森林経営を効率化する「スマート林業」の実態とは

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 林業は、木材資源の安定供給のみならず、水源かん養や土砂災害防止、CO2の吸収など多面的な機能を担う重要な産業だ。一方、担い手の高齢化や後継者不足など、多くの課題も抱えている。これらを解決するには、林業技術の高度化や「スマート林業」の導入、効率的な森林管理の推進が欠かせない状況だ。そこで、スマート林業を中心に、現在、どのような取り組みがなされているのか取材した。

ドローン活用の恩恵とは

    大都市・福岡市には、市民の身近に森林がある。人口が増大し宅地開発が進んでいるが、市の面積の約3分の1を森林が占めており、中心部からクルマで30分も走れば、いずれかの森林にたどり着けるほどだ。森林には、スギを中心とする人工林がある。人工林とは、樹木の伐採や苗木の植栽、下刈り、除伐、間伐などの作業が行われ、樹木の世代交代(造林)が行われている林のことをいう。これらの作業は重機による支援はあるものの、いまだに作業の多くを人力が担っている。そして、そうした実情の下、健全な森林環境が保たれ、多くの人々が気づかないうちに水源かん養や土砂災害防止といった恩恵を受けている。

 西区金武の森林も、スギを中心とした人工林が存在するエリアだ。林道(作業用道)をしばらく進むと、伐採されて山の斜面があらわになった光景を目にすることができる。今後、再造林の作業が行われる予定だが、相応の広さがある伐採地は勾配が急峻で、上り下りするだけでも大変な体力を必要とする。重機が入る谷筋は比較的整えられているが、勾配を登った尾根付近は這って登らなければならないほどだ。チェーンソーなどの重量物を担ぎ上げるのには、相当の体力と注意力が必要なのは想像に難くない。これまではそうした作業を人力で行ってきたわけだが、そうした負担を軽減するものとして、スマート林業による技術、具体的にはドローンの活用が注目、模索されている。

研修で使われたドローン
研修で使われたドローン

    今回、この地で行われていた、福岡県が森林組合を対象に実施した林業用ドローンのオペレーターの人材育成研修の様子を取材した。ドローンは直径150cmほどの大きさ。約25kgまでの荷物をつり上げ、瞬く間に任意の場所に運ぶことができる。今回はチェーンソーのほか、シカ害対策用のネットやその関連用具などを運搬するという研修内容だった。福岡県広域森林組合の3人の職員が、指導員のアドバイスを受けながら、確実に荷上げ、荷下ろしを繰り返していた。

 そのうちの1人に話を聞くと、「ゲーム機の操作などをしている人なら、比較的容易にドローンの操作もできるのでは」と話していた。また、指導を受けていた職員のなかには女性もいた。担い手の不足や高齢化が林業の重い課題となっているなか、ドローンは女性など体力が乏しい人の入職を促すものになるのではないかと感じられた。現状、ドローンが担える役割は限定的だが、これまで各種の作業資材を人力で担ぎ上げ、下ろしていたことを考慮すると、ずいぶん作業負担を軽減できるし、それにより効率化も図られるはずだ。

導入には課題も

付属の備品
付属の備品

    ただ、ドローンの導入には課題も多い。とくに大きなものは導入コストで、今回使われたドローンは1台で高級国産車並の価格。バッテリーなどの備品も別途必要だ。しかも、「年間を通して活用できるわけではない。林業の作業は冬期が繁忙期で、それ以外の時期にいかに活用を行うか、といった問題点もある」(福岡県森林組合連合会の関係者)からだ。もちろん、強風など天候によってもドローンの活用ができないケースもある。しかし、導入の検討はまだ始まった段階であり、たとえば、コンテナ苗を活用して苗木の植栽時期を拡大し運搬の機会を増やすなど、工夫次第ではコストを回収できる可能性もある。

研修には女性の姿も
研修には女性の姿も

    さて、スマート林業は運搬だけにとどまらない。たとえばドローン1つとっても、広大な森林の測量や地図作成を効率的に行うための活用が期待されている。それにより収集される測量・地図データは、森林資源がどれだけあるか、森林の健康の状態、災害時の被害状況などの把握に役立てられるのだ。何より、従来の測量では、人が現地を歩いてデータを収集する必要があったが、ドローンによって短時間に、そして作業する人たちの身体的な負担を減らしながら、安全に詳細な3Dマップの生成ができる。また、森林資源データは、木材活用のサプライチェーンの「川上」である山主や森林組合などに対する収支提案や、森林管理者が「川中」の需要情報を把握して生産情報を割り当てる需給マッチングシステムの導入などに役立てられるなどの利用法がある。

アシストスーツのイメージ。工場内作業などでも活用されている
アシストスーツのイメージ。
工場内作業などでも活用されている

    林業用アシストスーツの導入も、スマート林業に関連するものの1つ。急傾斜や不整地での移動や重量物の運搬などをサポートするもので、従来に比べ性能や耐久性が向上した製品も見られるようになった。今回のドローン研修で指導を担当した東洋エンジニアリング(株)(滋賀県大津市)の担当者は、「福岡県はもちろんのこと。ドローンをはじめとしたスマート林業のノウハウを求めている自治体や団体、林業事業者は年々増加している」と話す。そうした話からも、今後はスマート林業化がさらに進み、その導入の如何で林業再生における自治体や事業者の優劣が決まりそうな状況だ。

【田中直輝】

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