逆開発の可能性(前)~森を追われた先にあるもの~(1)
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森を追われた先にあるもの pixabay よみとり能力を養う
ゴリラよ、お前はかわいそう
冷たい檻のなか、ただ1人
何を考えている…100万年以上前、地球が乾燥し始め、森林は次第に後退を始めた。樹上に棲んでいた猿たちは生活の範囲を縮められていき、強い猿は自分の生活空間を確保したが、弱い猿は森からはみ出してしまった。棲む木を失いさまよった猿は、新しい環境に順応できずに滅びていったものも多かった。そのなかでわずかに生き延びる術を見出したのが、人類へと進化していったのだそうだ。そして今、かつては王者として森を支配していたゴリラは、森から追われた人間(弱い猿の子孫)に捕らえられ、檻のなかに入れられて…といった状況。
こうした違いに至った分かれ目は、人間が自分を取り巻く空間に対して、そこから送り出されるたくさんの情報について、常に新しい「よみとり」の能力を養ったからだという。おそらくこれからも周辺の状況変化に対応して、柔軟によみとりのできる者が生き残り、過去のよみとりにこだわる者が窮地に追い込まれるのだろう。
よみとり能力を養う
マジックアワー(福島潟の蓮池・新潟市)© koichi_hayakawa
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ビジネスの世界では「インサイト」とよく叫ばれ、このインサイトを基に商品開発やコンテンツ開発、サービス開発などの新しいものを企画していく。“潜在的な欲望”と直訳するが、すべての企画は“インサイトをつかむこと”が重要なのだと。しかし、“生活者の欲望に寄り添う”このインサイトの過剰崇拝は、とても危険だ。売れるもの(稼げるもの)を企画するだけでは、偏った開発を掘り起こし、各産業で節操なく突き進む商流を止めることは難しい。インサイトは時に暴走する。ゆえに欲望の傍らには常にレギュレーションを携え、その勢いの均衡を保たなければならない。
森林経営というソリューション
森林、土壌、水、大気、生物資源──自然によって形成される資本を、「自然資本」として評価する動きが世界的に高まっている。日本全国に75カ所、約4万5,000haの社有林を保持管理している三井物産(株)(東京都千代田区)は、2019年に導入した航空測量により、データによる森林管理を大幅に進め、「100年先の森をつくる」挑戦を始めている。
航空測量データを活用した大規模な森林J-クレジットの創出、その活用を通じて地域の森林管理を効率化し、再造林の促進や地域経済の活性化まで取り組む。J-クレジット制度とは、カーボンクレジット(企業や組織が実施した温室効果ガスの削減量や吸収量を認証して取引可能な権利としたもの)の1つで、経済産業省、環境省、農林水産省が共同で運営し、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの利用、そして森林管理を通じたCO2の削減・吸収量を国が認証する制度だ。
認証されたクレジットは経済的価値をもち、売買が可能になる。これまで、自然資本はタダ同然で扱われてきた。しかし、自然資本がなければ、環境・経済・社会どれにとっても良い状態につながらないことから、価値あるものだと認識されるようになってきている。ようやく自然資本は、社会にとって必要な資本の1つとして評価されてきた。消費されてしまった自然を再生し、消費よりも再生が上回るような回復基調にしていくことを「ネイチャーポジティブ」と呼ぶが、木を売る以外に収益を上げることが難しいなかで、木を育てる過程そのものがクレジット化できる仕組みは、林業にとっても心強い支えになるだろう。
森林が気候変動対策や自然資本として注目され始めた今、そのさらなる価値向上をともに目指してくれる企業を増やし、単にJ-クレジットをつくって売買して終わりというアプローチではなく、その先で必要とされる価値をいかに創造できるかに挑戦する。事業を通じたネイチャーポジティブの達成や森林DX、J-クレジットの取り組み、環境価値の創造と経済価値の両立という新しいモデルをつくるのが、「森林経営」という三井物産のソリューションだ。
森林経営というソリューション 三井物産HP (つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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