ガーデニングで治水対策 「雨にわ」活動が国交大臣賞(後)
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1月29日~31日にかけて「グリーンインフラ産業展2025」が東京ビッグサイトで開催された。初日には、第5回グリーンインフラ大賞の国土交通大臣賞と特別優秀賞がそれぞれ表彰され、国土交通大臣賞には、NPO法人雨水まちづくりサポート、(一財)世田谷トラストまちづくりによる「武蔵野台地における『雨にわ』によるNbSの普及・実証事業」が選ばれた。「雨にわ」とは、自宅のちょっとしたスペースで雨水が浸透しやすい土壌を整えて植物を植える庭のこと。雨樋から流れ込む水を貯める雨水タンクを併設しており、災害時の生活用水として利用できることも重要なポイントだ。一般市民が「雨にわ」のプロジェクトに参加することで、楽しみながら自然の力を生かした治水につなげる活動が評価された。
市民の主体性を底上げ
武蔵野市民が参加した
ワークショップのアイデア出しの様子
(提供:雨水まちづくりサポート)22年から始まったプロジェクトは、いくつかの候補地のなかから世田谷区の「おでかけひろばFUKU*fuku」での取り組みからスタートした。空き家の有効活用の1つで、子育て支援施設やカフェなどを併設した「おでかけひろばFUKU*fuku」の利用者などに対して、「雨にわ」を理解してもらうためのワークショップを2年半かけて開催していった。
一方の武蔵野市では、以前から公共施設である「武蔵野クリーンセンター」(武蔵野市緑町3丁目)のなかに、豪雨時に雨水が浸透して一時的に貯留できるレインガーデンを整備していた。そのため、雨まちでは、まずその仕組みを調査することから始めた。市役所とも連携しながら、候補地選びや市民が参加するワークショップ形式で「雨にわ」をつくる活動を23年末から24年前半にかけて実施。また、普及・発信活動として、国土交通省で毎年夏に行われる「こども霞が関見学デー」やエコプロ展への出展、個人で「雨にわ」をつくるための手引きの作成なども行っており、グリーンインフラ大賞への応募もこうした活動の一環として行った。
また、武蔵野市では、以前から戸建住宅を新築する際には、一定の雨水浸透マスの設置など「雨水排水計画」の提出が義務付けられている。ただ、近年は短時間に大量の雨が降ることが増え、従来の対策に加えて新たな治水対策の必要性が増していった。「雨にわ」は、ガーデニングの楽しさや、植物を植えることでさまざまな生き物が観察できるなど生物多様性の保全の面といった雨水の浸透以外の効果も期待できる。
東京都は、「家づくり・まちづくり対策」など下水道や河川整備以外の手法を組み合わせた豪雨対策を強化する方針を打ち出しており、今回のプロジェクトはこうした流れとも合致する内容となっている。「(豪雨対策の)メニューの1つとして民間の土地でできる雨水の浸透がありますので、『雨にわ』がその手法の1つになることを検討していきたい」(笹川氏)という。
(一財)世田谷トラストまちづくり
トラストみどり課主任の角屋ゆず氏
(提供:世田谷トラストまちづくり)「ガーデニングとして楽しむという点では、トラまちでの実績がありました。植物を育てる楽しみと生き物を観察する楽しみから市民が『雨にわ』をつくってみたいと思う主体性を底上げしていくプログラムを練り上げ、つくり上げていきました」(角屋氏)。その成果として、とくに子ども向けの環境教育啓発ツールをつくれたのではないかと評価している。ワークショップは、両団体がそれぞれ主催して、それぞれで実施場所を選定し、内容については保育士の資格者を交えて検討していった。
クイズ形式のWSも
世田谷区内では、区内の公園で行った技術ワークショップのほか、「おでかけひろばFUKU*fuku」で親子向けワークショップを開催。幼児を対象に「雨にわ」に雨が浸み込む様子を観察できるモデルを使ったワークショップや、生息場所と生き物を組み合わせながらクイズ形式のワークショップなどを行った。「植える植物の種類も個人が自主的に楽しむという点を重視し、地域の固有種ではなく、注意が必要な種以外はそれぞれが好きな園芸種を選んだ」(角屋氏)。
武蔵野市においては、市民向けのワークショップのほか、市職員向け技術ワークショップも実施。市の協力で「むさしのエコreゾート」の敷地内にある約15m2のスペースに「雨にわ」をつくった。ワークショップでは、「雨にわ」の役割や意義を学ぶとともに、庭のデザインや植える植物などについて参加者と相談をしながら決めていった。武蔵野市で複数回行われたワークショップは、中学生から70代くらいまでと幅広い年代の市民が各回十数人~20人程度参加。植える植物は「話し合いの結果、なるべく武蔵野で今育っている植物を植えよう」(笹川氏)ということになり、在来種が中心となった。掘り返しは一部専門業者の重機が入ったものの、参加者が用意した植物の植え込みを行うとともに植栽の手入れも行った。
杉並区との連携
「おでかけひろばFUKU*fuku」に設けた1坪の「雨にわ」では年間約2万6,000Lの雨水が浸透したと試算。雨水タンクがあり、その水が流れる先に「雨にわ」があることで、雨水の流れが可視化できるとともに、タンクだけでは効果が薄い治水への効果も期待できる。「むさしのエコreゾート」の「雨にわ」には計測機器を設置しており、モニタリングを実施して、昨年6月ごろから効果測定のために観測データを収集。約1年かけて観測結果を分析し、今後「雨にわ」をつくる際の基準づくりに役立つことを期待している。
「むさしのエコreゾート」に設置された「雨にわ」
(提供:雨水まちづくりサポート)「むさしのエコreゾート」と「おでかけひろばFUKU*fuku」の「雨にわ」は、誰でも見学できるようになっている。また、武蔵野市が杉並区の上流にあり雨水が下水道を通じて流れ込むことから、雨まちでは杉並区と連携して武蔵野市民の理解を深めることで、「雨にわ」の活動を通じた治水対策につなげていきたい考え。トラまちでは、「雨にわ」の維持・管理の仕方がわからないという声が多く寄せられていることから、維持・管理を学ぶ活動を定期的に実施するほか、今年度からは市民が「雨にわ」について気楽に相談できる体制づくりを進めている。同時に、地元の建築士会や造園士会と協力して、「雨にわ」の専門家育成の仕組み化について検討を始めている。
(了)
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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