【連載】コミュニティの自律経営(46)~福岡市におけるコミュニティ政策の大転換
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。【第四章】コミュニティの自律経営
DNA改革とともに、コミュニティの自律経営(=コミュニティ政策の大転換)は山崎広太郎市政の大きな2つの柱だったが、DNA改革と同様、こちらも経営管理委員会の提言に端を発している。
福岡市におけるコミュニティ政策の大転換
平成12年(2000)4月26日に経営管理委員会が「コミュニティの自律経営」を最終目標とする提言を行い、町世話人制度を抜本的に見直し、公民館を地域自治の拠点として自治会、NPOの育成支援に向け機能強化し、市民自治体制を全面的に見直そうと提言した。経営管理委員会は新旧の職員アンケートや市民インタビューのなかから共通して、「町世話人制度」が以前から課題として挙げられてきたことを重視し、抜本的な見直しの時期と捉えていた。
一方、広太郎さんも選挙公約で、「『市民の生活を守る』という市政の原点に立ち、市民の生活感覚に学びながら、信頼の絆で結ばれた地域社会を実現します」としており、就任の記者会見では、「行政主導から市民が主役の市政へ~内なる分権化を進めるとして、地域福祉、地域コミュニティの拠点づくりを行い、校区単位の行政サービスのネットワークを形成する」などとしていた。従って、経営管理委員会の提言が、行政の目指すべき姿として、「コミュニティの自律経営」を最終目標としたことは、広太郎さんにとって、まさに我が意を得たりであった。この提言を踏まえたDNA改革のキックオフ・ミーティングにおいて、「これから目指す福岡市政の在り方の教科書にする」とまで発言した。
その後、市内部では、平成13年(2001)西助役プロジェクトがスタートし、「コミュニティの自律経営指針」が策定され、市民を交えた外部の有識者などで構成する「コミュニティの自律経営市民検討委員会」から、平成15年(2003)「コミュニティの自律経営への提言」が提出された。これらの取り組みを受け、平成16年(2004)3月、町世話人制度が廃止され、同年4月自治協議会制度がスタートするという福岡市におけるコミュニティ政策の大転換となった。そして、昭和28年(1953)に発足していた町世話人制度に終止符が打たれた。町世話人制度は、経営管理委員会がさまざまなデータを分析して指摘したように、抜本的な見直しは常に指摘されるものの、見送られてきていた。真偽はともかくも、「町世話人は選挙の集票マシーンであり、歴代市長も決断できない」ということもよく囁かれていた。町世話人の権限が大きかった昔ならいざ知らず、僕自身は、この時代にあまりリアリティを感じていなかったが、実際、2年後の市長選挙で広太郎さんは落選した。町内会長2,500人の首を切って、「茶碗をたたき落とした」(※)から負けたとの解説も随分聞いた。実際、町世話人制度の廃止について、地域に説明に入った職員の証言では、町世話人の方々の怒りと反発は凄まじいものだったそうである。町世話人報酬が生活給の一部となっていた側面もあっただろうと思われるが、いずれにしても「自治=地方分権/市民自治」が政治信念であった、広太郎さんならではの大転換であったと思う。
※僕は今、約130世帯の町内会長として、町内会費から年50,000円の手当と自治協議会から役員経費30,000円をいただいているが、町世話人の報酬であれば、250,000円に相当するだろう。収入は年金だけなので、250,000円は貴重な収入になる。市全体の町世話人報酬の平均は、250世帯×160円×12月=500,000円からすれば、「茶碗をたたき落とした」論はそれなりにリアリティがあったと考えてよいかもしれない。また、町世話人制度の廃止は財政再建の一環ではないかとの疑念も生んだが、実際には町世話人報酬12億円に対し、新たな一括補助金や市政だよりの配布経費など同等の予算を組んでいたので、それは誤解だった。しかし、それに続く五輪招致で、各校区に国別の支援要請がなされていた。以前のユニバーシアード大会でも、校区ごとに国別の支援を行った。このときの主体は公民館だったはずなので、まだよかったが、五輪招致では直に自治組織に支援要請があったと記憶する。これは元も子もなくす、まったくの禁じ手だったと思う。当時、自治協議会の立ち上げに奔走する区の担当職員の動揺も大きかったと仄聞している。
町世話人制度を廃止し、自治協議会制度を発足して、1年後の平成17年(2005)11月に、山崎市長はこのように語っている。当時の「コミュニティの自律経営」への思いを余すところなく伝えていると思うので、紹介しておきたい。
「昨年50年にわたって行政の補完的な役割をお願いしていました町世話人制度を廃止し、 自治協議会に再編することにしました。町世話人の皆さんには、長い間のご苦労に心から敬意を表しますとともに、深く感謝申し上げます。地域に生き生きとした自治組織があって、そうした自治組織と行政とが手を組んで行けば、地域におけるさまざまな問題をより良く解決することができるはずです。自治協議会に期待されている役割は、交通安全/スポーツレクレーション/男女共同参画/子育て支援/子どもの健全育成/高齢者支援/ごみ減量リサイクル/集団献血/健康づくり/環境美化/防災防犯と多岐にわたります。
しかし、これまでの制度では、地域社会が一部の世話をする人たちと大部分の世話を受ける人たちに分かれてしまったり、市役所の担当窓口が縦割りであるため、校区で役割を担うそれぞれの団体も縦割りになってしまい、コミュニティにおける大切な横の連携や調整が必ずしもスムーズに運ばないといった弊害もありました。各校区(地域コミュニティ)における自治協議会と区役所において一元化されたコミュニティ総合窓口がパートナーとして共働し、各校区に設けられた『公民館』を拠点として、多くの市民の皆さんの自発的な参加を得て、知恵とアイデアにあふれたさまざまな試みが育っていくことを、私は期待もし、楽しみにしています。
これまでも地域の個々の課題に応じてさまざまな補助金が交付されてきましたが、自治協議会への再編を受けて、これから補助金も一元化し、それぞれの校区(自治協議会)で自分たちの地域にふさわしい使い道を自分たちで決めていただくようにしました。併せて新たに活力あるまちづくり支援事業として、地域としてとくに力を入れたい事業に対して、従来の枠を超えた補助金(支援事業資金)を出せるようにしました。
私は、市議会議員時代から『自治』を一貫して政策の大きな柱としており、これからの市政が取り組むべき最も重要で新たな目標は、『コミュニティの自律経営』であると考えています。そのための大きな政策が、今回の町世話人制度から自治協議会への再編であったわけです。地方に権限や財源を移して行く地方分権はすでに必然的な流れになっています。私はさらに自治体のなかで、いわゆるコミュニティつまり身近な地域社会にできるだけ権限を下して行く努力をして行きたいと考えています。140万人口の福岡市に7つの区がありますが、平均20万人の人口は全国的に見れば十分な都市規模です。ですからこれからはできるだけ7つの区に仕事も予算も権限も下ろして行くことを本格的に考えていくつもりです。そして区への分権以上に私が大事に思っているのがコミュニティです。福岡市内には小学校区が144あるわけですから、一校区あたり約1万人の市民が暮らしていることになります。これは十分1つの町の規模です。私が『自治協議会』の在り方に大きな期待を寄せ、自治協議会をあたかも小さな議会のようにとらえようとしている背景と理由はここにあります。現在それぞれの校区で自治協議会を立ちあげていただいています。今私自身各校区を回りながら『自治協議会』の立ち上げへの協力をお願いするとともに、地域の子ども達に大人たちが、『おはよう』と声をかけていく『おはよう運動』を1つの地域運動として提起しています。このヒントは香椎浜校区で始まり、すでに成果を上げているあいさつ運動と『早寝早起き朝ごはん8時だよ全員登校』の呼びかけです。こうした運動で大切なことは、全市一斉にやることではありません。『やってみようか』という校区がまず1つ現れ、徐々に市全域に広がっていく姿が理想です。地域の教育力を育む運動であり、まちの変化が具体的に目に見えるという面もあります。また地域の防犯が重要な課題になってきていますが、先日新聞でも紹介された青葉校区の女性パトロール隊など、地域住民による防犯パトロールが自主的にスタートし、他の校区に広がりを見せていることも嬉しいことです。まず、さまざまな新しい試みがどこかの校区で始まることを期待しています。
ともあれ「コミュニティの自律経営」という真の「自治」を目指して、市民の皆さんとご一緒に私も大いに汗を流して行く覚悟です。」(『希望に満ちたダイナミックな人間都市ふくおかを目指して』2005、25p)
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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