トランプ関税政策の深謀遠慮

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 NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は「トランプ大統領は米国の株価が急落しても、直ちに株価を急反発させる言動を示しておらず、むしろ、株価下落を正当視しているようだ」と指摘する4月8日付の記事を紹介する。

 トランプ台風が吹き荒れて世界の金融市場に波乱が生じている。原因はトランプ大統領が指揮する関税政策。米国との貿易収支で黒字を出している国からの輸入に高率関税をかけるというもの。トランプ大統領は、貿易赤字はけしからんという判断を有しているように見える。

 貿易収支(経常収支)が赤字の国は収支尻の赤字部分を海外からの資金流入で帳尻を合わせる。海外からお金を借りてたくさんお金を使っているということ。貿易収支(経常収支)が黒字の国はモノをたくさん売って資金を稼ぐが、余ったお金を海外に融通することになる。

 生活水準が何によって決定されるかと言えば消費水準によって決まる。貿易収支(経常収支)が赤字の国は所得以上の派手な暮らし(消費水準)を謳歌して、足りない資金を海外からの資金流入で賄っている。貿易収支(経常収支)が黒字の国は国内でお金が余り、余ったお金を海外に融通しているが、生活水準(=消費水準)は稼いだお金よりも少ないつつましい暮らしになる。

 アリとキリギリスのような関係だが、海外からの資金流入が途絶えなければ、米国は身の丈以上の派手な暮らしができているわけで悪い話ではない。「アリとキリギリス」の寓話は夏に遊びを謳歌するキリギリスと夏もせっせと働くアリの話で、冬になって何の貯えもないキリギリスは困窮し、アリは冬も豊かに暮らせたというもの。しかし、現代版の「アリとキリギリス」は冬になって困窮したキリギリスがアリの家にたどり着くと、夏に懸命に働いたアリは倒れて動けなくなっていて、キリギリスがアリの貯えで冬も豊かに暮らすというもの。

 米国は貿易赤字を計上しているが、不足資金の調達=ファイナンスに困っている状況でない。トランプ大統領が貿易赤字を敵対視する理由が十分に明快でない。海外の米国への輸出に高い関税をかける。
関税を負担するのは輸入者である。関税分を価格に転嫁すれば、輸入品の米国での販売価格は上昇する。このとき、輸入品の価格が上昇し消費者が輸入品から国産品にシフトすれば国内製造業の生産が増大する。

 トランプ大統領は関税率引き上げで国内製造業を繫栄させることを目指しているようだが、果たしてそうなるか。かつて、マッキンリー大統領が関税を引き上げた時代は、米国製造業が上り坂の時代。世界の工場が英国から米国に移動する時期だったから、米国製造業の発展に一定の寄与があったと思われる。しかし、マッキンリー大統領も2期目を迎えると判断を変えて、自由主義重視に見解を変えた。米国製造業が世界の工場であった時代は終焉した。

※続きは4月8日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「トランプ関税政策の深謀遠慮」で。


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