【行政動向最前線】食品ロス削減へ、期限表示GLの安全係数「0.8以上」を削除 「フードバンク認証制度」を2026年4月に導入

 食品ロス削減に向けた動きが本格化してきた。直近の重要な取り組みに、食品期限表示ガイドラインの改正と、フードバンク認証制度の導入がある。消費者庁は、これまで必要以上に短く設定されてきた食品の期限表示の見直しを促すため、「食品期限表示設定ガイドライン」を改正し、3月28日に公表した。2026年4月からは、企業が寄附した食品を適切に管理できるフードバンクの認証制度をスタートさせる。これらの施策により、まだ食べられるのにもかかわらず廃棄される食品の削減を目指す。

必要以上に短い期限表示

 政府の食品ロス削減推進会議は昨年12月24日、事業系食品ロスの新たな削減目標として、2030年度までに2000年度比で60%減とする方針を掲げた。家庭系食品ロスの削減目標については、従来の50%減を据え置いた。事業系食品ロスの削減は、8年前倒しで当初目標の50%減を達成。農林水産省では「(新たな目標の)60%減については過去のトレンドを踏まえて設定した」(外食・食文化課食品ロス・リサイクル対策室)と説明している。

 目標達成に向けて、国は新たな施策を打ち出した。その1つが、期限表示の設定の在り方を改善すること。食品の消費期限や賞味期限は、各企業が自社の基準に基づいて設定している。消費期限は、微生物試験など安全性に関する試験結果を優先して設定。賞味期限は、理化学試験や官能検査など品質に関する試験結果を優先して設定することが基本となる。どちらも科学的な根拠に基づいて、それぞれの食品の特性に応じて設定する。

 食品によって期限の長さは異なるものの、消費期限については「5日以内」と思っている消費者が多い。チルド商品で「5日以下」を消費期限としている食品メーカーもある。これは1995年に期限表示を導入した際に、国の通知によって、消費期限と賞味期限を「5日」で区分する考え方を示したことによるもの。その後、「5日」の区分方法は取り消され、2008年からは推奨されていないが、現在も引きずっている消費者や企業も少なくないようだ。

 さらに、必要以上に期限表示を短めに設定している企業も多い。たとえば、缶詰やレトルトパウチ食品は加圧加熱殺菌を施しているため、微生物による危害の恐れがない。当然、むやみに期限を短く設定する必要もない。だが、これらの食品でも「安全係数」を用いて、期限表示を必要以上に短く設定しているケースが多い。

 一般的に各食品メーカーでは、科学的な試験で得られた期限に、「1」未満の数字を乗じて期限を設定している。これは、品質のバラツキや保管条件のブレを考慮して、試験結果で得られた期限よりも短めに設定するのが狙い。その際に用いる「1」未満の数字を安全係数と呼ぶ。

 消費者庁が行った調査によると、缶詰・レトルト分野で用いる安全係数は「0.8~0.99」が最も多く、6割に上った。次に多かったのが「0.70~0.79」で、2割強を占めた。本来、缶詰やレトルトパウチ食品は微生物のリスクの観点から、安全係数を用いて期限を短めに設定する必要性がない。しかし、ほとんどの企業で実施されているというのが実態だ。この背景として、食品表示法の食品表示基準Q&Aで、期限を設定する際に、安全係数について「0.8以上を目安に設定することが望ましい」としてきたことがある。

ガイドラインを改正

消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドラインの見直し検討会」(2025年3月18日)
消費者庁「食品期限表示の設定のための
ガイドラインの見直し検討会」(2025年3月18日)

    消費期限や賞味期限の設定は、それぞれの食品の特性に応じて、科学的根拠に基づいて行う必要がある。各企業が自社商品の特性を最も理解していることから、各企業の責任で設定することが求められる。しかし、実態を見ると、行政が示してきた「5日」による区分や安全係数「0.8以上」という考え方に依存してきたようだ。また、これらの施策が仇となり、食品ロスを発生させる要因の1つとなってきた。

 こうした状況を改善するため、消費者庁は食品期限表示設定ガイドラインを改正し、3月28日に公表した。新たなガイドラインでは、食品の特性に応じた安全係数の設定を求めた。「食品の特性等によるが、安全係数は1に近づけること、また、差し引く時間や日数は0に近づけることが望ましい」と記載。加圧加熱殺菌を行うレトルトパウチ食品や缶詰などでは、安全係数を考慮する必要はないことを明示した。

 検討段階で消費者庁は、安全係数を考慮する必要がない食品として、レトルトパウチ食品、缶詰のほか、塩蔵品などの塩分が著しく高い食品や、香辛料などの水分活性が低い食品も想定していた。しかし、検討会で一部委員から、該当しない商品もあるとして反対意見が寄せられ、ガイドラインに盛り込まなかった。

 一方、微生物が増殖する可能性や品質のバラツキがある場合には、安全係数を設定する必要があるとしている。目安となってきた安全係数「0.8以上」が削除されたことから、今後、安全係数の必要性や用いる値は、各社が科学的根拠に基づいて判断することになる。

 また、改正ガイドラインの注目点として、消費者への情報提供もある。適切に保存していた食品が賞味期限を過ぎた場合、食べていいかどうか迷ってしまうケースが多い。そうした問い合わせが消費者から寄せられた場合、情報提供することを企業の努力義務に据えた。各社には情報提供の体制整備が求められる。

 消費者庁では「業界団体を通じて事業者に周知する。消費者には消費期限・賞味期限の意味を理解してもらうようにする」(食品表示課)と話している。今後、新たなガイドラインに基づいて、期限の延びる食品が増えるかどうかが注目されそうだ。

安心して寄附できない現状

 食品ロス削減に向けたもう1つの新たな施策として、フードバンク認証制度が注目されている。消費者庁は25年度に実証実験を実施し、26年4月から導入する計画だ。

 メーカーや小売などの食品企業では、容器包装の表記ミスなどが原因で、安全に食べられるものの、流通経路に乗せることができない食品が発生する。そうした食品は廃棄処分にするか、またはフードバンクなどへ寄附することになる。フードバンクへ寄附する場合、運送費などがかかるため、少ない量ならば廃棄したほうが安く済む場合もある。一方、ある程度の量になると、寄附したほうがコスト面で有利となる。このため、各企業ではケースバイケースで判断しているのが現状だ。

 食品寄附の主な流れは次の通り。食品メーカー・卸・小売企業は、流通させない食品をフードバンクへ寄附する。フードバンクを経由して、子ども食堂やフードパントリーなどが、貧困のため食品を十分に確保できない最終受益者(消費者)に提供する。子ども食堂では食事として提供し、フードパントリーでは寄附された食品を小分けにして提供する。

 フードバンク団体は増加傾向にある。16年に98団体だったが、23年には約2.5倍の252団体に膨れ上がった。全国のフードバンク団体が必要としている食品は、年間で約15万tと推計される。ところが、実際にフードバンク団体が取り扱っている量は、合計でわずか1万6,000tにすぎない。この背景として、前述したコストの問題もあるが、寄附先として信頼できるフードバンク団体が不明なことがある。食品企業にとっては、寄附先のフードバンク団体が適切に食品を管理できるかどうかが気になるところ。保管状況が悪いと、食中毒事故が発生する恐れがあるからだ。

 とくにチルド食品や冷凍食品の場合、保管設備が完備されていることが重要となる。しかし、フードバンク団体のうち、チルド食品や冷凍食品の保管設備を保有している団体は全体の半数にとどまる。これに加え、各団体が保管できる量にも格差があり、食品企業にとって、どの団体ならば安心して寄附できるのかが把握できない状況にある。

フードバンク認証制度を導入

食品ロス削減推進会議で挨拶する伊東消費者担当相(左から3人目、2024年12月24日)
食品ロス削減推進会議で
挨拶する伊東消費者担当相
(左から3人目、2024年12月24日)

    課題の解決に向けて、消費者庁はフードバンク認証制度を導入する方針を打ち出した。企業が安心して寄附できるフードバンク団体を認証し、寄附を促す。これによって、フードバンク団体が必要とする量と実際の取扱量の開きを埋める考えだ。

 25年度に認証制度の実証実験に取り組む。消費者庁は「年間取扱量が300t以上の大口のフードバンク団体を対象に実施する」(食品ロス削減推進室)と説明。昨年12月に策定した食品寄附ガイドラインのチェックリストを満たしているかどうかを確認するという。

 実証実験の結果を踏まえ、認証要件を整備する。26年4月に認証制度をスタートさせて、認証済みフードバンク団体の名称・住所などを公表する計画だ。これを基に、食品メーカーや小売企業が、安心して寄附できるフードバンク団体を選べるようにする。

 フードバンク認証制度の導入に対し、フードバンク業界では期待と不安が入り混じっているようだ。(公社)日本フードバンク連盟の芝田雄司氏(政策担当)は、「各団体のレベルの底上げにつながるとよいと思う」と期待する。その一方で、「認証の要件をどのレベルで設定するかという課題がある。これに加え、認証は書類ベースで行う予定だが、管理ができていることをどう証明するのかという問題もある」と指摘する。また、日本フードバンク連盟では従来から独自の認証制度を運用してきたことから、消費者庁が導入する認証制度とどう連携させていくのかという点も今後の課題に挙げる。

 (一社)全国フードバンク推進協議会の米山廣明氏(代表理事)も、「ここ5年ほどでフードバンク団体の数が倍増し、全体の底上げが必要だ」と話す。「認証される団体とそうでない団体に分かれることになり、団体間の格差が広がるという懸念もある」とし、実態に沿った認証要件の設定を求めている。

保険加入の問題も

 食品の寄附をめぐっては、ほかにも課題が山積している。万一の事態に備えて、保険制度を拡充することもその1つ。企業が寄附した食品によって、事故が発生する可能性も否定できない。このため、最終受益者に食事を提供するこども食堂の約9割が、何らかの保険に加入済み。そのうちの約半数が、社会福祉協議会のボランティア保険を選択している。一方、フードバンク団体の保険加入は進んでいない。そこで、消費者庁では、損保会社によるフードバンク用保険の提供を推進し、加入を推奨する方針を示している。

 また、独自の取り組みを展開する企業も見られる。スーパーマーケットを展開する(株)ハローズは、食品を寄附する際にフードバンクを経由せずに、こども食堂などの支援団体が最寄りの同社のスーパーマーケットへ取りに行く仕組みを構築。これにより、傷みやすい食品や、その日のうちに食べる必要がある食品の寄附も可能としている。同時に、直接手渡すことから、輸送に必要な燃料費を年間で22万円、輸送にかかる時間を延べ1,500時間も削減しているという。

 SDGsへの取り組みが叫ばれるなか、食品ロス削減の取り組みは、食品を取り扱う企業にとって避けて通れない。「3分の1ルール」といった商慣習の見直しに加え、今回改正された食品期限表示ガイドラインに沿った期限設定の見直し、食品寄附の推進などもいっそう重要となりそうだ。

【木村祐作】

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