もう入らない
オーナーは年間売上高30億円以上の営業力を持ち、大半を筋の良い大手企業からの受注で占めてきた。しかし現場スタッフが高齢化し、挑戦する意欲を失ってしまった。「せっかくの得意先からの受注をこなすところがないのではないか」と相談があったため、早速4社のゼネコンに打診した。ところが返ってきた答えはどこも「もういらない」というもの。これには驚かされた。
従来「請負業」という言葉は、施主のために忠誠心を持って仕事をこなす姿を象徴してきた。仕事を終えれば発注先も受注先も共に満足するのが本来の姿であったはずだ。しかし現実には、請負側が辛酸をなめ、つぶれる例も少なくなかった。言葉には負の響きが伴ってきたのである。
だが今や、請負業は「請勝業」へと変貌している。施主と業者の力関係が逆転しつつあるのだ。福岡市水道局や下水道の発注先が業者に頭を下げて「次の天神の下水管工事をお願いできませんか」と懇願する時代である。「そこまで頼まれるなら請けてやろうか」という対応だ。まさしく主客転倒、「請勝時代」の到来である。
工事の大型化
4社の回答を具体的に紹介する。
1例目=手が回らない。「設計中の物件まで含めると、施工力3年分の物件を抱えている。3年後の完工高は120億円になる見通しだ。こちらから営業しなくても選り好みできる環境にある」と話す。長年、物流や工場案件に特化してきたため、施主から優先的に指名を受けるという。
2例目=請負金額の増大。地場中堅業者は提示案件に全く関心を示さず、自社の環境を誇る。「大手との取引実績が実り始めた。最近では1現場30億円超が珍しくなく、年間2件の受注見込みがある。若手社員が多く、技術力向上に燃えている。これ以上外部の案件を受ける余力はない」とやんわり断った。
3例目=工事の大型化。「近年の完工高は140億円。昔はこの水準に達するのに25件必要だったが、今では30億円規模の案件が当たり前となり、10件程度で同水準に届く」と説明する。
4例目=請勝業は10年続く。地元トップクラスのオーナーは「今の受注環境はあと10年は続く」と見通す。「業界は大激変を続けてきた。今後はさらに企業間格差が鮮明となり、規模がなければ求人もできず生き残れないだろう」と断言した。
人口極減が最大のネック
確かに「人口減が最大の頭痛の種」である。しかし前述のオーナーが指摘するように、10年以内には致命的にはならない。その間は特殊な需要増が支える。
(1)軍事基地や兵器工場関連投資。種子島隣接基地の建設では100億円企業が誕生した。佐賀空港は「佐賀軍事空港」と呼ぶ方が的確である。
(2)産業構造の大変革による工場建設、エネルギー関連や物流拠点投資。
(3)インフラ再投資による公共事業。
これらが下支えとなり、少なくとも今後10年間は「請勝業」の時代を享受できるといえる。