【連載】コミュニティの自律経営(34)~公約事業の進捗状況の公開
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。「承の巻」~何を変えたのか
公約事業の進捗状況の公開
市長公約は先に述べた通り、3段階で示し、重点政策として、3つの柱と15項目程度の重点政策を掲げ、そのなかでも「すぐやること」として、4つの政策の優先順位を明示し、具体的なプログラムとして、43項目の個別政策を掲げた。市長就任後1年程度経過した後、庁内での共有を図るため、庁内のオンライン掲示板で公約を掲示した。また、その当時政策決定機関であった「政策会議」において、公約事業ごとに進捗状況を把握することとした。対市民には、任期半ば、3年目の記者会見(H13.12.4)において、公約事業ごとの進捗状況を公表した。進捗状況としては、「実施済み」「一部実施」「趣旨を踏まえて実施」「検討中」の4段階だった。マスタープランの実施計画ならともかく、市長公約事項の進捗状況を取りまとめて公表する事例は当時ほとんどなかった。少なくとも福岡市政では初めてのことだった。ローカル・マニフェスト運動のスタートが平成15年(2003)の統一地方選挙からだから、それと比較しても先進的な取り組みだった。
広太郎さんは、平成8年(1996)の小選挙区初の衆院選でのマニフェストの原型とも言える新進党の「国民との契約」の体験が頭にあり、福岡市政史上現職およびその後継者が落選したのは初めてだったので、選挙公約が大きな意味を持つことから、組織の内外にしっかり公約が浸透するよう、このような進行管理/公表に踏み込んだ。第1回「ローカル・マニフェスト推進大会・九州ブロック」~ゲームを変えよう~(平成17年1月30日/福岡市中央市民センターで開催)に『山崎市政の検証~マニフェストに先駆けて~』と題して講演し、「甘い評価は何も与えてくれない」とも語っていた。
〇市役所組織内での共有/進行管理
・市役所内のオンライン掲示板で公表
・市の政策会議で進捗状況を把握
〇毎年、記者会見にて公約事業ごとに進捗状況を市民へ公表
・4段階評価→「実施済み」「一部実施」「趣旨を踏まえて実施」「検討中」
〇平成13年(2001)12月4日(任期中間点)「実施済み」23項目、「一部実施」9項目、「趣旨を踏まえて実施」6項目、「検討中」5項目。
〇平成14年(2002)9月(3年目)「実施済み」25項目、「一部実施」10項目、「趣旨を踏まえて実施」6項目、「検討中」2項目。財政の健全化の取り組み
市長選挙時には「財政危機宣言を行い、財政再建に取り組む」としていたが、翌年の決算委員会では、「『財政再建』という言葉は適当ではない。健全財政を維持し、弾力性を保つという考えに立つ」と答弁を転じていた。しかし、財政の健全化には多くのエネルギーを費やした。当時の友池助役も「山崎市長は今の財政状況ではやりたいこともできずお気の毒」と発言されていた(H11.12.9毎日新聞)。
(1)プライマリーバランスの達成
年度の経費をその年度の収入で賄うという財政健全化の目安を、当初目標を前倒しして、12年度決算から達成し、国に先駆けて財政健全化へ舵を切った。また、将来税金で返さなければならない市民1人あたりの市債残高の削減を達成(平成17年度には全会計での市債残高が減少した)。(2)市債依存体質からの脱却
市長就任以降、市債発行額を毎年縮減し、平成10~14年度で約400億円を縮減、急速に市債依存体質から脱却しつつあり、国の都合による起債を除くと、市債依存度は8.5%と、過去の福岡市政のなかでは最も市債に頼らない財政運営へと転換している。(3)経常経費約150億円の削減
すべての事業の経費に踏み込んだ必要性の検討、見直し、さらには見直しインセンティブ予算や枠配分予算などの予算要求や査定の工夫を行い、大幅な削減を実現。(4)さまざまな予算編成手法の工夫
見直しインセンティブ予算や節約インセンティブ予算、さらには枠配分予算など、各局の自発的な見直しを喚起し、予算の無駄遣いを追放する一方、最重点分野の設定やアイデア予算の執行などにより、限りある資源を最大限活用できるよう、さまざまな創意工夫を凝らしている。これらの取り組みにより、先述した市債の格付けがAA−からAAへのアップとして実現したことが、財政健全化の何よりの証左だと言ってよいと思う。
前例なき方策でNPO政策のフロントランナーへ
僕のNPOとの出会いは、先に書いた通りであり、分権社会に欠かせないインフラとの思いから、市長公約を検討するうえでも真っ先に取り上げ、「市民活動(NPO・ボランティア)支援策の全面的展開」として、NPOセンターの設置などを掲げた。しかし、NPO法は成立したばかりで(1998年3月25日公布)、当時の市当局は、こういう団体って、いろいろ行政にもの申してくるような団体なんじゃないか、そういう団体に支援するのか?程度の認識だったことを記憶している。
1年以上経っても、まったく動きが見えてこず、NPOふくおかの理事長であった今里滋/当時九州大学大学院教授からも、「どうなっているのか」との注文をいただいていた。広太郎さんと一緒に今里さんを訪ねて、これからの進め方を相談した。
方法は2つ、(1)NPO支援策のノウハウを持ったところに外注する。(2)外部の専門家を福岡市で登用する、だった。
(2)の場合の候補者は、当時NPOふくおかの事務局長で西部ガス(株)の社員だった加留部貴行さんだった。今里さんから本人の意向をそれとなく確認してもらい、市長には即西部ガス(株)の平山良明社長に加留部さんの出向を直談判してもらった。幸い話はトントン拍子に進み、平成13年(2001)10月1日付で、福岡市NPO・ボランティア支援推進専門員(市民局地域振興部総務課→市民局コミュニティ推進部ボランティア・NPO支援課)として出向していただくことになった。
その際、市民局の担当部長からは「市職員を信用できないのか」と強い抗議を受け、人事担当部局からは、民間企業からの出向受け入れは初めてで、全国的にも例が少なく、健康保険や年金などの移行手続きルールがなかったため、「こういうことを上で決めてもらったら困るんです」との苦情もいただいた。私からは、「市職員を信用するとかしないとかの問題ではない、少なくとも市職員のためのNPO施策じゃない」「こんな前例のないことは下からあげたらできないでしょ!」とやんわりお返ししておいた。
しかし、加留部さんの人柄と能力はいっぺんで市民局の職員を虜にし、学生時代から市民局とはつながりを持っていたことも功を奏して、あっという間に彼は「市民局の星」になってくれた。そしてNPOセンターの設置に向けた市民検討会のコーディネーターを務め、活動の現場起点のゼロベースから議論を重ねて、翌年2月にはボランティア・NPOセンターの基本計画が策定され、平成14年(2002)10月6日「福岡市NPO・ボランティア交流センターあすみん」が開設の運びとなった。
加留部さんの出向期間の約束は1年半、期限は平成15年(2003)3月までだったのだが、センター開設後の課題も多く、任期を1年延ばせればだいたいの見通しがつくとのことで、もちろん市民局は大歓迎。加留部さんもキチンとやりあげたいとのことで、簡単に考えて、広太郎さんに派遣期間の延長意向を伝えた。
ところが広太郎さんは、「そりゃいかん。約束はちゃんと守らないと。これで加留部君の将来に傷がついたらどうするつもりか」と一喝。まったく不意を突かれて、そんな風に考えてくれていたのかと、胸が熱くなる一方で、自らの不明を恥じた。この話は結局、西部ガス(株)さんにもご理解いただいて円満に1年延長となり、加留部さんには、「あすみん」の活動をしっかり軌道に乗せていただいた。
「あすみん」は、九州始め各地から羨まれ、目標とされるセンターとなり、令和4年(2022)10月に開設20周年を迎えている。このような「あすみん」の誕生に関わった一人であることの秘かな自負をお許しいただきたい。
その後、加留部さんは新たなミッションを求め、西部ガス(株)を退職して独立、現在は加留部貴行事務所AN‐BAI代表、九州大学大学院統合新領域学府客員教授として、「ひとり産官学民連携」のコラボレーターの強みを活かし、さまざまな分野から引く手あまたで全国を飛び回っている。なかでもとくに、「福岡市/行政内部での経験が大きく役立っている」との言葉に、きっと広太郎さんも安心して喜んでくれていることだと思う。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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