2024年12月22日( 日 )

日本蝕み、ダメにし、滅ぼす「B層」!

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『ミシマの警告』適菜 収著(講談社+α新書)

昭和の軍国主義を批判し、徴兵制と核武装を否定

 表題の「ミシマ」とは小説家・評論家・政治活動家で、1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地で、クーデターを促し、割腹自殺した三島由紀夫のことである。ただし、著者はミシマが「極右の民族主義者」であったという風評を否定。ミシマこそ真の「保守」と捉え、ミシマの言葉を振り返りながら、今の世の中、ひいては我々の思考の土壌について考察している。ミシマは、昭和の軍国主義を批判し、徴兵制と核武装を否定した。正統「保守」の立場において、「議会主義」を守ろうとし、「全体主義」を最大限に警戒した。「愛国教育」や「国粋主義」も嫌った。


 「われわれは戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失い、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力慾、偽善にのみ、捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を瀆(けが)してゆくのを、歯嚙みをしながら見ていなければならなかった。

(三島由紀夫の最後の声明文『檄』から)


B層とはマスコミ報道に流されやすくIQが低い

 適菜収氏は作家、哲学者である。安倍晋三政権の支持母体と言われる、“日本を蝕み、ダメにし、滅ぼす”、「B層」にまつわる著書が多い。本書にも『保守を偽装するB層の害毒』という副題がつけられている。


 B層とは、適菜氏の造語ではない。2005年9月のいわゆる郵政選挙の際、自民党が広告会社に作成させた「郵政民営化・合意コミュニケーション戦略(案)」に登場する概念である。この企画書では、国民をA層、B層、C層、D層に分類。B層を「構造改革に肯定的で、IQが低い層」「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」と規定している。小泉自民党は、「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と問題を極度に単純化し、普段モノを考えていない「B層」を狙い撃ちし、圧勝した。その後も、靖国神社を利用し、B層のナショナリズムを煽ることで勢力を伸ばした。適菜氏はこれを、「ナチスなどの全体主義政権下で確立された手法」と指摘する。


 このB層を適菜氏は「大衆社会の成れの果てに出現した、今の時代を象徴する愚民」で、「マスコミ報道に流されやすい『比較的』IQ(知能指数)が低い人たち」と定義している。
世の中は複雑で矛盾に満ちている。簡単に答えを出せない問題がたくさんある。しかし、それを2項対立に落とし込み、白黒をはっきりさせようとするのがB層である。そして、今このB層が自称「保守」を名乗り、最も「非保守」的なものに流されている。

反共で思考停止することで、「保守」は劣化した

 そもそも「保守」とは何か。適菜氏は「人間理性に懐疑的であるのが保守」と明言する。すなわち、歴史に対する真っ当な態度、生活の姿勢で、《常識》を大切にすることである。
抽象的なものを警戒し、現実に立脚する。人間は合理的に動かないし、社会は矛盾を抱えていて当然だという前提から出発する。逆に言えば、「人間理性を信仰するのが左翼」である。そこで、当然、保守は反共の立場をとる。


 しかし、反共=保守ではない。逆に反共で思考停止することで「保守」は劣化した。本質を忘れ、自由主義に対する警戒心を失い、暴走を見逃すことになったのである。とくに冷戦が終わり、「大きな敵」を見失い、西欧とまったく異なるアメリカの特殊な「保守観」(自由を神格化し、個人の自由に介入するものは悪とする極端な個人主義)が入ってきて、混乱した。
 その混乱の中で、アメリカかぶれの保守を偽装する近代主義者が「粗雑な観念」、「大ざっぱな観念」を振り回してきたのが、この20年である。彼らの目的は、アメリカを「保守」することおよびグローバリズムという名のアメリカニズムと戦後体制の堅持に他ならない。

中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国

 2013年7月26日、安倍晋三首相は、シンガポールで「・・・日本を、世界一、ビジネス・フレンドリーな国にしたいと、私たちは言い続けています。この点、シンガポールに追いつき、できれば追い越したい。真剣にそう思っています。・・・」と演説した。適菜氏は、「なぜ、長い歴史を持つ日本がシンガポールのような人工国家、独裁国家を目指す必要があるのか」、また「これは、日本に外資を呼び込み、女性を労働力として駆り立て、シンガポールのような、移民国家、多民族国家にする明確な意思表示」と指摘する。


 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。

(三島由紀夫『果たし得ていない約束』から)

 アメリカ調査会社ギャラップが2012年に発表した日常生活の「幸福度」調査で、シンガポールは148カ国中、最下位である。

「何かが変だ」「いかがわしい」と肌でわかる

 適菜氏は、「安倍晋三首相は『保守の対極』に位置する人間である」と考えている。第1次安倍政権、第2次安倍政権で一貫して行われてきたのは、日本国の解体である。極めてシンプルな対米追従・売国路線である。アメリカの要求通りに国を作り変える。これまでに自民党が戦後積み重ねてきたものを、全部壊してしまった。それを、自分の頭で判断することができないB層が支持している。


 女性は生物学的に「保守」的である。どんなに「女性の輝く社会」と言われようが、安倍晋三首相を見て、生理的に気持ちが悪いと感じる。「何かが変だ」「いかがわしい」と肌でわかるのである。女性週刊誌の特集「女性が選ぶ嫌いな男」(『女性セブン』2014年5月8・15日号)の第1位に、安倍晋三首相が選ばれている。


 最後に、適菜氏は「近代において発生した大衆、その中でも特に知的レベルの低い『B層』が今の日本社会を支配している」と語り、ミシマが警告した「戦後民主主義とそこから生じる偽善というおそるべきバチルス」がミシマの自決から45年経った今、完全に日本社会を覆ってしまったと結んでいる。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。

 

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