【連載】コミュニティの自律経営(44)~カイゼン運動が全国に波及
-
-
元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。全国にひろがるカイゼン運動
経営管理委員会当時から福岡市のDNA改革の取り組みには、サイトアクセスも多く、そのため第1回目の「DNAどんたく」から他自治体の見学が多かった。見学者の多くが発表の現場を見て感動し、自分の自治体に持ち帰り、DNA運動/DNAどんたくのノリで、その名付けにも遊び心満載にカイゼン運動は全国各地に波及していった。
しかし、このカイゼン運動や後述する全国都市改善改革実践事例発表会が全国に伝播していったのは、関西学院大学教授の石原俊彦(※)さんの力添えが大きかった。やはり現場の職員がどれだけ感動して持ち帰っても、ボトムアップで話をあげるのは大変だし、時間もかかるが、石原先生を連れて帰って?講演してもらって、トップや幹部に共感/納得してもらう。場合によっては石原先生に直接口説いてもらう。その意味においても、石原先生、肝いりの「KGPM」の学びの場としてのコミュニティの存在は大きかったと思う。今やスーパー公務員の後藤好邦君との出会いも、遡れば「KGPM」だった。
以下に、福岡市のDNAどんたくが始まって以降、5年ほどで立ちあがったカイゼン運動の主なものを挙げてみたが、平成26年(2014)11月調べでは47団体に広がっていた(『自治体経営を変える改善運動』東洋経済新報社2015‐80p)。
※石原俊彦さんは、情に篤く、広太郎さんが市長落選後、一切の肩書きをもたなかった折に、関西学院大学客員教授として迎えていただき、関西学院大学大学院/KGPMで『福岡市役所の市政運営とDNA革命』と題して講演もさせていただいた。感謝に堪えない。
「DNAどんたく」(福岡市役所)H13~19
「YAAるぞカップ」→「普通二改善大発表会」(尼崎市役所)H15~
「なごやカップ」(名古屋市役所)H15~
「おもてなし運動発表大会」(中野区役所)H16~
「カイゼン甲子園」(大阪市役所)H17~
「元気の種コレクション」(札幌市役所)H17~
「はながさ☆グランプリ」(山形市役所)H17~
「きたかみPing! Pong! Pang! 運動」(北上市役所)H18~
「改善王選手権~業革・冬の陣」(福井市役所)H18~この「DNA運動」の名付けと基本精神は、公募職員で構成する「ベストプラクティスチーム」の発案である。言い出しっぺが、翌年DNA運動の担当事務局に異動してきた藤義之君だったことは、後年知ることになった。当時受け取る立場の僕は、さすがに「A:遊び心」には戸惑った。鳴り物入りの改革運動が「遊び心」でいいのかと。まさに旧来型のお役所の中間管理職の発想の限界だった。
一方、経営管理委員会のメンバーの受け止めはまったく違った。「これは面白い、いける、この取り組みは成功する」と。そして、案の定、これは大ブレークした。このDNA運動をルーツとしたカイゼン運動が全国に広がり、「DNAどんたく」にならったイベントが、今もって全国都市改善改革実践事例発表会として開催されており、令和5年3月には東京都中野区が2度目の開催、そして令和6年2月には16回目の大会として、兵庫県豊岡市で開催された。おかげで、いまだに福岡市はカイゼン運動発祥の地として、リスペクトされ続けている。
全国都市改善改革実践事例発表会
カイゼン運動の広がりのなか、相互に参加交流をしていた尼崎市、名古屋市、福岡市との間で全国大会の開催計画が持ち上がり、開催都市は福岡市だろうとのことで、いったん平成17年(2005)7月8日の開催を決めた。そのやり取りの2日後の平成17年3月20日、福岡市においては有史以来の最大震度6弱の福岡県西方沖地震に襲われ、この計画は頓挫し自治体改善運動発祥の地、福岡市での全国大会開催は幻となった(この間の経過は、『地方自治体業務改善』(関西学院大学出版会2012)に詳しい)。
そして、2年後の平成19年(2007)2月7日、山形市長の決断により、第1回目の全国都市改善改革実践事例発表会が山形市で開催された。
第1回 やまがた☆10(スタート)
10自治体 平成19年(2007)2月7日/山形県山形市
第2回 あまがさき☆14(ジューシィ)
14自治体 平成20年(2008)3月24日/兵庫県尼崎市
第3回 18☆(イチバンボシ)ふくい
18自治体 平成21年(2009)3月23日/福井県福井市★大会のチラシはいつもすばらしいできなのだが、この福井大会のチラシは泣いた。銀河鉄道999をモチーフにしつつ、青春18切符ならぬ改善18切符がデザインされていたが、その切符の発行日が、なんと当時運動が休止していた福岡市での第1回DNAどんたくの開催日、平成13年(2001)2月16日だったのだ。「福岡市よ再起動せよ」とのエールだったと思う。
第4回 改船なかの20丸(ニジュウマル)
20自治体 平成22年(2010)3月19日/東京都中野区
第5回 カイゼン万博2011 いわてきたかみ
20自治体 平成23年(2011)3月4日/岩手県北上市★議会事務局にいた僕は、議会開催中のこの季節はずっと参加できなかったが、中央区役所への異動により、この回から参加した。またカイゼン運動が再開していた福岡市のチームも参加し、早良区役所の「ウェルカメラネット(窓口待ち人数表示システム)」はフルートの伴奏付きで、北上市長からも、さすがカイゼン運動の元祖だと激賞されていた。翌日のカイゼン・サミットでは、僕が『再起動!DNA運動』と題して登壇させていただいた。
第6回 百花繚乱カイゼン合戦
20自治体 平成24年(2012)3月2日/大分県大分市
第7回 カイゼンまっち in Saitama
27自治体 平成25年(2013)3月22日/埼玉県さいたま市★現役最後の全国大会だったが、翌年の福岡市での開催が決まっており、僕がカイゼン運動発祥の地の立場から次回開催の挨拶をさせていただいた。福岡市役所在職中での全国大会の開催は叶わなかったが、全国大会開催決定を置き土産に定年退職できたことは、何よりのことだった。また、この年の福岡市の代表チームはこども未来局と各保健所の合同チームだったが、当時こども未来局長だった妻がビデオ出演でエールを送っていた。
第8回 カイゼンDONTAKU in ふくおか
33自治体 平成26年(2014)3月28日/福岡県福岡市★全国大会の発案から9年の歳月を経て、ようやくカイゼン運動発祥の地/福岡市での開催が実現した。ここでも石原俊彦さんの尽力が大きかったが(審査委員長もお務めいただいた)、何よりカイゼン運動復活への職員の熱が、高島宗一郎市長の英断を引き出した。大会では、石原さんの肝いりでバングラディシュからの特別報告もあり、参加自治体も過去最多の33自治体を数えた。そして何より、カイゼンDONTAKU inふくおかに赤い文字でDNAが浮かび上がっていたのには、感涙した。
第9回 越後三条カイゼン工房
39自治体 平成27年(2015)3月27日/新潟県三条市
第10回 KAえるEXPO
40自治体 平成28年(2016)3月25日/愛知県春日井市
第11回 BINGO! 福山改善博覧会
35自治体 平成29年(2017)2月17日/広島県福山市★この大会で、初めて広太郎さんと同行し、見学した。終了後、大好きな鞆の浦を訪ねて1泊したことは懐かしい思い出である。
第12回 KAIZEN CRUISE in 湊さかた
32自治体 平成30年(2018)3月23日/山形県酒田市
第13回 ええじゃないか! カイゼンまつりin豊橋
32自治体 平成31年(2019)2月22日/愛知県豊橋市
第14回 2020丹波篠山 カイゼンショ祭り
21自治体 令和2年(2020)2月21日/兵庫県丹波篠山市〇カイゼン・サミット2020
「カイゼン・ヒストリー~コロナでカイゼンを止めるな! 今こそ創意工夫の火を起こそう~」
令和3年(2021)3月27日(オンライン)
〇カイゼン・サミット2021【オンラインDX版】
~来年は中野でYAAるぞ! 創意工夫のセイカを全国に届けよう~
令和4年(2022)2月19日(オンライン)★コロナ禍のため2年続けてオンライン開催となった。
第15回 改船(KAIZEN)再出航~つながる はじまる なかの~
17自治体 令和5年(2023)3月24日/東京都中野区
第16回 温泉とカニとKAIZENと
11自治体 令和6年(2024)2月9日/兵庫県豊岡市(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411関連キーワード
関連記事
2025年3月14日 14:452025年2月25日 13:402025年2月21日 15:302025年3月12日 06:002025年3月6日 12:002025年2月26日 13:302025年1月24日 18:10
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す