【連載】コミュニティの自律経営(37)~2期目公約と三位一体経営戦略プラン
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。「転の巻」~次の展開は何か
2期目公約と三位一体経営戦略プラン
市長選挙を跨いで、基本計画を策定中だったので、市長選前は、素案までの作成とし、公約は、基本計画の素案を下敷きにしながら、「自治都市・福岡」「元気都市・福岡」を目指した5つの柱と99項目の具体的なプログラムを提示し、1期目の公約とは異なり、基本計画に組み込み、具体的な事業は実施計画に落とし込まれていった。
今回は庁内からの協力をもらいながら(随分持ち込みもあった、ボトムアップでは通らないので、公約に入れ込むとか?)報道担当部長だった広川大八君や若手のY君などとも侃々諤々詰めていって、僕のところで取りまとめた。ボトムアップの部分最適の寄せ集めではない切れ味や全体最適の方向性はクリアになるが、各局からすると自分たちがつくったものではないが故に、自分ごとにならない、やらされ感。選挙公約=マニフェストって、現職になると、リソースはたっぷりあるのに本当に難しい。
(1)市民のために、市民とともに、「自治都市ふくおか」を築きます。(19項目)
(2)今日と未来の安全・安心を築きます。(26項目)
(3)イキイキとしたまち・福岡を築きます。~おもてなしの都市づくり(24項目)
(4)九州・アジアの未来を拓く挑戦都市を築きます。(7項目)
(5)市民に信頼される「自治体経営先進都市」を築きます。(23項目)2期目の市長選は石井氏の出馬断念もあり、ほぼ無風に近いもので、得票も199,821(前回188,539票)と伸ばしていた。
公約としては期限等を明示しなかったので、市長公約事業行程表をつくり、取り組み方針、スケジュール、進捗状況や予算額を経年変化と共に市民に公表した。平成15年(2003)5月15日の市長会見でも、マニフェスト的な意味合いを持つもので、全国でも新しい試みであるとしていた。また、毎年の予算資料に公約事業関連経費を明記するなど、いずれも画期的な対応だった。さらに、これらを踏まえ、「政策推進プラン」「行政経営改革プラン」「財政健全化プラン」を三位一体の「市政戦略プラン」として策定していくこととし、その策定方針を公約事業行程表と同時に公表した。
◆市長公約事業(行程表)の進捗状況
平成15年(2003)5月15日 実施済み3、一部実施34、着手37、検討中25
平成16年(2004)6月29日 実施済み10、一部実施50、着手26、検討中13
平成17年(2005)7月19日 実施済み20、一部実施63、着手16、検討中0
平成18年(2006)6月27日 実施済み34、一部実施56、着手9、検討中0三位一体の市政経営戦略プラン策定方針
~DNAセカンドステージへの展開~〇この4年間に取り組んできたDNA改革の成果と反省を踏まえ、「運動からシステム改革へ」と、新たなステージへの展開を図る。
<DNA改革の成果>
現場レベルでの仕事のやり方や組織風土の変化
・戦略的行政経営への転換の着手(局経営戦略)
・意思決定のあり方の改革(経営会議)
<DNA改革の反省>
・行政システム全体への改革の取り組み不足(資源配分システム、庁内分権化)
・財政/コストの視点での踏み込み不足(財政フレームに沿った事業の選択)
・新たな発想での施策提案や改善、大胆な事業見直しの不足(民間委託、民営化等)〇自由闊達で人輝く「自治都市・福岡」「元気都市・福岡」の実現を目指し、その実現方策として、「コミュニティの自律経営」の考え方を中軸に据えながら、政策推進、財政健全化、行政経営改革の3つのプランを三位一体で策定(プラン策定にともない「第二期事業点検」を実施)し、行政の発想や手法の見直し、限られた資源の再配分と有効活用を図り、戦略的な都市経営を推進していく。
〇市政改革の方向〜市民・民間・職員の力を引き出し、共働する市役所へ
・市民・地域の力を引き出し、共働を進める。
・民間の力を引き出し、九州・アジアの未来を拓く挑戦を進める。
・職員の力を引き出し、経営体制の見直しや組織風土づくりを進める。◆三位一体の市政経営戦略プランは1年がかりで作成され、平成16年(2004)6月、「政策推進プラン」「財政健全化プラン」「行政経営改革プラン」として、3つのプランが一体的に、また相互に連携を図りながら推進していくこととして公表された。こうした「プラン」の策定に当たってその具体的な策定方針や工程表が公開されていったことは、当時のDNAセカンドステージへの勢いを感じるし、初めて財政の中期見通しが明示されて、その財政フレームに沿いつつ、市役所自身の改革を進め、施策や事業の選択と集中を進めようとする戦略的な都市経営への意気込みも感じられていた。しかし「プラン」づくりは魔物である。この時点で、局区レベルの戦略計画づくりは10局を数えていたにもかかわらず、市全体のプランでは、結局のところ、WhatはあるがHowがない総合計画の罠(ボトムアップ、網羅的、一律平等、間違いない)に嵌まってしまったのではないだろうか。いよいよ全体最適を描くための経営体制の整備が不可欠となってきていた。それはもっともっと険しい山なのだけど。また、中軸に据えるとしていた「コミュニティの自律経営」がどこに行ったのか、三位一体市政経営戦略プランの根底となるはずの「コミュニティ推進プラン」はつくられないままであり、「コミュニティの自律経営」が中軸に座ることはなかった。結局のところ三位一体の経営戦略プランは中軸を失い、「プラン」は連動せずに、「それぞれ」になってしまったのではないだろうかと、今にして思う。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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