【連載】コミュニティの自律経営(38)~経営会議の設置などのガバナンス改革
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。経営会議の設置などのガバナンス改革
山崎市政2期目のいわば本丸である。経営管理委員会の提言で「持続的革新の仕掛け」として、「職員の改革意欲」、「市民の参画・監視」、「民間経営手法=イノベーション」とともに、「トップのリーダーシップ」が真っ先に掲げられており、提言後の取り組みも、「現場任せで、あとはよきに計らえ」とならぬよう、全局長決裁による提言実行の方針決定、行政経営推進委員会の組成、DNA局部長ミーティング、トップセミナー(幹部合宿)、局区長DNA運動等、三役、局区長を意識した取り組みも展開し、経営体制刷新に向けての10局の戦略計画の策定など、ガバナンス改革への準備を進めてきた。再選された広太郎さんの市長公約を受け、経営会議の設置など、いよいよガバナンス改革の本丸に入っていくことになった。
1.経営管理委員会の提言(7つめのハコ)
平成12年(2000)4月26日(コーポレート・ガバナンスの確立)
「各局の利害を超えた視点から経営戦略を判断する経営会議とその補佐体制をつくるべき」2.市長公約 平成14年(2002)11月
Ⅴ 市民に信頼される「自治体経営先進都市」を築きます。
(経営ボードを確立します)
トップマネジメント強化のため、市政に関わる重要事項を一元的に統括する経営会議を設置し、現行の助役分担規定を見直します。全庁経営補佐スタッフとしての組織を確立します。3.三役新体制の発足 平成15年(2003)4月1日
(1)経営会議の設置
局・区・室を越えた全市的な観点や都市経営の観点から、市政に関するさまざまな課題に迅速かつ戦略的に対応するとともに、行政経営改革を推進していくため、市政運営の基本方針や重要施策に関する意思決定を一元的に担う「経営会議」を設置する。(2)助役の事務分担の見直し
全市的な観点からの意思決定機能、決定事項の実行体制、市長の補佐機能の強化を図るため、「経営会議」の設置と併せ、助役の事務分担を見直す。具体的には、縦割り構造となりやすい助役の局分担制を廃止すると共に、事務決裁規程を改正し、助役専決事項を廃止するとともに、局長への権限移譲(経営会議の審議事項以外は原則として局長決裁)を行う。(3)補佐体制の整備
経営会議の設置や助役の事務分担の見直しなどトップマネジメント機能を強化することにともない、経営会議の事務局機能、内外の情報収集など三役の全市的観点からの意思決定、課題解決などをサポートする経営補佐部を市長室内に整備するとともに、どこの局にも属さない局長級の参与(経営補佐担当)を設置する。◆経営会議の設置と補佐体制の整備は不可欠だと思っていたが、助役の局分担制の廃止はあまりに変化が大きすぎて、一挙にやるのはとても無理だと僕は思っていた。しかし、ここは広太郎さんが強硬で「分担は明確に外すべきで、中途半端はいかん」と三役会議(平成14年12月24日)でクギを刺していた。市長と助役の持っている情報ギャップを指摘する声もあったが、「助役が下からしか情報が上がってこないというのは話にならない、これからの本格的な市政経営改革に当たっては、市長一人ではできない。助役が局の立場を代弁するようではダメだ。三役が基本戦略を決めて、後は局に任せるのだ」と姿勢は明確だった。
民間企業のコーポレート・ガバナンスの確立は「経営と執行の分離」が基本だったが、広太郎さんの思いもそこにあった。しかし、トップマネジメントの機能強化と局区の自律経営は、言うは易く行うは難し。実施が目前に迫った3月の幹部の会議では、西助役からこんな発言も。「経営会議・補佐体制は、使い方によっては凄く市役所が良くなるし、使い方を間違えるとぐちゃぐちゃになる」。慣れ親しんだボトムアップと本能的な縦割り意識の壁は厚い。市長以下、ここは一挙手一投足、箸の上げ下ろしレベルのサポートやアドバイスが必要な場面だったと思うが、経営補佐部ではとても賄いきれない。第一僕は半年で潰れているから、何をか況んやなのだが、手元に残る資料でその後の足跡を追ってみたい。経営会議のあり方についての市長コメント
平成15年(2003)7月17日の庁議冒頭〇本年4月に経営会議を立ち上げ、助役の分担を見直し、補佐体制を整備するなど経営体制の強化を図ってきた。
〇それから3か月以上経過し、その間経営会議も17回開催してきた。そうしたなかで三役あるいは局長とも率直な意見交換ができるようになり、全体的には良い方向に向かっているのではないかと感じている。
〇しかしながら、経営会議をやっていくなかで何点か感じたことがある。まだこれまでの助役に上げていくような感覚で、経営会議に案件を上げてきているのではないかということである。局長さんたちは実務レベルの最終的な責任者であり、局内での意思統一をきちんとしてもらいたい。また全市的観点から担当する分野の企画立案そして執行をお願いしたい。そのためには局内にも経営会議のような場を設定して、局内できちっと論議をし、意思をもって会議に臨んでもらいたい。また部長さん達も局長を補佐してもらいたい。
〇それとまだまだ意識が内向きではないかということである。市民のなかにもっと入っていかなければならない。これからコミュニティの自律経営に本格的に取り組んでいく。このことにより行政は抜本的に変わっていくものと考えている。
〇局・区長の皆さんには期待している。職員の力を引き出して、局・区の自律経営を目指してほしい。
◆市長の発言は、ある意味核心を衝いているとも思う。慣れ親しんだボトムアップと本能的な縦割り意識の壁はお役所仕事の宿痾とも言うべきもので、いまだにそれは、さまざまな組織で克服できていないのではないか。しかし、市長は根っからの政治家であり、実務の経験はなく、ある意味思想家ではあっても実務家ではないが故に、実務者の不安や悩みが咀嚼できず、痒いところに手は届かない。箸の上げ下ろしまでは指示できず、圧倒的な情報の差は、市長一強の構造をより際立たせていったのではないか。
◆僕の長期療養明けの年末、ある友人から意見具申のメールがあった。ポイントは2点。
(1)助役ポストの空洞化
・局担当制を外したことにより、助役に情報が入らなくなっており、経営会議における助役の発言の重みがなく、助役が「評論家化」している。
・経営会議案件の事前説明禁止が助役の情報過疎をますますもたらしている。(2)経営会議の機能不全
・経営会議でものが決まらない、繰り返し同じ案件があがる。これまでの流れと異なる意見が唐突に出る。経営会議が課題をなくす場ではなく、問題をつくる場になっていないか?という辛辣なものだった。僕は年度末で失脚し、平成16年(2004)4月6日「経営会議の運営及び経営補佐部と企画調整部の役割分担の見直し」が通知された。前述のような懸念への対応かとも思われる。
(1)経営会議の見直しについて
・経営会議の局/区からの付議案件は、企画調整部で受け付け、局区調整サポート会議の開催などを通じて、必要な調整等のサポートを行う。
・経営会議の開催日時、出席者の調整など、経営会議の運営にかかる業務については、企画調整部との十分な連携のもと、従前通り経営補佐部で行う。(2)経営補佐部と企画調整部の役割分担
・経営補佐部は三役へのサポート機能を強化する~経営会議の運営をはじめ、三役からの特命事項の迅速な対応、副市長プロジェクトの進捗管理など。
・企画調整部は各局/区へのサポート機能を強化する~経営会議に諮る局/区付議案件の相談/調整など、各局/区へのサポート機能を主に担う。この後、僕は議会事務局へ異動してしまい、その後の経緯は言及できないが、いずれにしても、平成18年(2006)11月の市長選における広太郎さんの落選により、経営補佐体制は雲散霧消していった。自分自身への自戒を込めて、元総務庁事務次官増島俊之氏の以下の箴言を掲げておきたい。
「いつも改革は、システムの改革という様相をもち、また、システムの改革というかたちで姿を現さないと、成果があったと評価されない。しかし、実相は、多くの場合、運用の優劣が対応の成否を握る。システム自体は弾力的な運用を許容する幅があり、決して運用を強制しない、では運用の成否を握る要因は何か。人である。これが、常に改革論では、欠落する。」(増島1996‐206p)
今回、福岡市のHPを当たっていて、平成24年(2012)の自立分権型行財政改革の推進に関する有識者会議の「組織風土改革」として、「トップマネジメントのもと、局区の自律経営が発揮されるよう、ガバナンス改革を行う」として、「市長・副市長が議論できるシステムを構築し、福岡市としての経営理念の確立を図る」「市長・副市長を補佐する自律経営補佐組織を新たに設置する」という項目を見つけて驚いた。まさに「経営会議」「補佐体制」と共通する問題意識であった。有識者会議の提言であったが故か、また、経営補佐部のトラウマもあったからか、既存の会議や組織が対応するほうが、より効果的に目的を達成することができると結論されたようだが、自治体経営においての普遍的な課題なのだと思いを新たにした。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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