【連載】コミュニティの自律経営(49)~人生の集大成は町内会長
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。人生の集大成は町内会長
令和元年(2019)4月21日、生まれ育ったまち、福岡市東区香住ヶ丘6-3区の町内会長となった。前会長から指名され、前年、田川での人生二毛作も完了していて、市役所に合計33年間お世話になった身としても引き受けないわけには行かなかった。
しかし、無関心の罪は大きかった。うちの町内は前々会長が30数年、前会長が17年と超長期在職で、自然お任せしっぱなしとなっていて、回覧板も回っていなかった。隣の町内との合併、分離のしこりもあり、残念ながら校区内で一番心配な町内との評判だった。生まれ育ったまちでありながら、町内の区域を知ることから始めなければならなかった。
まずは月一回の公民館だより/校区ニュースを全世帯自分で配り、とくに単身の高齢者には安否確認も兼ねて声かけして、顔を覚えてもらうことから始めた。6-3区は校区内でも屈指の急坂が3本あり(重機のない昭和20年代前半の宅地造成なので、今ではとても市道として認定されないような斜度があり、車の右左折もできない)、僕は町内を回るときには「ヒマラヤ越え」といっているが、町内を一周すると冬でも汗びっしょりになる。
僕のこれまでの経験からすると、普段の市民生活はもちろん行政とは不可分な関係にあるのだが、行政との距離があり、課題が片付かないまま放置され、結果的にそれが行政不信につながったりする。その意味で市役所や県庁などの行政職員のちょっとした知識は、地域にとって大いに役立つ。広太郎さんも住民は市職員を頼りにしていると、よく言っていた。だから、僕のような市役所のOBは町内会長としての適性はある。が、その一方で、組織で働いてきたので、常にヒエラルキーのなかに仕事はあった。これまでのキャリアはいったん横に置いて、1人ひとりと対等に向き合う、そして、改めて「できるひとが、できることを、できるしこ」を基本精神にした町内会づくりに取り組むべきだろうと思い始めた。
僕のジェットコースターは自治体であったり国会であったり、社会福祉法人だったりを経由したが、一貫して非営利、公共のセクターだった。非営利組織のマネジメントは難しい。学びの場も大学院であったり、もやい九州というコミュニティだったり、NLPだったり、ストレングスファインダーだったり、ファウンデーションだったり、コーチングだったり、ホワイトボードミーティングだったり、ドラッカーの読書会も長年続け、学んだことはたくさんあった。しかし、一体何が自分に身についたのか、それが町内会長の仕事に反映されなければ、何の意味があったのかということになりはしないか?結局それは、机の上でものを考え、役所の窓から社会を見ただけのことになるのではないか?
その意味で、町内会長は人生の集大成だと思った。さらに、僕の公務員人生のキラーメッセージ「政治と行政の究極的な役割は市民の力を引き出すこと」これこそが、家族に次いでちっちゃなコミュニティ、足元の町内会長としても大切なのだとも気が付いた。
翌年の令和2年(2020)11月6日に、広太郎さんを香住丘公民館にお招きして、講演会を行うことになった。自治協の役員さんが別の公民館での講演の評判を聞いて、香住丘でもやりたい、ついては、講師の依頼をお願いしたいとのことだった。迂闊にもそこでハタと気が付いた。山崎市政が目指したものが「コミュニティの自律経営」だったことを。
広太郎さんの演題は「高齢社会における地域のあり方」だったが、いの一番に「コミュニティの自律経営」こそが、市行政の最終目標であると述べられた。ここで、僕はこれまでの人生のすべての点と点が「コミュニティの自律経営」につながったと思った。オセロのコマが全部ひっくり返るように。町内会長が人生の集大成であることも至極当然のことで、ジェットコースターがここまで連れてきてくれたのだと思った。広太郎さんとは、ほかの公民館にも働きかけて、行脚しましょうと約束した。そして、主権者意識を育て、市民自治を創造するために「広太郎塾」を立ち上げようとも。が、翌3月11日広太郎さんが急逝してしまった。そして、「コミュニティの自律経営」は広太郎さんのレガシーとなった。
香住ヶ丘6-3区での取り組み
福岡市東区香住ヶ丘は昭和20年代の前半、赤松林を切り拓いた区画整理によって生まれたまちで、昭和25年県営住宅200戸が建設され、わが家の100歳、95歳の両親は、最初に入居した最早数少ない第一世代である。県営住宅の払い下げにより、木造平屋のマッチ箱のような県営住宅は姿を消し、今や香住ヶ丘は閑静で良好な住宅地としての評価をいただいている。わが6-3区は、最初に造成された香住ヶ丘を周回する幹線道路に面しており、まちの構造に大きな変化はない。なので、校区のなかでも高齢化率が高い26.9%(校区平均21.3%)。その一方で、第一世代の土地が細分化され、子育て世代が入居しやすい環境が生まれており、乳幼児の比率は、6.4%で校区最多の割合である。
コミュニティの役割といえば、やっぱり高齢者と子どもとの関わりだから、我が町内は課題最先端というか、やることがわかりやすい。
そこで思いついたのが、町内のハロウィン・パレードだった。うちの娘たちがハロウィンデーになると仮装して出掛けていたので、いろいろ教えを請うた。「Trick or Treat」が合い言葉であることも。組み立てはこうである。町内に見守りの必要な高齢者世帯が15世帯ほどあり、一方で子ども育成委員さんが走り回って、子どもたちは20人ほども集まりそうだと分かった。そこで、高齢者世帯、子どもたちをそれぞれ2グループに分け、町内会で用意したお菓子を高齢者世帯にあらかじめお届けし、ハロウィングッズを玄関口にぶら下げて目印にした。思い思いに仮装した子どもたちが10人くらいずつに分かれ、高齢者世帯を訪ねて、「Trick or Treat!?」「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ!」とやるのだ。ハロウィン・パレードはあちこちのバカ騒ぎが報道されていたが、これなら親御さんたちも安心して子どもたちを参加させられるし、もちろん子どもたちは大はしゃぎ。そして何より、高齢者の皆さんが大喜び。「元気もらった!」「うちの町内にこんなに子どもがいたのかと、嬉しくなった」などなど、本当に高齢者は子どもたちが大好きなのだ。
核家族化が進むなか、思った以上に多世代交流の狙いは図に当たった。町内の恒例行事にしようと盛り上がったが、コロナの感染拡大で、2020年、2021年は実施を見送り、令和4年(2022)、3年ぶりに開催することができた。さらに子どもたちの参加も増え、好評を得た。町内の恒例行事として定着しそうである。そして、令和5年(2023)は、30人の子どもたちが参加したが、こんなうれしい出来事があった。事前にお菓子を配りに高齢者のお宅を訪ねると、「最近子どもたちが通学の折に、『いってきます』とか、『おはようございます』と挨拶をしてくれる。どうやらハロウィン・パレードでうちを訪ねてくれた子たちのようだ」と。「それです!そのためにハロウィン・パレードをやっているようなものです!」
もう1つ、これは中央区役所時代に某校区がBBQ大会をやっていて、BBQ大会が町内親睦にすごく効果があるということを見聞していた。いつか自分のまちでもやってみたいと思っていたが、コロナ禍や狙っていた市有地が民間に売り払われてしまって、手を拱いていた。
幸か不幸か、校区住民にとってわが家の庭のような、かしいかえんが閉園となり、「かしいのはまビレッジ」というキャンプ場に転用されていた。ここを利用することにした。
福岡市の「町内活動支援事業補助金」も活用して、『安心・安全/多世代交流/まちぐるみBBQ大会』を開催した。想定以上の65人の参加があり、大成功だった。町内の安心・安全のためにはまずは顔の見える関係づくりが大切なので、今さらだけど貴重な一歩だったと思う。
町内会長5年目、毎年の町内一斉清掃の参加者が少しずつ増え(最初の年の倍)、町内会総会の参加者は相変わらず低調だが、委任状は回収に回らずとも定足数が確保できるようになった。町内でつくったLINEのオープンチャットの参加メンバーも少しずつ増えて、じっくりじわーっと手応えを感じてきている。もちろん、町内会のために活動があるのではない。ほどほどのつながりと顔が見える関係性がもたらす安心感、支え合うことで得られる暮らしの豊かさ、その絆づくりが町内会にとって何より大切だと思う日々である。
地方分権がそうであるように、大切なことは補完性の原理である。だから、校区単位の自治協議会でものを考える前に、まずは町内会活動にしっかり取り組み、課題/テーマによっては隣の町内会と組んでやる(たとえば、防災訓練など)。それで解決できないことを校区単位でやる。香住丘校区の人口は東区でも2番目の多さで、19,000人を超える。自治体としては町レベルの規模であり、それぞれの町内の課題には手が届かない。またその単位で考えると、どうしても行政の縦割りが邪魔してくる。地域の課題は常に総合的であり、決して縦割りたり得ない。なので、僕は町内会長が人生の集大成なのだ。自治に関していえば、大は小を兼ねないのである。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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