トライアル、小売業界のゲームチェンジャーに1兆円企業誕生で変わる業界勢力図

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 トライアルホールディングスが、西友を約3,800億円で買収し、完全子会社化することが決まった。トライアルの売上高は7,179億円、西友は4,835億円で、合計約1兆2,000億円となり、1兆円企業が誕生する。これにより小売業界では、セブン&アイHD、イオン、ファーストリテイリング、パン・パシフィックHD、ヤマダHDに次ぐ第6位にランクインする。
 
 新興のディスカウント勢が老舗を傘下に収めるのは、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)がユニーを買収した例に次ぐ2例目だが、その構図は大きく異なる。ユニーは買収時、経営再建の途上にあり、PPIHが救済するかたちでドンキの手法を導入し、店舗の「ドンキ化」で再生を図った。一方、西友は昨年、北海道の店舗をイオン北海道、九州の店舗をイズミに売却し事業規模が縮小したものの、業界水準を上回る収益率と堅調な売上を維持しており、トライアルの負担にはならない。
 
 西友は効率的な店舗運営や物流網、PB(プライベートブランド)「みなさまのお墨付き」の高い開発力、精肉を中心とした生鮮食品の商品力など多くの強みを有する。黒字化を達成したネットスーパーもその1つだ。これらのノウハウはトライアルにとって魅力的で、取り入れることで大きな戦力強化が期待できる。関東や関西のトライアル店舗が西友の物流拠点やプロセスセンターを利用できるのも利点だ。
 
 一方、西友にとって、トライアルが推進するIoTやAIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)は、今後の事業展開でプラスに働く。タブレット決済機能付きレジカート「Skip Cart」の導入による買い物の利便性向上も期待される。さらに、両社の顧客データ統合による情報精度の向上やデータ活用ビジネスの可能性、リテールメディアの収益拡大も見込まれ、サプライチェーン全体の効率化と収益性改善にも寄与するだろう。
 
 両社は事業領域がほぼ重ならず、調整が不要な点も強みだ。買収による事業規模の拡大でバイイングパワーが強化され、仕入れ条件の改善も期待できる。これらの相乗効果は双方にとって確実なメリットをもたらす。
 
 今年に入り、米投資ファンドKKRが西友を売却する方針を明らかにし、トライアル以外にイオンやPPIHも売却先として水面下で名前が挙がっていたが、最終的にトライアルに決定した。今回の買収で、トライアルは業界再編を担うM&Aの有力プレイヤーとして浮上し、今後の動向に注目が集まる。
 

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