異次元金融緩和の多角的レビュー論評への違和感(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2月18日発刊の第373号「異次元金融緩和の多角的レビュー論評への違和感」を紹介する。収益力劇的向上
この10年間の日本の状況はどのように変化したか、いくつかの事実をご紹介しておきたい。第一に企業収益力が劇的に向上した。営業利益率はあまり変わっていないが、経常収益率は海外収益の寄与、金融所得の寄与により大きく向上した、さらに税引き利益率は実効税率の大幅な低下により著しく向上した。法人企業の売上高税引き利益率は、2010年の1%以下から5%へと急伸した。この企業の価値創造能力の急向上こそ、アベノミクス、異次元の金融緩和の成果であった。
企業余剰空前に
第二に企業の資金余剰が著しく高まった。GDPに対する企業のフリーキャッシュフロー(純利益+償却-設備投資)は2000年まではほぼ0以下であったが、以降急上昇し2023年には12%という高水準に達している。企業部門の手元流動性(現・金+短期有価証券)は2000年には160兆円、対GDP比30%程度であったものが2023年には321兆円、GDP比54%に高まっている。
企業からのペイアウト急増
第三に企業からのペイアウトが大きく向上した。法人企業統計における配当金の名目GDPに対する比率は2000年の0.9%から2023年には6%まで急上昇した。自社株買いも急増。企業による株式購入は2022年12.6兆円、2023年14.3兆円、2024年21.6兆円(GDP比3.5%)と急伸している。
日本企業はグローバル大投資時代に入る
第四に日本企業のグローバル投資ブームが起きている。日本企業の対外直接投資残高は2000年18兆円、2010年51兆円から2024年末には234兆円へと急伸した。この間の増加額は2021年16兆円、2022年20兆円、2023年23兆円、2024年31兆円と急増している。
これに法人企業統計の企業設備投資を加えたものが図表5であり、グローバル大投資時代に入っていることがうかがえる。石破首相がトランプ大統領に対米投資を2023年末7,800億ドルから1兆ドルに引き上げると約束した裏付けはここにある。
取り残される家計消費
第五に家計消費が犠牲にされてきた。実質個人消費支出を振り返ると、過去10年間では、2014年3月の消費税増税(5→8%)直前の2014年1~3月の310兆円がピークで、その後一度もそれを上回っていない。(1)円高デフレ下の賃金抑制、(2)消費増税と社会保険料の値上げ、(3)インフレによる実質所得減の打撃をもろに受けたのである。
脱デフレ好循環のカギは、家計の消費意欲の鼓舞
幸い日本の産業衰弱は、危機寸前でくいとめられたが、家計消費の衰弱が続いており、脱デフレの好循環には至っていない。日銀は取り残された家計に企業の余剰を還流させる政策に腐心すべきである。
インフレによる実質所得減少に対処するために、利上げが必要だ、との一部日銀スタッフの議論に妥当性があるとは思えない。利上げは総需要を抑制すること、円高になれば日本賃金の国際比価が高まり賃上げ圧力を減退させること、の2点から賃金引き上げにとって、明らかに逆効果である。
昨年の植田ショックの再現は絶対に認められない。
(了)
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