【小売最前線】変化を恐れない者だけが生き残る テクノロジーと市場の進化が小売業界にもたらす未来(後)
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これから待ち構える熾烈な小売競争はテクノロジーへの対応が勝敗を分ける。アマゾンの成功から学ぶべき教訓は、変化に飛び込む勇気と適応力だ。臨界点に達しつつある市場環境を前に、覚悟ある小売業者だけが生き残ることになる。
変革2例 レジと店内広告
たとえば、今各スーパーのレジに見られるテクノロジー化とその進化を考えてみる。レジというのは、売上と利益の最終部分を締めくくる必要不可欠な部門だ。しかし、そこでは直接売上や利益が生産されることはない。できれば経費をかけたくないが、売上に対し2%前後の人件費が発生する。人件費全体で見ればその2割がレジに割かれることになる。
さらに、チラシを始めとする宣伝広告費にも同じ程度の経費が必要だ。この両者を削減するのがレジの自動化とインストア広告だ。買い物客はマスメディアに代わってスマートカートのタブレット画面でショッピング情報をリアルに受け取り、商品を選び、代金を決済する。そこには人を介したサービスが入り込む余地がない。デジタルはあくまで二進法だ。人を介した親切や配慮、思いやり、感謝といったアナログな世界はそこにない。従って人に関するクレームの発生率も低くなる。いわば氷の世界だが、AIという人間代行者はその進化の足を止めないだろう。それが新しいテクノロジーが生み出す明日のショッピングシーンだ。いくら過去を懐かしんでもそこには戻れない。
いま、セミセルフのレジを導入する店舗が増えている。お客自身がスキャンから支払いを自ら行うタイプと、スキャンは従業員で支払いだけをお客が行うという2種類が主流だ。ただ、このシステムには問題がある。お客がすべて行うやり方はスキャンミスや不正スキャンが発生するし、後者はレジ人件費削減の効果が薄くなる。
自動レジで最も理想的なのはユニクロが行っているRFID(Radio Frequency Identification)といわれる完全自動のレジシステムだ。買ったものをまとめてチェックカウンターに載せるだけで一瞬にして会計が終了する。いまのところ、RFIDタグが10円前後と単価が200円程度の食品につけるのはコスト的に無理があるが、コストの問題は時間が解決する。RFIDシステムは入荷チェックから在庫管理、棚卸まで使えるから、大幅な人件費削減が実現する。
これからさらに物価高が進むと、お客の価格志向はますます強くなる。売上が思うように伸びないなか、価格競争のための原資を生むためには経費節減が欠かせない。スマートカートなどの新兵器も含めて、IT化コストは膨らみ続ける。そうなると経営に極めて深刻な影響がおよぶ。
マッキーのWFMではないが、体力と革新力のない小売業の先行きははっきりいって暗い。現状を見ても、地方小規模スーパーの廃業が本格化し、中堅、準大手も提携、合併が進むのはその前兆だ。
ニッチの存在感が高まる 小売業第二の変革期?
今、全国には大小合わせて2万店を大きく超えるスーパーマーケットがある。立地の飽和と人口減少で以前に比べるとその出店は少なくなったが、それでも過去5年間、毎年120~160店舗の純増だ。
そんななかで、とくに目立つのがロピアやオーケーといった関東本拠のディスカウントスーパーだ。もともと市場が潤沢な首都圏を含む南関東での店舗展開だったが、オーケーが関西に、ロピアが全国に進出を始めた。とくにロピアは沖縄を含む17都道府県に急速出店し、福岡にもあっという間に6店舗を展開した。台湾にも5店舗を出店している。ロピアの急速出店を可能にした背景には、ららぽーとなど大手デベロッパーテナントとして出店するのに加えて、イトーヨーカドーやホームセンター跡への積極出店がある。かつてダイエーや寿屋といった旧総合スーパー(GMS)がボーリング場や映画館跡に出店したケースを見る思いだ。
だがダイエーやジャスコといった大手小売業が全国に出店したものの、地場スーパーの後塵を拝し、鳴かず飛ばずといった結果に終わった時代との大きな違いがSNSの存在だ。東京都や兵庫県の知事選挙に端的に現れたように、今や従来型のマスコミに代わって、直感的に双方向型コミュニケーションの興奮を呼び起こすSNS由来の情報が全世界を飛び回る。
オーケーやロピアは個性豊かな小売業だ。価格や商品特性で、従来型と店舗感を違えることで人気を集めている。それは価格競争力強化に資するから、テクノロジー化を実現できない小売業はロピアやオーケー、ハローデイのような特別な手法で生き残るしかない。それはテクノロジーの流れから外れて効率からの逆発想で店をつくることだ。手間ひまをかけた総菜、ベーカリー、生鮮。他店では手に入らない商品。楽しい店舗内装。親切な接客。顧客の要望を極力聞き入れるなどの「非効率経営」だ。
変化に飛び込めるか 覚悟の遅れは敗北へ
変化に対応するには労苦がともなう。思想を変え、習慣を変え、行動を変えなければならない。しかし、なにより大きな壁は、自分にとって都合の良くない情報を積極的に受け入れなければならないことだ。一般的に成功者はその軌跡を成功体験として記憶に刻む。併せて成功者はその同調者を重用し、彼らもまた同じような群れをつくる。かくしてトップから不都合な事実が遠ざかる。
「このままでは、当社は潰れるとわかっていた。しかし、自分が役員を定年するまでは何とかもつだろうと思っていた」。かつての九州地場大手流通業の幹部の言葉だ。
セブン-イレブンはかつて変化に自ら飛び込んだ企業だ。アマゾンも同じだ。両者が抵抗なく変化の流れに飛び込めたのは、忖度すべき成功者がいなかったからだ。しかし、彼らとて永遠の成功者にはなりえない。歴史は繰り返すからだ。
変化の始まりはゆっくりだが、ある時点を迎えるとそれは加速度的に進行する。いわゆる臨界点だ。臨界点に達するには複数の要素が必要だ。そして今、人手不足、賃金上昇、原価の高騰、機材、SNSの発達、コストダウン、社会情勢の変化という臨界条件があふれる。判断の遅れはそのまま旧日本型GMSの二の舞になる。
(了)
【神戸彲】
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