祝・福岡空港増設滑走路供用開始~「これからどうする」福岡空港が抱える問題への対処~

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川弘 氏

 2025年3月20日、ついに福岡空港の増設滑走路が供用を開始した。福岡空港の過密化対策として数年に渡り行われた「福岡空港の総合的調査」の結果、09年3月に当時の福岡県知事麻生渡氏と福岡市長吉田宏氏の連名で、国に要望したものである。

 くしくも、新福岡空港の推進派であった麻生渡氏は、今年1月3日からの西日本新聞の連載記事の最終校(3月8日掲載)に遺言のように「新福岡空港を建設せよ!」というタイトルをつけ、3月15日にご逝去された。ここに生前のご活躍とご苦労に敬意を表するとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。

 さて、09年当時は、バブル経済崩壊後の景気の悪化で、公共工事縮減の最中、そして民主党政権の樹立によって、大型公共工事は悪とされ、「コンクリートから人へ」などと馬鹿なうたい文句で、次々と大切な公共工事が切り捨てられていった。熊本の「川辺川ダム」も当時中止となった。その結果、九州豪雨により65名もの死者がでてしまうことになった。

 そうしたなか、福岡空港は過密化対策として、新空港建設ではなく、増設滑走路に梶を切り、これまでの16年の間に少しずつ整備が進められてきた。担当の国土交通省航空局や、大阪航空局、そして九州地方整備局の方々など、大変なご苦労をされてきたことと思う。

 空港の運営についても、コンセッション(民営化)方式で、現在西鉄を中心としたグループが福岡国際空港(株)(FIAC)として、運営を行っている。新たな路線誘致や、空港ターミナルの整備などとともに、今度から空港周辺の環境対策も事業のなかに加わるそうで、これまで(独)空港周辺整備機構が行ってきたものをすべてFIACが受け継ぐことになるという。ということは、騒音問題だけでなく、民有地の借地問題についても対応していくということだろうか。余計なお世話かもしれないが、一筋縄ではいかない環境対策は、FIACの利益を蝕んでいくことになるかもしれない。

 それよりも、コンセッション(民営化)の契約は30年。19年4月運営開始であるから、49年3月末までで、残りあと24年である。その後の運営は一体どうなるのだろうか? 国が行うのか、引き続きFIACが行うのか、はたまた新たな民間グループが運営するのか、誰もわからない。借地対応を含んだ環境対策が事業のなかに入るとなると、新たなグループは希望しないだろう。空港経営がウハウハの黒字であれば、環境対策費もウハウハの額に跳ね上がるかもしれない。24年後にはこの空港運営問題がきっと話題となるであろう。

 さて、増設滑走路の運用開始について話を戻すと、16年前に問題視されていた福岡空港の問題はすべて解決したのだろうか?

1:滑走路の容量限界による過密化問題

 新しい増設滑走路の運用は、国際線の離陸のみにしか使えず、過密化問題の対策といいながら、1時間にたった2回(1時間あたり離発着回数が38回から40回)しか増えないこと。元旦の西日本新聞の1面記事の見出し「滑走路増でも満杯」の記事を読まれて、初めて「そうだったのか」と気づかれ、驚かれた人は多いはずである。しかし、もともとこれぐらいしか増えないことは16年前からわかっていたことである。増設滑走路ができたことにより、滑走路の処理能力が18.8万回に増えるというが、それ以上に新規路線も申し込みもあると聞くので、おそらく今年か来年にはこれを超えてしまうことになるだろう。1,643億円と16年の歳月をかけてできた増設滑走路+αは、福岡空港が抱える過密化対策の抜本的な対策ではなかったと思われる。それよりも、1時間あたり45回まで増やすことが可能としていることのほうが不安である。

 飛行機の離発着時には、飛行機のエンジンによる後方気流が発生するため、後続の飛行機がその乱気流に巻き込まれないように約120秒の間隔を空けなければならない。従って、1時間あたり45回というのは、約80秒ごとに1回の離発着ということになる。滑走路間隔が1,000mぐらい離れていれば、可能かもしれないが、210mしか離れていない福岡空港では、まともに後方乱気流の影響を受けてしまうため、1時間に40回以上は危険がともなうことになり、これ以上の増便は難しいと考える。

2:福岡空港の安全性

 福岡空港の過密化は今後も変わらない。というよりも増設滑走路ができて、その管制のオペレーションがさらに複雑になってくるため、重大インシデントにつながる要素が満載である。

 たとえば、滑走路間の距離が210mしか離れていないために、海外のエアラインが増設滑走路へ誤進入して着陸したり、昨年1月の羽田空港事故のような、離陸のために増設滑走路に待機している離陸機に、着陸機が誤進入したりして、待機中の飛行機との接触・衝突事故を起こすことも考えられる。また、既設滑走路に着陸した国際線の飛行機が国際線ターミナルへ移動するためには、増設滑走路の先の部分を横切らなければいけない。本来ならば離陸優先で、待機しなければいけないが、間違って進入してしまう場合も考えられる。

 管制業務はこれまで以上に大変な業務になると思われる。これまでは滑走路も春日市上空を旋回する飛行機も、同じ方向を向いていれば、全体が見渡せた。今回新管制塔が国際線側に新築移転し、360度見渡せる管制室になっているものの、飛行機を眺める場所が悪い。春日市上空を旋回してくる飛行機と、順番待ちをしている空港内の飛行機は同時には見られないのである。福岡空港の管制官の皆さんは、素人がわかるようなことは、すでに訓練を積まれ、もっと厳しい条件での訓練をされているはずだが、管制官も人であり、昨年1月の羽田空港のような事故も考えられる。福岡空港が羽田空港と違うのは、すぐ横に民間の住宅地が広がっていることである。

3:24時間利用ができない

 増設滑走路をつくっても、24時間利用することはできない。一昨年から福岡空港も門限問題が表にではじめた。日本航空や全日本空輸は北九州空港などへの目的地変更(ダイバート)を事前に検討するようになった。この門限問題については昨年11月に詳しく記しているので、そちらをご覧いただきたい

 戦後の復興期からバブル期の頃までは、福岡が都市の成長期でもあり、24時間使えなくても問題なかったが、20年代からはインバウンドの受け入れやアウトバウンドを考えなければならない時代になっており、24時間使えない空港しかない都市は、いずれ海外から敬遠されるようになり、物流・人流が止まり、いずれ都市の成長が止まってしまうのである。

4:まとめ

 過密化対策としてつくった増設滑走路は、さらに過密化を呼び、混雑空港だけでなく、時間通りに離発着できない「迷惑空港」となってしまうであろう。16年前の問題は何も解決されていないまま、空港がきれいになって喜んでいられるのは、ここ数年間だけだろう。

 麻生渡元県知事の遺言にあるように、「腹をくくって『百年の計』を考えて判断、行動してくれる人が必要です。手を挙げる人がいないと福岡は駄目になります。」増設滑走路が共用開始したことで、16年前の「福岡空港の総合的調査」の結論は終わりました。今から新たに「福岡空港の将来構想」を議論することをはじめるべきです。「新福岡空港を建設せよ」ですね。麻生渡さん。


<プロフィール>
下川弘
(しもかわ・ひろし)
(株)アクロテリオン 代表取締役 下川弘 氏1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、2021年11月末に退職。03年4月熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程入学、05年3月同大学院中退。現在、(株)アクロテリオン・代表取締役、C&C21研究会・理事、久留米工業大学非常勤講師。

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