【BIS論壇】ベネズエラとトランプ

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は10月26日の記事を紹介する。

ベネズエラ イメージ    トランプ政権は南米ベネズエラからの麻薬密輸阻止を口実に米軍の軍事作戦や諜報機関CIAなどの秘密作戦に承認を与えるなど、ベネズエラへの対抗を先鋭化している。

 世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラは石油輸出国機構(OPEC)創設国の一つでもあり、石油輸出国として無視できない存在である。

 トランプ大統領が目の敵にしているベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は昨年の選挙で勝利、2013年の大統領就任以来、長年米国に対抗し、米国批判を強めている。

 本年のノーベル平和賞がベネズエラ野党リーダーのマリア・マチャド氏に付与されたことも問題を複雑化している。ベネズエラ政府はノルウェー平和賞委員会がノーベル平和賞をマドゥロ大統領の政敵マチャド氏に与えたことに抗議して、ベネズエラのノルウェー大使館を閉鎖した。一方、国連人権理事会が任命した特別報告者ら専門家は10月21日、ベネズエラからの麻薬密輸阻止を口実とした米軍の軍事作戦や諜報機関CIAなどの秘密作戦について「主権侵害」「国連憲章違反」だと厳しく批判する見解を発表した。

 すなわちトランプ政権の南米ベネズエラの麻薬阻止口実の米軍事作戦は「主権侵害」だと国連専門家が厳しく非難しているのである。

 かつて南米チリの社会主義アジェンデ政権をCIAがチリ軍を支援し、転覆させたことは国際社会から激しい非難を浴びた。

 さらに中米ニカラグアのサンディニスタ・オルテガ政権転覆を目指し、レーガン大統領時代、CIAが、反対派のコントラを支援し、政権転覆を目指し、イランへの武器輸出の利益金でニカラグアに介入したことは国際的に強い批判を浴びた。国際司法裁判所は不法行為だとして米国への120億ドルの賠償金支払いを命じたが、米政府はこれを無視した。

 筆者はかつてニチメン(現双日)南米主席としてパナマ運河鉄道修復工事応札準備に1979年にパナマに長期出張した。その時、ニカラグア・オルテガ大佐率いる中道左派のサンディニスタ民族解放戦線と米国が支援する長期政権のソモサ大統領派との内戦が勃発。米国は空爆でソモサ政権を支援。だが、サンディニスタが勝利した。筆者は逡巡するニチメン・パナマ支店長を説得し、戦火のくすぶる首都・マナグアに、日本の商社マンとして一番乗りし、サンディニスタ軍を率い勝利したオルテガ大佐に面談。オルテガ大佐は日本商社の協力を謝すとし、米軍に爆撃されたマナグア空港の整備、地熱発電所の建設、鉄道修復工事などへの協力を要請。パナマへの帰路は没収したソモサ大統領専用機を提供され、金のトイレット付きの豪華な大統領専用機に搭乗する得難い貴重な経験をさせてもらった45年前のことを懐かしく思い出している。 高市新首相は念願の国家情報局を創設する由。だが米国CIAの真似はしないでほしいと念願する次第だ。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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