逆開発の可能性(前)~森を追われた先にあるもの~(2)
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どうするグランドデザイン
新たなグランドデザインは? pixabay 日本の大学には、従来から「土木工学」という分野があったが、「都市計画」が注目され始めたのは1960年代から。62年に東京大学の都市工学科、66年に早稲田大学の都市計画専修コース(建築学科の卒業生に向けた大学院のコース)がつくられた。建築家・都市計画家の吉阪隆正は、この専修コースの創始者である。
(参考文献:『〈迂回する経済〉の都市論_吉江俊』)人々が東京オリンピック(64年)と大阪万博(70年)に熱狂した当時、建築家・丹下健三は東京湾を埋め立てて都市を際限なく拡大させる「東京計画1960」を発表し、田中角栄首相(当時)は新幹線と高速道路による巨大な交通網の建設、地方都市への工業再配置による「日本列島改造論」(1972年)を提唱していた。
これに対して吉阪らが発表した東京計画(1970年)は、東京の中心にある山手線内部を自然に還すことだった。この公園は「昭和の森」と名づけられ、あらゆる方向から放射状に張りめぐらされている東京のどの鉄道からもアクセスできる。さらに吉阪は、東京の微地形(丘や谷、川などのヒューマンスケールな地形の特徴)に沿った「キレメ計画」なるものを提案している。当時人口1,000万人を超える勢いで成長していた東京で、埋もれてしまった自然地形を生かし川筋を掘り起こすことで、20~30万人段階、3万人段階という2つの段階に区分けしていき、エコロジカルで市民参加のしやすいまちの単位をつくるというものだった。吉阪がなぜこのような途方もない提案をしたかというと、都市の肥大化が人間個別の存在をないがしろにし、人々は帰属するものがなくなり、路頭に迷うことになるのではないかという危機感からだった。
ほんの150年前、日本には3,000万人ほどしか住んでいなかったが、21世紀には1億人を超える人がほぼ同じ面積に住んでいる。都市の組み立てや大きさが人間の身体的な能力と再び呼応するように、人間と自然そして現代においてはテクノロジーを絡めた機械構造の3つを並べ、それらを循環させる空間に組み直す必要があると吉阪は訴えた。人口減少の波は、もしかすると適正なかたちに戻るための始まりかもしれない。人が多く住めば、自然に与える影響も大きくなる側面があるのは否めない。日本列島の新たなグランドデザインを見通すためのきっかけを、私たちは過去から学ばなければならない。
里山の風景
かつて集落は里山から始まった。里山にある自然のほとんどは、人の関与によって生まれたものである。田畑が広がるなかにため池や小川が流れ、所々雑木林の残る小さな山があり、人家や草地などが点在。多くは平野と山地が出会うような場にある。昔から人々の生活に密着した森、山もさほど険しくなく、気軽に入れる場所だった。家屋や農地、道はもちろんだが、池も人が貯水のために掘ったものだ。小川も農地へ水を引くルートへ流れを改変・分岐させたところが多い。当然、川底を浚い護岸も施す。
里山環境が誕生したのは、一般に思われる以上に古く、日本列島に人間が住み着いてからの歴史と大きく絡み合っている。古代の日本は、山と平地が接した地域こそ人口密集地だった。平野部は見通しが効かないうえ、水の欠乏あるいは河川の氾濫などが頻繁にあり、必ずしも住み心地が良いわけではなかったからだ。また木材を始めとして山の産物を得やすく、敵に備えるためにも、高台のほうが有利だったのかもしれない。
だから縄文・弥生時代から飛鳥時代の集落は、大抵が山麓部に誕生していた。人が住み、集落を築くために森を切り拓いた。住居の材料を得るために木を切り燃料にした。農耕が始まり、最初は焼き畑。これによって食物を自ら生産することができるようになり人口も増加し、やがて時代が進めば水田や常畑も登場する。また家畜の放牧も行われた。建築物等も大きくなり、使用する木材量が増えた。人口が増えることで食糧増産が行われ、同時に必要な燃料も増える。当然、森林の開発が進んだ。
里山の風景
只見川第一橋梁・夏 © koichi_hayakawa
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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