心に響くスピーチ~結果を左右する重要な力
-
-
NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元国連日本政府代表部大使や元国連事務次長を歴任した赤坂清隆氏による、心に響くスピーチについての論考を共有していただいたので掲載する。外交現場で長い経験を有する赤坂氏の深い考察にぜひ触れていただきたい。
先日、政策研究大学院大学(GRIPS)からのお招きを受けて、英語での「パブリック・スピーキングとプレゼンテーション」と題する講義を行いました。海外からの留学生も交じって、活発な議論になりました。今回は、このテーマについてのあれこれを「話のタネ」にさせていただきます。
たかがスピーチ、されどスピーチ。演説やあいさつにしろ、会議での発言にしろ、大向こうをうならせるような雄弁にはなかなかお目にかかりませんね。しかし、たまにはそのようなスピーチに出くわすことがあります。最近、そのようなすばらしいスピーチを友人から教えてもらいました。ダニエル・レヴィーという元イスラエルの和平交渉人が、2月25日に国連安保理で行ったイスラエルとパレスチナの紛争の平和的解決を求めるスピーチです。非常に迫力があり、聞く人の心に響く渾身(こんしん)の訴えです。
https://youtu.be/lQQC0Xhun48?si=4aaPYFgs3LfY4yx0昔わたしが現場で目撃したこのような雄弁家としては、米国の国連大使だったリチャード・ホルブルック氏がいました。1995年にボスニア戦争を終わらせたデイトン合意の立役者です。彼がひとたび迫力のある声を出して話し出すと、国連の会議場は水を打ったように静まり返り、全員が彼の発言の一言も見逃すまいと聞き耳を立てました。彼はそのために綿密周到な用意をしたので、準備につき合わされて大変だったと彼の部下から聞きました。
アメリカの大統領といえども、スピーチに長けた人は少なく、最近では、ビル・クリントンやオバマ大統領が比較的雄弁でしたね。大声で怒鳴りまくるトランプ大統領の英語のレベルは、米カーネギー・メロン大学のニュースによると、下記表の通り、語彙は中学1年生、文法は小学6年生弱レベルで、歴代の大統領に比べても相当低いですね。なるほど、彼の英語はわかりやすいわけです。
テレビのニュース番組を見ても、アメリカのCNNと英国のBBCは、それぞれに特色があり、両者にはかなり大きな違いがありますね。アメリカのニュース番組はどれも、筋トレで鍛えたような話し手が、視聴者をぐいぐいと無理にでも引っ張っていくような話しぶりで、長く見ていると正直疲れます。それに比べて、BBCのニュースキャスターは、もっと落ち着いた話しぶりで、少しゆっくりしており、聞いていてあまり疲れません。他方、日本のNHKワールドも頑張ってはいますが、米語なまりの英語を話すアナウンサーが多く、NHKの話し方としての特色に乏しい気がします。
スピーチのつくり方も、日本語と英語の場合とはかなり違いますね。というのも、日本語では「起」「承」「転」「結」が上手な文章のつくり方といわれ、通常結論は、最後に来ます。他方、英語では、オープニングの後、すぐに結論を述べて、そしてそれを敷衍(ふえん)ないしは説明することを勧められます。早めに結論を言わないと、聴衆がしびれを切らして、「この人は何が言いたいのか分からない」と不満を漏らすといいます。
一般に、長いスピーチというのは嫌われます。日本のレセプションなんかでは、だれも聞いていないのに延々とスピーチをする人がいます。次から次とスピーチが続いて、やっと終わったと思ったら、乾杯の音頭を頼まれた人が、「カンパーイ」と声を上げる前に、客が手にもったビールの泡が消えるのも気にせず、また長いスピーチをするケースも多いです。本当にイライラさせられますね。
短いスピーチは、長いスピーチよりも難しいと言われます。「もし10分間のスピーチをやってくれと頼まれたら、準備に1週間かかる。15分のスピーチなら3日、30分間のスピーチなら2日かかるが、1時間のスピーチをやれというなら今すぐできる」とチャーチルが言ったそうです。短いスピーチというのは、お酒でいえば大吟醸、詩ならば俳句といったところでしょうか。エッセンスだけが凝縮されているのです。
プレゼンテーションの仕方も大事ですね。弁論大会などを見ると、内容がもう1つでも、上手なプレゼンで聴衆の心をつかむ人がいます。そのコツとしては、いろいろな要素が挙げられるでしょうが、私はとくに、(1)話し手の自信に満ちた態度、(2)声の大きさとトーン、(3)目が聴衆の目を一対一で直視するアイ・コンタクトを挙げたいと思います。
自信に満ちた話し手というのは、聞いていて安心できます。他方、緊張しきって、自信なさそうに見える話し手は、聴衆をも緊張させます。声が大きい人は、自分に自信と威厳があると思わせます。胸式呼吸よりも、腹式呼吸のほうが大きくて、太い声が出ますね。声の高低や、上げ下げ、大小の取り交ぜ、テンポなどのトーンも大事です。さらに、聴衆の目を一人一人しっかりと見るアイ・コンタクトも効果的です。天井を見るなど、どこを見て話しているのか分からない人よりも、1~2秒でも聴衆の目を直視する人の方が、説得力をもつでしょう。
昔から、プレゼンのまずさで失敗した人の例がたくさんあります。きちんとしたメディア・トレーニングを受けていないと、いざという時にとっさの判断を間違ってしまうのでしょう。1997年に大使公邸占拠事件から解放された直後、記者会見の際にタバコを吸って非難された青木盛久在ペルー大使や、2009年の中川財務・金融大臣の泥酔記者会見など、いくつかの例を挙げておきました。このような失敗例を集めて、若い人たちに「同じような失敗を繰り返さないように」とアドバイスしてあげるのも良いかもしれませんね。
講義では、国際会議などでの話し方、交渉の際に気をつける点なども、私の拙い経験などを基に、お話ししました。このうちとくに、会議などで発言する際のタイミングというのも大事だと思います。先頭バッターは議論をリードできるかもしれませんが、他の参加者は議論の用意が十分できていないかもしれません。他方、最後まで発言を待つのは、結論を出せるメリットがありますが、その前にすでに大勢が決まってしまう危険性があります。また会議の最終場面で、参加者が立ち上がろうとしているようなときに、長い発言をしたり、質問したりするのは、皆から嫌われますね。
上手なスピーチやプレゼンができるようになるためには、やはり訓練と経験がものをいう気がします。一朝一夕でできることではありませんから、日ごろから、いろいろな機会をとらえて訓練することが大事でしょう。何気ない話題を提供して、友人たちとの会話を盛り立てる「雑談力」を磨いておくのも大事な気がします。恥ずかしがり屋の人も、何度か経験を積んだ後、立派な話し手になる例を数多く見てきました。
講義では、議論をしても感情的にならない方法、ユーモアの取り入れ方などについても質問がありました。こういう点では、英国人の話し方が大いに参考になると答えておきました。教養のある英国人は、めったなことでは感情をあらわにしませんね。奥歯をしっかとかみしめて、冷静な態度をくずすことなく、もってまわった言い方で、ユーモアも交えながら、他人の悪口や皮肉をいうのが上手です。ぜひトランプ大統領も学んでもらいたいものです。
関連キーワード
関連記事
2025年3月14日 14:452025年2月25日 13:402025年2月21日 15:302025年3月18日 15:302025年3月12日 06:002025年3月6日 12:002025年1月24日 18:10
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す