良貨を駆逐する派遣法改正(後)
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改正労働者派遣法では、IT産業の技術者や、通訳、秘書、デザインなど、派遣期間制限のなかった「専門26業務」が撤廃された。すべての業務で、制限期間が原則3年だが、事業所は過半数労働組合などの意見を聞けば延長できる。派遣される人さえ入れ替えれば、事実上期間制限なく派遣を受け入れられる。「どんな業種でも」「人を入れ替えれば、何年でも派遣を受け入れられる」というのが、労働者側や各地の弁護士会から「生涯派遣」「常用代替防止の理念放棄」と批判されている。
同時に労働者一人ひとりにとっては、同じ人が同じ課に派遣されるのは3年が上限になり、専門的な技術知識を必要とする業務であっても、他の人と入れ替わらないといけなくなる。
たとえば、IT技術者を常時雇用で抱える派遣元が、技術者を必要とする企業と派遣契約し、派遣先は技術者を派遣で継続的に安定的に確保し、労働者は同じ会社で同じ技術開発業務に長期間従事するという関係が続けられなくなる。派遣技術者らが派遣先を転々と…
派遣労働者は、約126万人(2014年6月1日現在。厚労省調査)。そのうち派遣先でみると、49万人が専門業務、製造業務が27万人、それ以外の一般事務や営業、販売が49万人とされている。専門業務のうち36万人が常時雇用型だ。
「格差といえば派遣、派遣といえば格差」のイメージが定着したが、その典型は登録型だ。同じ派遣といっても、派遣労働者の就業実態や意識は異なる。登録型では、派遣で働く理由の4割が「正社員として働ける会社がなかったから」で断トツだが、常時雇用型は、「正社員として働ける会社がなかったから」と「専門的な資格・技能を活かせるから」がほぼ拮抗している。(2014年「就業形態の多様化に関する総合実態調査)
登録型の72.1%は在籍年数が3年未満だが、常時雇用型は51.3%が3年以上在籍しているので、特定派遣(常時雇用型)の廃止や「専門26業務」の撤廃のマイナスは大きい。
雇用安定措置義務として、派遣先への直接雇用や新たな派遣先の提供などが定められているが、今まで期間制限なく同じ派遣先で働けた常時型派遣労働者でも、派遣先が直接雇用してくれなければ、3年ごとに派遣先を転々とする可能性もある。キャリアアップや安全教育など許可基準強化
3年間の経過措置などがあり、15年9月30日の時点で特定派遣元事業主であれば、18年9月29日まで、改正前と同じ派遣事業を営むことができるが、それ以降も派遣事業を継続するには、新たに許可を得る必要がある。
資産基準のほかに、許可基準のハードルは厳しい。法改正によって、「雇用管理を適正に行うに足りる能力」として、派遣契約終了だけを理由とした解雇をできると規定していないこと、キャリア形成支援制度や安全教育の実施体制などが追加された。
キャリアアップでは、教育訓練計画を定め、キャリア・コンサルティングの相談窓口の設置など、かなり細かい。
特定派遣元にとって、許可申請そのものが初めてで、とまどうことも多い。事業所ごとに事業計画書を提出し、個人情報適正管理規程やキャリア形成支援に関する規程も必要だ。厚生労働省では、中小規模の派遣元事業主への支援事業を開始し、支援セミナーや個別相談会を全国8カ所で実施している(いずれも無料)。はたしてソフトランディングできるのか。
改正派遣法に対応、移行するのがスムーズにできなければ、特定派遣元業者の廃業続出が懸念され、IT業界など技術者らを受け入れていた特定派遣先は安定した技術者の確保が困難になる恐れがある。特定派遣元に常時雇用されている派遣労働者は雇用を失いかねず、良貨を駆逐して終わりかねない。(了)
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