~350床程度と想定。病床規模を最大350床程度とした場合には延床面積は3万5,000m2程度必要であり、この延床面積を満たす病院建築が可能な敷地面積1万8,000m2以上の土地を探す方針だ。

周辺と同様に跡地にはマンションか

 さて、今後まだ時期は定かではないものの、市民病院と千早病院が統合移転して新病院となっていく公算が高い。そうなると気になるのが、現在の市民病院の跡地活用だ。

 市民病院が立地している吉塚エリアは、福岡市の中心市街地の1つである博多駅から1駅のJR吉塚駅を中心に発展してきた。吉塚駅から西側に約500mの距離には福岡市地下鉄箱崎線・馬出九大病院前駅があるほか、エリア内には県道550号(妙見通り)と県道607号(パピヨン通り/吉塚通り)の2つの幹線道路が通っており、鉄道および道路の両方のアクセスが良好なのが特徴だ。駅西側には福岡県庁、福岡県警察本部、福岡県吉塚合同庁舎などの公的機関が立地するほか、東公園や九州大学病院、十日恵比須神社、複合商業施設「ブランチ博多パピヨンガーデン」などがある。一方の駅東側には、吉塚市場リトルアジアマーケットがあり、中小の工場や企業事務所などが立地するほか、低層の住宅地が広がっている印象だ。用途地域では、幹線道路沿いが商業地域(建ぺい率80%/容積率400%)で、JR線路から西側に第一種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)や第二種住居地域(建ぺい率60%/容積率200%)となっているほか、線路東側には準工業地域(建ぺい率60%/容積率200%)も広がっている。

 駅西側に位置する市民病院は、ちょうど妙見通りと県道607号が交差する妙見交差点に隣接しており、立地としては吉塚エリアでも一等地といえる場所だろう。周辺では吉塚駅前や幹線道路沿いに比較的築年数が浅いマンションが立ち並んでおり、代表的なものとしてはJR九州の賃貸マンションブランド「RJR」シリーズの「RJR吉塚駅前プレシア」(115戸、11年1月竣工)や「RJR吉塚駅前プレシアⅡ」(177戸、14年2月竣工)などがある。

 現在も周辺では新たな開発が相次いでおり、市民病院から道路を挟んだ向かい側の場所では(株)モダンプロジェによる店舗(飲食、物販)事務所ビルの「(仮称)modern palazzo 東公園Ⅱ新築工事」(25年3月頃着工予定)の開発が進もうとしているほか、そのすぐ近くの東公園に近接する場所では個人の建築主による賃貸マンション「(仮称)東公園Yマンション 新築工事」の開発も進んでいる。

左:(仮称)modern palazzo 東公園Ⅱ新築工事 右:(仮称)東公園Yマンション 新築工事
左:(仮称)modern palazzo 東公園Ⅱ新築工事
右:(仮称)東公園Yマンション 新築工事

 こうした現況を踏まえると、市民病院の跡地活用策として考えられるのは、低層部に商業店舗などのテナントが入居するタイプのマンション開発などだろう。前述の2棟のRJRも低層部には飲食店やジムなどがテナントとして入居し、中高層部は賃貸マンションという建付けであり、その並びで同タイプのマンションのニーズは相応にあると思われる。元が市民病院という土地柄を考えると、クリニックなどの医療関連のテナントとの相性は良いかもしれない。

 市民病院の移転をめぐっては、今回の審議会で千早病院との統合・再編が俎上に載ったほか、移転候補地も東区内の3カ所に絞られた。だが、統合・再編に向けた千早病院との協議はまだこれからのほか、現在候補地の3カ所についてはいずれも活用可能時期が未定であるなどの課題を抱えており、まだまだ一筋縄ではいきそうにない。今後、千早病院との統合・再編の可否や移転場所の決定など、引き続き動向が注目される。

(了)

【坂田憲治】

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