ゼネコンの思惑ぶつかる新国立競技場の新技術提案書
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14日、新国立競技場の新たな2つの案が公表された。どちらもテーマは「杜のスタジアム」。撤回されたザハ・ハディド案とは打って変わって、自然環境との調和を考えた建物となった。有名建築家が手がけたことになっているが、その背後にはゼネコン同士のプライドのぶつかり合いが透けて見える。
有名建築家がお化粧しただけ?
「スーパーゼネコン3社が手を組むなんて、考えられないよね」―新国立競技場の技術提案が大成建設vs竹中工務店、清水建設、大林組の構図になったと判明したとき、関係者から驚きの声が上がった。
それもそのはず、スーパーゼネコン同士が手を組み、別のスーパーゼネコンとコンペで対決する構図など過去に類を見ないからだ。審査の公正を期すため、技術提案書には業者名は公表されていない。ただ、「木と緑のスタジアム」を掲げたA案は著名建築家の隈研吾氏と大成のグループ、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げたB案は竹中、清水、大林の3社とこれまた著名建築家の伊東豊雄氏のグループと見られている。
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今回、デザイン決定過程では工費と工期を事前に明確化した。前回のザハ案をめぐっては、選定や予算編成の経緯が不透明だったという批判が相次いだため。その時は2,500億円にまで予算が膨らんだが、今回は上限を1,550億円にした。完成時期は、見直し開始時には2020年4月を目指していたが、国際オリンピック委員会が20年1月への前倒しを要請し、今回明らかとなった両陣営の提案ではともに総工費1,500億円未満、完成が19年11月末とされている。
これに関し、ザハ事務所は、「新たな参加要件では我々のデザインチームやその他の国際的な建築事務所や設計会社がコンペに参加できなかった」「日本政府が手続きを急ぎ、建設コストがいくらになるかわからない、期限内に完成できなくなるといった深刻なリスクがある」とコメントしている。
もともと、新国立競技場は建設業界では「やばい案件」という評価だった。つまり、火傷をしたくなければ手を出すな、ということだ。そんな中、大成だけは違った。旧国立競技場を手がけた実績もあり、ザハ案でもスタンド工区を1,570億円で受注していた。社運をかけて、何としてでも新国立競技場のコンペに勝たなければならない。一方、対抗馬のゼネコン3社も、大成の仕掛けをただ指をくわえて見守るわけにもいかない。
「そんなゼネコンの思惑が技術提案書に現れている」と建築関係者は指摘する。「A案もB案もゼネコンの設計チームがベースを作り、それを隈さんや伊東さんがお化粧しているように見える」と。そして、どちらの案でも、「更なる事業費縮減に向けた工夫に関する提案」という箇所が黒塗りになっている。ここに両者の独自性が現れているのだろう。ただ、下馬評では「隈・大成グループが有利」との声が多い。
年内にデザインと設計、施工を担う業者が決定され、年明けから構造や設備の配置などをまとめた基本設計、最終的な計画概要となる実施設計を順次進める見込み。順調にいけば、来年末に正式に業者と工事請負契約を結び、17年の年明けにも着工することになる。(画像提供:日本スポーツ振興センター)
【大根田 康介】
新国立競技場、新たな2案への建築家の見解
今回、新たに提示された新国立競技場の2案について、世界的に著名な建築家の有馬裕之氏に意見を聞いた。
「どちらも、よくできた作品に見えます。A案は格子を使用して周辺との調和を図っている。一方のB案は木を競技場の柱に使用し、それぞれ日本を表現しようとしています。共に風や光を呼び込む考えで、環境との調和も考えられています」
また、以前のザハ案については「良いか悪いかではなく、ザハ氏の案はアミューズメント的な要素が盛り込まれた、多機能デザインだったと見ています」としたうえで、今回の2案は、「単一的な機能へと縮小してしまっている」と指摘する。
「欲を言えば、もっと街に融合するような、いろいろな人がそこでからむようなイメージが感じられるようなものであれば、さらに良かったのでは」と評する。「競技場は、使用するときだけが人が集まり、それ以外は使用されないというケースが多いですが、そのような使用法はもはや古い考え方です。これからの新しい社会に向けた建築として、周辺とどう関係し、新しいタイプを創造していくのかが重要だと感じます」。
【坂田 憲治】
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