【鮫島タイムス別館(41)】高市政権の疾走と試練──高市ブームが呼ぶ早期解散の現実味

若者支持が押し上げた高市内閣の船出
高市早苗内閣はロケットスタートを切った。内閣支持率は70%前後に跳ね上がり、日経平均株価は過去最高を更新して5万円を突破。トランプ大統領との日米首脳会談も「媚びすぎ」との批判はあるものの、世論は概ね好感を寄せているようだ。
読売新聞の世論調査では、年代別の内閣支持率は18〜39歳が80%、40〜59歳は75%。石破内閣末期は前者が15%、後者は29%だった。高齢世代に支えられた石破政権と対照的に、高市内閣は若者・現役世代の圧倒的支持を得ている。
この傾向は、夏の参院選で躍進した国民民主党や参政党とピタリ重なっている。高市政権発足後、自民党の支持率が上昇し、国民と参政は下落したことをみても、自民党から国民・参政に流れた保守層・無党派層が自民党に戻りつつあるとみていい。国民・参政ブームは高市ブームへ変貌しつつある。
公明離脱と維新連立が呼ぶ再編の波
初の女性首相の誕生に加え、高市氏のアドリブの効いた演説が「政治が変わった」という刷新感を若者・現役世代に与えているのは間違いない。
それに加え、自公連立を解消したことも支持を集めている。読売の世論調査では、公明党の連立離脱を評価する人が77%にのぼった。公明党に代わって維新と連立したことも評価する人が57%に達している。
早速自民党内では早期解散論が浮上してきた。内閣支持率が高いうちに、具体的には今の臨時国会中、もしくは年明け1月の通常国会冒頭に解散総選挙を断行すれば、公明票を失っても、保守層や無党派層が自民党に回帰し、単独過半数の回復も十分に可能だというわけだ。
「先手必勝」で挑む高市流の政局戦略
たしかに政党支持率をみると、自民は32%に回復。連立相手の維新も2%から5%に跳ね上がった。一方、国民は9%から5%へ急落し、参政党も8%から7%に下がって勢いが止まった感がある。立憲は6%で低迷したままだ。いつの間にか「自民一強」に戻りつつある。
衆院議員の任期は1年経ったばかり。それでも「先手必勝」で「勝てるときに打つ」のが解散総選挙の鉄則だ。
高市首相の政権基盤は極めてもろい。自維連立は衆参で過半数を割る少数与党だ。しかも維新は閣外協力にとどまり、いつ連立離脱カードを振り回してもおかしくはない。
自民党本部は副総裁、幹事長、総務会長を麻生派が独占する「麻生独裁体制」。総裁選で負け組になった菅義偉元首相や森山裕前幹事長らは非主流派に転落したものの、維新や公明と水面下で連携し、高市首相を揺さぶる構えである。
日本政界を長年取材してきてつくづく思うのは、首相は自らの手で解散総選挙を断行して勝利しない限り、政権基盤は安定しないということだ。安倍政権が憲政史上最長になったのは、衆院議員の任期が十分に残っている時点で二度も「先手必勝」で解散を断行し、圧勝したからだった。
高市首相も今の勢いのまま年末年始に解散を断行し、自民単独過半数を回復するほど圧勝すれば、自民党内の非主流派は沈黙する。参院でも擦り寄る勢力が出てくるだろう。
いま解散総選挙で圧勝すれば、2027年9月の総裁任期満了まで国政選挙はなく、長期政権のレールに乗る。高市首相の政局アドバイザーたちはそろって早期解散を進言しているに違いない。
定数削減をめぐる攻防と「解散の大義」
解散判断のカギを握るのが、維新との連立合意の柱である議員定数の1割削減だ。衆院の比例定数を50削減することを念頭に置いている。12月17日までの臨時国会に定数削減法案を提出して成立を目指すとしている。
今の衆院定数は465。小選挙区が289、比例が176。与野党一騎打ちで政権交代が起きやすくする小選挙区を3、多様な民意を反映させる比例を2の比率でバランスをとるという理念のもとでつくられた選挙制度だ。
このバランスを崩し比例だけを削減すれば、小選挙区の勝利が難しい公明党、共産党、社民党、れいわ新選組、日本保守党は壊滅的打撃を受ける。国民民主党や参政党も議席減は避けられない。
一方、自民党は小選挙区中心の選挙を展開しているため、中小政党に比べ痛手は少ない。大阪19選挙区で全勝している維新も相対的に有利だ。
自民・維新だけでは衆参で過半数に届かず、野党が結束すれば法案の否決は可能である。だがここに落とし穴がある。野党が法案を否決した瞬間、高市首相が「定数削減で国民の信を問う」とし、解散総選挙に踏み切るかもしれない。法案否決が「解散の大義」を与えてしまうのだ。
公明党は早期解散を防ぐため、定数削減に真正面から反対せず、小選挙区30、比例20を削減すべきだと主張している。比例削減だけならすぐに法案を作成できるが、小選挙区を削減する場合は全国289選挙区の区割りをやり直す必要があり、調整に手間取るのは必至だ。それで時間を稼ぎ、解散を先送りする高等戦術といえよう。
高市内閣の誕生で、政界地図は一変した。「自民・維新の与党」VS「立憲・公明の野党」VS「国民・参政の第三極」。
この臨時国会の最大の焦点は、解散含みで進む定数削減法案をめぐる各党の駆け引きだ。高市首相に解散の大義を与えず、定数削減法案をどうさばくのか。衆参で過半数を握る野党勢力の対応が大きなカギを握っている。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
 1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝、与謝野馨や幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約15万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝、与謝野馨や幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約15万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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