「フレキシブルオフィス」市場が堅調に拡大している。緩やかに成長している市場であるほか、都心部では本社需要などもあり、フレキシブルオフィス需要の多様化が見込まれている。成長する国内市況を受け、全国200拠点を展開する日本リージャス(株)は、今後10年で500拠点に拡大する成長戦略を描く。
全国オフィス需要は堅調
まずは、全国の市場動向を確認しておこう。事業用不動産サービスのシービーアールイー(株)(CBRE)がまとめた、2025年第2四半期の「全国オフィス市場の概況とフレキシブルオフィス市場の動向」によると、全国的にオフィス需要は堅調であり、多くの都市で空室率は低下基調が続くと分析している。都市別では、札幌や福岡は空室率が上昇しているが、再開発によるオフィスの新規供給が増えているためで、「これらの都市は(オフィス需要が)むしろ強い部類に入る」(岩間有史CBREリサーチシニアディレクター)とみている。
(出所=CBRE Q4 2024)
今後の新規供給の既存ストックに対する割合では、札幌、横浜、広島、福岡で多くなっている。とくに福岡は、26年に6.5%と全国13都市で最も多く供給され、天神ビッグバンや博多コネクティッドによる新規オフィス供給が全国的にも高い水準にあることがわかる。一方、空室率の予想には大きな変化はなく、供給量の多い都市でも需給の緩みは限定的であるとみている。多くの都市で空室率は安定して推移する見通しで、東京23区で2%前後、大阪で2%前半、福岡で5%前後と見込んでいる。賃料については、空室率の低下にともない、ほとんどの都市で上昇傾向にある。
市場伸びしろ大きく
東京のフレキシブルオフィス市場については、緩やかだが堅調に拡大すると予想している。19年に20万坪を下回っていた新規と開設済み拠点の面積を合わせた規模は年々増加し、24年には25万坪を上回る水準となった。世界の主要都市で見ると、賃貸オフィスに占めるシェアは、最もフレキシブルオフィスの市場規模が大きいロンドンが10.6%であるのに対し、東京は2.4%にとどまっている。アジアでもソウルやシンガポール、上海、香港と比べても低いが、「伸びしろは大きい」(岩間氏)との見解を示した。
コロナ禍初期は、在宅勤務が増えて主要5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)以外でのフレキシブルオフィスの出店が増えたが、23年以降は主要5区での出店が再び増加。これはリモートワークが落ち着いたことも背景にあるが、比較的大型のオフィスビルに入居するタイプが増加し、「利用目的が変化してきた」(岩間氏)と指摘する。
利用者へのアンケートでは、フレキシブルオフィスの需要層が多様化しており、本社オフィスやネットワーキングを目的とした利用が増加。「オフィスのグレードアップ移転や本社としての移転により、人材確保を狙っている。また、内装工事費アップや工事業者の手配に時間がかかるため、フレキシブルオフィスの柔軟な契約形態などのメリットを享受しやすくなっている」(岩間氏)と分析する。今後2~3年の利用見通しとしては、利用を増やす・利用を始めるとの回答が22.1%を占め、今後もフレキシブルオフィスの利用者が増える見通しだとしている。
4ブランドで集中展開
日本リージャス(株)はフレキシブルオフィスの成長を背景に、国内で200拠点、契約面積17万6,833m2を展開。関東が90拠点で最も多く、関西の32拠点、九州・沖縄の26拠点と続く。リージャスグループは、世界で約4,000拠点を展開しており、世界で最も多くフレキシブルオフィスなどを展開している。国内では海外展開でのノウハウを生かした効率的な運営により、多様な立地に中小規模で、競合他社が参入できないエリアへの新規出店を行って差別化を図っている。
「シグニチャー日本生命丸の内ビル」ラウンジスペース
同社の成長戦略として、利用料金帯が異なる「シグニチャー」「リージャス」「SPACES.」「Openoffice」の4ブランド展開による広範囲の需要獲得を狙う。具体例として、福岡では博多駅周辺、天神駅周辺エリアを挙げる。半径1.5km圏以内に12拠点・4ブランドで集中的に整備。日本リージャスの代表取締役CEO・西岡真吾氏は、「マルチブランド展開で、同じ場所に密集しても棲み分けができる料金体系になっている」という。また、同社は三菱地所グループだが、事業パートナーとして大阪エリアでは阪急阪神ホールディングス(株)、福岡では福岡地所(株)と強いリレーションシップを複数で結び、全国での展開を拡大している。
日本リージャスの西岡真吾CEO
今後は25年度末までに212拠点を整備し、今後5~10年で約2.5倍となる500拠点に拡大する目標を掲げる。拠点整備の候補となる全国220都市のうち、現在は49都市への出店にとどまっている。そのため、「まだ成長の余地は残っている」(西岡社長)とし、目標の上振れ余地を示唆した。
東京駅前に200拠点目
「シグニチャー日本生命丸の内ビル」のレセプション
国内で200拠点目となる「シグニチャー日本生命丸の内ビル」(東京都千代田区丸の内1-6-6、総面積2169m2、オフィス部屋数118室、ワークステーション席331席、会議室3室)が10月1日にオープンした。最高グレードのブランドにふさわしく、東京駅に隣接する好立地で、駅舎をモチーフとした落ち着いた内装デザインとした。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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