【連載】コミュニティの自律経営(43)~DNAどんたく
-
-
元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。DNAどんたく
DNAどんたくの開催実績
年度末にDNA運動の総決算として実施するのが、全庁発表大会「DNAどんたく」である。当初事務局案では、「DNA運動発表大会」としていたが、経営管理委員会メンバーから、遊び心がないではないかと指摘を受け、いろいろ頭をひねった結果、博多の祭りといえば、「博多どんたく」なので、思い切って「DNAどんたく」と名付けた。しかし、この遊び心が、DNA運動やDNAどんたくを全国に伝播させる決め手になったと今にして思う。
DNAどんたくは、DNAチームが自らの活動を発表する場として開催するもので、「優れた取り組みを発掘、共有して、褒め称えよう!」を基本コンセプトとしている。また、主な開催目的は3つで、「活動の苦労や努力を、幹部、上司、同僚が“認めて”、“褒めて”、“励まし合う”場とする」「優れた取り組み(ベストプラクティス)を発表し伝える情報共有の場とする」「実際に行動した人の話を直接聞くことにより、書面では伝えきれない想いなどを含めた質の高いコミュニケーションを図る場とする」というものである。
DNAどんたくが始まる数日前に、各職場での活動レポートが集められてきた。どんな取り組みが行われたのか、ハラハラドキドキしていたが、一通り目を通して感動した。福岡市の職員はすごいと思った。たかだか半年に満たぬ取り組みでここまでやれるのか、多少の作文はあったにせよ、DNAどんたくは必ず成功すると確信した。そして実際に行われた「DNAどんたく」は、我々の想像を遙かに飛び越えて、感動の場となった。
第1回DNA運動発表大会「DNAどんたく」
発表21チーム、書面参加48チーム
平成13年2月16日(金)14時30分~17時30分
627のチームがテーマ登録。発表するチームも多く、会場を2つに仕切って開催。県内外の自治体職員、国の職員、市民、報道関係者など400人が詰めかけた。第2回DNA運動発表大会「DNAどんたく」
発表22チーム、書面参加47チーム
平成14年2月4日(月)13時00分~17時50分
635のチームがテーマ登録。2公民館が実践報告。局内発表会開催11局区。見学者は前年と同じく400人だったが、他自治体職員が多かった。第3回DNA運動発表大会「DNAどんたく」
発表16チーム、書面参加35チーム
平成15年3月14日(金)13時00分~17時40分
特別セッションとして、岩手県盛岡地方振興局「もりおかさんさ運動」、盛岡の劇団、公民館、NPO、ハウステンボスからの返礼など、盛り沢山で見学者は500人。第4回DNA運動発表大会「DNAどんたく」「公民館DNAどんたく」
発表17チーム、公民館8チーム、書面参加25チーム
平成16年2月6日(金)13時00分~17時45分
公民館どんたくと共同開催〜コミュニティの自律経営を目指し、共働のまちづくりに向けてお互いの理解を深めた。他都市事例で名古屋市が発表。見学者700人。第5回DNA運動発表大会「DNAどんたく」
発表18チーム+尼崎、名古屋、横浜3市、エピソード21チーム
平成17年2月17日(木)13時00分~17時45 分
尼崎(YAAるぞ運動)、名古屋(なごやカップ)、横浜市(ハマリバ収穫祭)からも参加、職員自身が取り組む地域活動の発表も取り入れた。最後の市長講評でも、「尼崎や名古屋、横浜市は兄弟のような気持ちだ、これからも一緒に活動していこうと」の発言。第6回DNA運動発表大会 「DNAどんたく2006」
発表22チーム
平成18年2月13日(月)13時00分~17時45分
窓口サービス部門から4チーム参加。見学者は500人。最後の市長講評で、「これからもDNA運動を息長く、我々の掲げた旗印として大事にしながら、運動を続けていこう」と話していた(皮肉にもこれが、広太郎さんが見学した最後の「DNAどんたく」となった)。職員の底力・創意と工夫 DNA運動発表大会2007
発表23チーム、書面参加13チーム
平成19年2月14日(水)13時00分~17時45分
翌日が山形市での全国大会の平成19年(2007)2月6日、朝日新聞「DNA運動 じわり波及」の見出しで、福岡市の取り組みが全国に広がり、山形市で全国大会が開催されるとの記事が掲載された。前年秋の市長選挙での広太郎さんの落選により、1週間後の2月14日に開催されたこの年のDNA運動発表大会はDNAどんたくと称されず、皮肉にもDNA運動自体が廃止となった。市のあらゆる媒体からDNAの文字が消えた。これは今でも他自治体の職員の方からいわれるのだが、DNA改革、DNA運動について調べようとしても、市のサイトでは一切引っかかるものがないと。経営管理委員会以降のDNA改革関連のサイトはとても充実していて、全国各地から多くのアクセスがあっていた。今回この拙著を執筆するにあたって、山崎市政時代の各種資料をネットで探し回ったが、「DNA改革」に限らず、ない。当時現場の職員のPCに至るまで、山崎市政に関する情報が削除されたと仄聞していたが、紙媒体で残していた自分の資料が辛うじてのよりどころとなった。本来こうした行為はあってはならないはずだが。市史編纂は大丈夫だろうか?
市民は顧客ではない~山崎市長のこだわり
福岡市のDNA改革は当時興隆しつつあったNPM理論の追い風を背に受けて進められた。経営管理委員会提言で示された「新行政経営システム」のマトリクスにはNPM理論の基本原理といわれる「成果志向」「顧客志向」「競争原理」「分権化」が埋め込まれる一方、行政が目指すべき姿として「コミュニティの自律経営」が示されており、当時からいわゆるNPMの射程を超え、今日ポストNPMと称されるNPG(=New Public Governance)を視野に入れたものだったともいえる。ことに広太郎さんは、福岡市のDNA改革がNPM理論を背景にしていることは踏まえつつも、市民は顧客ではないと強く主張していた。顧客としてみてしまっては、市民は行政の対象でしかなくなってしまうが、市民は主体であり、主権者であると。何ごとも市民を巻き込み、市民の力を引き出す、市民を自治の表舞台に立たせなければならない。共働の精神が行政の基本であり、市民を責任ある市の主体に昇格させる手段であるとしていたのである。
蛇足ながら、ドラッカリアンの僕としては、主権者を創造しようとした広太郎さんのこだわりは逆説的だが、ドラッカーが企業の目的は「顧客の創造」であるとしたことと相通じるものがあることを指摘しておきたい。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411関連キーワード
関連記事
2025年2月25日 13:402025年2月21日 15:302025年2月20日 13:002025年3月12日 06:002025年3月6日 12:002025年2月26日 13:302025年1月24日 18:10
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す