【マックス経営講座】中小企業の生き残り戦略(15)戦略を“絵に描いた餅”にしない~実行と定着のためのPDCAサイクル~
はじめに
中小企業の経営現場では、「計画はつくったけど、なかなか実行に移せない」「最初はみんなやる気だったのに、半年後には元に戻ってしまった」という声をよく耳にします。これは戦略や計画の質が低いからではなく、多くの場合、「実行と定着の仕組み」が不足していることが原因です。どれだけ優れた経営戦略やDX計画をつくっても、現場に浸透し、日常の行動として習慣化されなければ成果は出ません。今回は、戦略を「絵に描いた餅」で終わらせないための、実行と定着の仕組みづくりについて解説します。
戦略実行を阻む3つの壁
1.現場の理解不足
目的や背景が十分に説明されず、「なぜやるのか」がわからないまま動かされている状態では、人は自発的に動きません。戦略の意義や狙いを経営者自らが繰り返し説明することが必要です。
2.進捗管理の欠如
計画を立てても、進捗を確認する仕組みがなければ、優先順位は日々の緊急業務に押し流されます。定期的なチェックとフィードバックが不可欠です。
3.成果と評価の連動不足
頑張って成果を出しても、評価や報酬に反映されなければ、モチベーションは続きません。逆に、達成度を明確に認める仕組みがあれば行動は続きます。
実行と定着のための
PDCAの実務化
P(Plan):戦略目標を「数値」と「期限」で明確化
・「半年以内に新規顧客を30件獲得」「売上を前年同月比5%増」など、誰が見てもわかるかたちにします。
D(Do):小さく試し、社内で共有
・全社展開の前に小規模で試行し、成功パターンを確認します。失敗事例も隠さず共有し、改善に生かすことが大切です。
C(Check):月1回の短時間ミーティングで進捗確認
・進捗率やKPI達成度を数値でチェックし、現場からの生の声も拾います。数字とエピソードを両方共有するのがポイントです。
A(Act):課題が出たらすぐ改善
・改善策を次のサイクルに反映し、やり方を更新します。成功事例は横展開し、全社で再現性を高めます。
定着を促す3つの仕組み
1.見える化ボードの設置
売上、進捗率、改善提案数などを社内掲示板やデジタルツールで可視化します。数字が常に目に入る環境は行動を変えます。
2.評価・報奨制度への連動
KPI達成度を賞与、昇給、表彰に反映させると、戦略遂行が「やるべき理由」から「やりたい理由」に変わります。
3.成功事例のストーリー化
成果が出た社員やチームを社内報やSNSで紹介します。数字だけでなく「どうやって成果を出したか」の物語が共感を呼び、次の挑戦を促します。
事例紹介
製造業A社:DX導入により生産性を可視化。ダッシュボードにより日常的に生産性指標を全社員に共有した結果、現場からの改善提案数が3倍に増加。改善の成功事例は全員で称賛する文化が定着。
小売業B社:新規顧客開拓をKPI化し、半年ごとに成果発表会を開催。成果を出したチームを表彰し、その取り組みを全店に横展開。結果、2年連続で売上増を達成。
まとめ
戦略は「立案」よりも「実行と継続」のほうが難しいものです。ポイントは、小さな成功体験を積み重ね、それを見える化・評価・共有によって全員の習慣にすること。この習慣化が最も難しいのですが、最も大事なポイントです。PDCAは単なる理論ではなく、毎月の会議や日報、評価制度など、日常の仕組みにまで落とし込んで初めて機能します。「戦略の勝敗は、“会議室”ではなく“現場”で決まる。」今日から1つでも、実行と定着の仕組みを動かし始めてみましょう。
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西岡隆(にしおか・たかし)
大学卒業後、会計事務所、監査法人などを経て2001年中小企業診断士登録と同時に西岡経営管理事務所を開設。21年、事業拡張にともない(株)コンシャスマネジメントを設立