女性・女系天皇認める皇室典範改正

政治経済学者 植草一秀

 皇位継承問題についての国民の最大関心事は愛子さまが天皇になるのかどうか。女性天皇、女系天皇を容認する国民の声が圧倒的に強い。これに反対する勢力は「万世一系の男系男子」を主張する。その際、最重要になるのは「万世一系の男系男子」という「事実」が存在するのかどうかである。

 歴史学の一般的学説は「万世一系」と「男系男子」のいずれをも否定する。天皇家は「万世一系」ではないと見られている。また、「男系男子」が永続してきたという「説」も誤りとする。皇位継承問題においては、この点の「歴史上の事実」を確認することが優先されるべきだ。「万世一系の男系男子」はフィクションであるとするのが歴史学の見地。大日本帝国憲法制定時に定めた原理でしかない。

 「例外のない男系継承」は『古事記』、『日本書紀』=『記紀』を根拠としている。しかし、これは8世紀前半に中国を模倣した律令制採用と同時に流入した中国の男系宗族制度観念から埋め込まれたもの。このことを歴史学が明白にしている。

 初代から9代の天皇の系譜は以下のとおり。

初代 神武(じんむ)紀元前660〜585年:享年127歳
2代 綏靖(すいぜい)紀元前581〜549年:同84歳
3代 安寧(あんねい)紀元前549〜511年:同57歳
4代 懿徳(いとく)紀元前510〜477年:同77歳
5代 孝昭(こうしょう)紀元前475〜393年:同114歳
6代 孝安(こうあん)紀元前392〜291年:同137歳
7代 孝霊(こうれい)紀元前290〜215年:同128歳
8代 孝元(こうげん)紀元前214〜158年:同116歳
9代 開化(かいか)紀元前157〜98年:同111歳

 2代から4代以外の6人が100歳以上まで生存。137歳まで生存した者さえいる。この9名に関する事績の記録はほとんど存在しない。第10代の崇神(すじん)天皇から第25代武烈(ぶれつ)天皇までの実在も極めて不確かである。

 この期間の初期の天皇の長命も奇異である。特異な存在が第26代継体天皇。即位は507年。越前の支配者から天皇に即位。応神天皇の5世孫とされ、200年前に天皇の血統から分岐したとされるが極めて不確かである。25代と26代の間に血統の断絶があるとの見方が歴史学では有力なのだ。

 『選択』2026年5月号記事「皇統「男系継承」という幻想の世界」によると、26代継体は24代仁賢(にんけん)天皇の皇女を正妻に迎えている。さらに、継体の子である27代安閑(あんかん)、28代宣化(せんか)はともに仁賢の皇女を正妻に迎えている。これを上記『選択』記事は「前王朝への婿入り」であるとし、「女系」の血統での正統性担保であったと指摘する。

 同記事は「入り婿・女系継承という“不都合な真実”が歴史に埋もれている」と指摘する。「万世一系の男系男子」がフィクションであることを明らかにしたうえで皇室典範を改正する必要がある。

 「男女雇用機会均等」「男女共同参画社会」「ジェンダー平等」などが提唱されてきた。皇位継承における「万世一系の男系男子」は歴史の真実として確実に存在しているならともかく、歴史の真実として存在していない「フィクション」であるなら、否定されるべきものである。
現代日本政治の根幹に置かれているのは日本国憲法。

 日本国憲法は「法の下の平等」を定めている。日本国憲法第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 皇位継承について日本国憲法は第2条で次のように定めている。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

 その「皇室典範」に問題のある規定がある。

皇室典範第1条
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
この皇室典範第1条が日本国憲法第14条が定める「法の下の平等」に反している疑いが強い。

 「男系男子」を法定化したのは大日本帝国憲法。大日本帝国憲法の第1条から第3条は以下のもの。

第一條
大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第二條
皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ繼承ス
第三條
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス

 自民党は「男系原理」が「歴史上例外なく続いてきた」とする。2024年4月の自民党の「安定的な皇位継承の在り方に関する所見」でもそう主張している。しかし、「男系男子の万世一系という日本の伝統」は事実に反する。単に、大日本帝国憲法制定時に定めた原理でしかないというのが実態と思われる。

 天皇の系譜をたどると「万世一系の男系男子」という単一原理が一貫した原則として存在した形跡がない。性別・父系・母系にとらわれず、時の権力の中心にいた皇族が皇位を継承してきたというのが実態。それが、1889年の明治皇室典範において、突然「男系男子のみ」という原理がすべてであるとの取り決めが置かれたと見るのが適正。

 「万世一系」という表記も、古事記や日本書紀にはなく、1889年の大日本帝国憲法第一條で「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」で初めて表記されたもの。高市首相は2月27日の衆院予算委員会で安定的な皇位継承の在り方に関して、2021年の有識者会議報告書に触れて、「男系男子に限ることが適切とされている。私としても尊重している」と述べた。

 しかし、報告書は皇位継承資格ではなく皇族数確保策として養子となり皇族となる対象を「男系男子に限る」としたもので、高市首相発言は事実に反する。歴史の真実に照らし、女性天皇・女系天皇が誕生することに問題は何もない。

 憲法の規定を踏まえて、大日本帝国憲法の下で突如定められた皇室典範の系譜を引く、現在の皇室典範第1条
第1条
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
を改正し、女性天皇・女系天皇を認めることが適正な対応である。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』

関連記事