国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
日本初の女性宰相が誕生した。高市早苗──その名は長らく保守政治の旗印として語られてきたが、その軌跡の始まりは意外にもワシントンの議員事務所にあった。若き日の彼女は、米国議会の空気を肌で感じながら、権力の構造と交渉の術を学んだという。その経験は、後に「鉄の宰相」を目指す信念の核となり、いま彼女を日米関係という最前線へと導いている。だが、同時にその過去こそが、アメリカのしたたかな観察の網のなかに彼女を捕らえてきたのかもしれない。高市早苗という政治家はいかなる存在なのか──。
浜田和幸氏の緊急寄稿が、その素顔と宿命に迫る。
もちろん、日本にとっても高市総理にとっても、肝心要(かなめ)の対米関係ですが、トランプ大統領は今や危機的な状況に陥っていることも軽視するわけにはいきません。日本でも報道されていますが、「王様はいらない」とのスローガンを掲げる国民が全米各地で大規模なデモを展開しているからです。10月18日に全米2,700カ所で行われた反トランプ・デモには700万人もが参加しました。6月の反トランプ・デモの参加者は500万人でしたから、急速にトランプ大統領は支持を失いつつあることが見て取れます。
要は、強固なトランプ支持者は減少傾向にあることは論を待ちません。その理由は明らかで、「アメリカ・ファースト」と叫んでいますが、実態は「トランプ・ファースト」に過ぎないからです。「大統領就任後の7カ月で7つの戦争を終わらせた」と豪語し、ノーベル平和賞に値すると自己PRには熱心でしたが、アメリカ国内の現在の内戦状態に対しては州兵の動員によって力ずくで決着を付けようとするばかりで、貧富や地域間の格差を改善、克服するような手立てを講じることはなさそうです。これでは国民の不満や不信は加速するしかありません。
必然的に、暗殺の企ても急増している模様です。10月20日にはトランプ大統領の乗った大統領専用機のエアフォース・ワンがパームビーチ空港に着陸する直前に狙撃犯が隠れていた巨木がFBIによって見つかり、事なきを得ました。これまで何度も暗殺未遂に遭っているわけですが、無事に任期を全うできるか定かではありません。それほど、アメリカ社会の屋台骨が腐り始めていることの証左といえるでしょう。
一事が万事。アメリカが内部から分裂、崩壊への道を歩んでいることが世界に知れ渡り始めているのです。当然でしょうが、途上国を中心にアメリカ離れ、そして「ドル離れ」が収まりません。危機感を抱くトランプ大統領は「関税戦争」を通じて、形勢逆転を図ろうとしています。そうした苦境にあって、最大の「頼みの綱」が高市総理を選出した日本なのです。アメリカの国債を世界で最も多く保有しているのは日本に他なりません。
一時、中国が日本を抜きましたが、アメリカとの通商摩擦を抱える習近平政権は米ドルや米国債を市場でどんどん放出し、金(ゴールド)など希少金属の購入に血眼になっているようです。BRICSやグローバル・サウス諸国などでも、同様の動きが顕在化してきました。また、石破政権時にはアメリカの関税措置を和らげる意図からでしょうが、日本からアメリカへの莫大な投資額を約束したものです。その額たるや80兆円を下りません。しかも、その投資先の選定は90%をトランプ大統領に委ねるとのこと。ヨーロッパもアジアの国々もあまりのどんぶり勘定にあきれています。
実は、トランプ大統領には国家とか主権意識が希薄です。「モンロー主義」に戻ろうとしているのではないかとも思えるフシも垣間見えます。その意味では、ウクライナ戦争や台湾問題への関心は極めて限定的なものでしかありません。トランプ大統領の関心はビジネスが中心であり、ウクライナに関していえば、ウクライナの穀物資源や地下に眠る鉱物資源の利権の獲得に置かれています。
その流れに沿うかたちで、アメリカ企業への利益誘導が最優先されており、アメリカの投資ファンドのブラックストーンやブラックロックなどは、すでにウクライナの資源の開発権の大半を押さえている模様。自民党の高市総裁が誕生するや、ブラックストーンの最高経営責任者は来日し、早々に高市総裁と面談をしています。先手必勝ともいえる、その狙いは明らかです。彼らの意図するのは、日本の不動産や先端技術の利権の獲得にあります。
創業40周年にして、1兆ドルを超える世界最大の運用資産を有する投資ファンドに躍り出たブラックストーンは「日本にはまだまだ未開発の物的、人的資源が豊富に眠っている」と分析。同社のCEOであるスティーブン・シュワルツマン氏は創業当時から「日本なしでは今日のブラックストーンは存在しなかった」と心情を吐露していました。要は、ソフトバンクグループの孫正義会長を筆頭に、日本の金融機関や投資家からの資金調達こそが彼らの成長の原動力になってきたというわけです。
日本では30年以上もバブル崩壊後の経済不振が続いているとの自虐的な見方がはびこっていますが、ユダヤ系の世界最大の投資ファンドから見れば、「日本は宝の山。宝の持ち腐れ」というわけです。そのため、ブラックストーンは訪日外国人の急増を視野に、日本各地でのホテルやリゾート物件など高級不動産を熱心に買い漁っています。今や日本の不動産への最大の投資家集団は彼らに他なりません。また、iPS細胞など先端医療技術の開発で世界をリードする山中伸弥教授にも多額の資金提供を行っているではありませんか。
アメリカの意向を忖度せざるを得ない高市政権でしょうが、トランプ政権の直面する内外の課題に対して、ブラックストーンなどトランプ大統領を資金面で支え、「関税政策は変化をもたらす有効な手段だ」とトランプ政策を全面的に支援する投資ファンドの狙いも把握しておく必要があります。そのうえで、トランプ大統領の「ディール心」をくすぐるような日本的な切り札を懐に秘めて、日米首脳会談に臨んでほしいものです。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








