連載】コミュニティの自律経営(36)~総括 2期目を目指した市長公約ペーパーより

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 元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
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総括 2期目を目指した市長公約ペーパーより

 「1期目の任期中には、過去借金体質になっていた市の財政運営を軌道修正し、その年度の歳出を借金以外の収入でまかない、後の世代に負担を残さない、いわゆるプライマリー・バランスを国に先駆けて達成しました。また大規模事業点検や予算編成手法の見直し、DNA改革の進展などにより、市政改革全般について全国的に高い評価を頂けるようになりました」。平成16年(2004)の関西社会経済研究所の調査(人口10万人以上の市区)で、行革の取り組みが全国第2位と公表されていた(H16.5.13 西日本新聞)。

3つのビジョンと2つのプロジェクト

 手元に「これからの福岡市政について」として、3つのビジョン((1)自治都市・福岡、(2)ビジターズ・インダストリー、(3)フォア・ザ・九州、フォア・ザ・アジア)と2つのプロジェクト((1)アイランドシティ、(2)新福岡空港構想)が記載された平成13年(2001)10月付けの市長室報道課のチラシがある。どういう経緯で浮上してきたのか記憶が定かではないのだが、平成14年6月議会では、福政会の渡辺健生議員の3つのビジョンと2つのプロジェクトを進めるべきとの質問に総務企画局長が答弁しており、その時点では何らかのカタチで市全体でもオーソライズされていたものと思われる。その年11月の市長選挙の公約の柱として、その3つのビジョンも含まれ、2つのプロジェクトも明記されていた。

 広太郎さんの都市づくりの哲学として、「都市は生き物であり、発展するか衰退するかの二者択一しかない。現状維持はあり得ない」というのは何度も聞いていたが、僕のなかでは開発行政への先祖返りではないかとの違和感もあった。

 市長退任後の平成22年(2010)、九州大学とのオーラル・ヒストリーでのインタビューでも、「発展の意味が開発に聞こえるが」との質問を投げかけられた。広太郎さんは「都市としてのテーマを持っているかどうかが大事で、東京一極集中はダメで、それぞれの地方が特色を活かした分極化を図るべきである」「アジアとの接点は福岡が務めるべきで、つながりを強めるための投資は必要である」と主張していた。新空港については、新宮沖は非現実的で、「雁ノ巣飛行場の拡張を中心に考えるべきであり、滑走路増設案は、何年持つかわからぬ暫定措置だ」と切り捨てていた(『山崎広太郎オーラル・ヒストリー』2011)。

 今回、新聞をめくっていて、平成15年(2003)3月の記事で「福岡市長、必要性を強調」との見出しを見つけた。「新宮沖構想は海上空港で莫大な金がかかる、4、5千億円でつくらなければならない。これを市民に訴え、住民投票にかけてでも決めなければならない」と商工会議所主催の講演で語っていた。この当時は新空港問題が争点とされていた福岡県知事選挙の告示が目前だったが、国が現空港の活用や近隣空港との連携を含めた調査を打ち出していたことから、争点から消えつつあるタイミングであり、一石を投じておきたかったのだろうか?雁ノ巣飛行場の拡張案は、市長サイド(民間のブレーン)ではかなりフィジビリティスタディを進めていて、図面をいつも背広のポケットに入れていた。僕が反対論者なので、会えばポケットから図面を取り出して、東区の僕の住まい周辺でも騒音の心配がないことを力説していた。さらに「飛行機が市街地を飛来するという目の前の不安を政治・行政が看過することは許されないし、当事者として『腹をくくる』ことが大切で、成り行き任せではいけない。都市の将来を左右するような課題は、市民の意見に振り回されず、トップが責任を持って決断することもある」とも語っていた。

 いよいよ福岡空港の混雑ぶりは激しく、羽田発福岡行きの最終便は引き返すリスクがあって怖くて乗れないという評判であり、滑走路増設の効果は限定的であるとされる昨今、あの厳しい経済/財政環境のなかで縮小均衡に陥らず、福岡市の未来を描いていた広太郎さん。それがトップというものなのかと、遠い目で感じている。

(つづく)


<著者プロフィール>
吉村慎一
(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)

『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411

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