空き家リノベで地域活性化 「長崎坂宿プロジェクト」

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小笠原企画 代表 小笠原太一 氏

空き家が多い長崎市で

 長崎市は傾斜地が多いまちだ。また、空き家も多く(市全体で約15%)、住民の高齢化、建物の老朽化による空き家の増加という問題を抱えている。その長崎市において、「長崎坂宿(さかやど)プロジェクト」という、地域活性化に一役買おうとする事業が進行中だ。空き屋となっていた古い民家をリノベーションし、民泊施設として人を呼び込むほか、地域の人たちの集いの場、暮らしの利便性を高める場を形成しようというものだ。

フロント棟
フロント棟

    長崎坂宿は、長崎電気軌道の「思案橋駅」から山側に坂を約10分登った場所にある。そこに現在までに宿泊施設7軒、フロント棟、レンタルスペース、テレワーク施設などが散在するかたちで配置されている。プロジェクトを推進しているのは、福岡市に拠点を置く小笠原企画の小笠原太一氏だ。いずれも築年数がかなり経過した木造平屋建の空き家をリノベーションしたもの。明治時代に建てられた建物もある。「最初の1軒は私が50万円で購入したもので、自ら設計し自費でリノベーションを行いました。その他の建物はそれぞれの所有者から出資を受け、私が借り主となっています。民泊施設にはインバウンドの利用が数多くあります」と小笠原氏は話す。

1902年(明治35年)に建てられた長屋を2人利用の部屋にリノベーションした客室
1902年(明治35年)に建てられた長屋を
2人利用の部屋にリノベーションした客室

    同氏はもともと、傾斜地に広がる景観の良さに惹かれ、この地で事業を行うことを決意したそうだ。インバウンド客の志向は、モノの消費からコトの消費へと変化している。「日本や長崎市の日常生活を体験したい」という彼らのニーズに対応し、しかも大人数で宿泊できることが彼らの宿泊ニーズをつかんでいる。

 周辺地域は長崎市全体の例に漏れず空き家が多く、そして高齢化が進んでいる。そこで現在は、長崎坂宿では地域住民の利用も考慮し、無人コンビニの設置やキッチンカーを呼び込むための設えを整備中だ。周囲の地主を中心に地域の活性化に貢献してくれる協力者も増えてきたという。

ソーシャルディベロッパーとして

 小笠原氏は「大規模な開発ではなく、小さなリノベーションという点を面に広げていく事業者を『マイクロデベロッパー』という言い方をしますが、私はそこに自分なりの色を加えて、社会課題を起点とした開発に重きを置いた『ソーシャルデベロッパー』として活動していきたい」と話している。同氏は長崎坂宿の活動を学び体験し、企画や運営の裏側がのぞけるスタディツアーも開催。そのなかでは、自身が実際に業務で作成している企画書を参考に、参加者に事業計画書を作成してもらうといったことも行い、好評を得ている。

 こうした取り組みについて小笠原氏は、「私は空き家活用にこだわっているわけではありません。たとえば民泊でも、それがすべての地域に適しているわけではありませんから。企業や地域の課題に対して“こんな空間があったらいのではないか”を考え、最適なアプローチをするきっかけになればと考えています」とも話している。

【田中直輝】


<プロフィール>
小笠原太一
(おがさわら・たいち)
小笠原企画 代表 小笠原太一 氏大阪府出身。一級建築士・ソーシャルデベロッパー。30歳で中国・上海に渡り、10万m2超の大型商業施設や、クリエイティブオフィス「創意園」の設計・開発などに携わる。2016年に帰国後は福岡市に移住し、小笠原企画を創業し今に至る。

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