
一人親方とは、建設業等において、請け負った工事について自らの責任で完成させることができる、現場作業に従事する技能者である個人事業主のことです。元請業者などとの指揮命令関係は生じず、自分で仕事量を調整して、従業員に比べて高い単価で仕事を受注できる立場になります。他方で、従業員ではありませんので、社会保険に加入するのではなく、自己負担で国民健康保険・国民年金に加入することになりますし、労災保険も任意かつ自己負担ですので、万一の事故等の際の保障が十分でない可能性もあります。
しかし、建設技能者を独立させて請負契約を結びながら、実際には直接指示・命令を下して従業員と同じ待遇で労働をさせる、偽装請負が問題になっています。
この背景として、2020年に建設業の社会保険加入が建設業許可・更新の要件として社会保険加入対策が強化されましたが、社会保険料負担を避けたい企業が、労働者ではなく個人事業主である一人親方として扱おうとすることがあります。また、働き方改革のなかで、労働者の「残業時間の上限規制」や「有給休暇の取得義務」などが法制化されたため、これらの義務を免れようとして、残業代を払う必要がなく、有給を付与する必要もない一人親方として扱おうとするものです。
しかしながら、一人親方の実態が偽装請負であった場合、次のような問題が発生します。
本来であれば労働者として雇用すべき技能者を、労働者でないことを理由に労働時間や休日などの規制対象外として扱っていると、偽装請負であると判断された場合に「労働基準法」に違反したことになります。
また、一人親方を個人事業主として扱う場合、社会保険へ加入せず、保険料を納付していないはずです。しかし、労働者と同じと判断されると、労働保険や社会保険の支払義務があるのに支払をしていないことになり、企業は遡って保険料を納付しなければならないことになります。
このような問題が起きないように、企業としては、「一人親方」が労働者に該当しないか、その働き方の実態を確認、検討する必要があります。具体的には、次の点について検討し、労働者と変わらないのであれば、雇用契約の締結など適正に対応しましょう。
①依頼に対する諾否の自由(取引先からの仕事を断る自由があるか)
②指揮監督の有無(毎日の仕事量や配分、進め方を、基本的に裁量で決定できるか)
③業務時間の拘束性(就業時間(始業・終業)を基本的に自分で決められるか、取引先に決められているのか)
④代替性の有無(都合が悪くなったときに、代役を立てることも認められているか)
⑤報酬の労務対償性(報酬・工事代金または賃金が、工事の出来高見合いで決定されているのか、日や時間あたりいくらと決まっているのか)
⑥資機材等の負担(仕事で使う材料または機械・器具などを自分で用意するか、企業が用意するか)
⑦報酬の額(同種の業務に従事する正規従業員と比較した場合、報酬の額は高額か、それとも経費負担を引くと同程度またはそれより低くなるか)
⑧専属性の有無(他社の業務に従事することが可能か)
<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所
所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/
<プロフィール>
岡本成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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