強力なブランドイメージ
高級住宅街・大濠
さて大濠公園の周辺は、市内でも屈指といえるほど居住地としての人気が高く、なかでも公園西側に位置する大濠1・2丁目は、閑静な雰囲気のなかに豪邸や高級分譲マンションが立ち並ぶ、市内でも有数の高級住宅街として知られている。住戸のほかにも、瀟洒なレストランや結婚式場、カトリック系の幼稚園などが点在し、住宅地としてだけではないエリアの魅力創出に一役買っている。
大濠公園周辺の居住人気が高い理由の1つには、何といってもそのロケーションがあるだろう。前述したように隣接する大濠公園全国有数の水景公園として知られ、<有料区切り>池の周囲の周回園路ではウォーキングやジョギング、サイクリングを楽しむ人の姿も多く見られる、市民の憩いの場だ。加えて、周辺には福岡市美術館や大濠公園能楽堂などの文化施設が集積するほか、舞鶴公園や福岡縣護国神社などの豊かな緑に囲まれたスポットも点在し、良好な住環境を形成している。また、大濠2丁目にある「在福岡アメリカ領事館」の存在も大きい。1960年10月に現在地に移転した在福岡アメリカ領事館は、九州で唯一の米国領事館となっており、すぐ目の前に派出所があるだけでなく、周囲を24時間体制で警察官が巡回警備を実施。必然的に、エリアの治安面の大幅な向上に寄与している。
大濠のこの場所に、いかにして現在のような高級住宅街が形成されたかだが、歴史を遡ると、やはり大濠公園とは切っても切り離せない関係にあることがわかる。大濠公園の大池がかつて福岡城の外濠だったことについては触れたが、1926(大正15)年に福岡県が13万坪の水面の半分以上の7万坪を埋め立て、水上公園として翌27年に開催の「東亜勧業博覧会」の用地とした際に、残り3万坪が住宅用地として一般に払い下げられた。当時、水質汚染の進行で悪臭のひどい濠の埋め立てに、連日250~600人の作業員が従事。莫大な総工費45万円(当時)と延べ35万人の作業員をつぎ込んだ大工事により、わずか半年で竣工となったという。
このときに一般に払い下げられた住宅用地3万坪が、現在の高級住宅街・大濠の始まりだとされている。一説によると、このときの莫大な埋め立て費用の補填のために、計画的に高級住宅街がつくられたという。これにより、周辺エリアにも影響を与え、坪単価5円の桑畑が60~150円となるなど地価が急騰。その結果、周辺を含めた一帯が急激な発展を遂げていったとされている。その計画的につくられた高級住宅街としてのブランドイメージが、現在に至るまで連綿と受け継がれているようだ。
なお、このブランドイメージがあまりにも強すぎるため、周辺でマンションが開発される際には、大濠公園から多少の距離があろうとも、名前に「大濠公園」や「大濠」を冠した物件が多い印象だ。
積水・最上位ブランドが集積
圧巻の“グランドメゾン銀座”
強力なブランドイメージに裏打ちされた居住人気の高さから、続々と新たなマンション開発が相次いでいる大濠公園周辺エリア。さまざまなマンションが所狭しと林立しているが、そのなかでも一際目立つのは、積水ハウス(株)の最上位分譲マンションブランドである「グランドメゾン」シリーズの多さだ。
大濠公園の周辺で20年以降に竣工したものを挙げてみても、「グランドメゾン大濠公園2020」(荒戸3丁目、20戸、20年8月竣工)、「グランドメゾン大濠ザ・アパートメント」(大濠1丁目、10戸、20年9月竣工)、「グランドメゾン大濠公園ザ・タワーレジデンス」(荒戸2丁目、64戸、21年5月竣工)、「グランドメゾン大濠公園THE TOWER」(唐人町1丁目、97戸、23年6月竣工)、「グランドメゾン大濠公園THE CLASS」(荒戸2丁目、64戸、23年12月竣工)、「グランドメゾン大手門ザ・レジデンス」(大手門2丁目、69戸、24年1月竣工)といった具合で、まるで“グランドメゾン銀座”といったところだ。そして現在も、新たなグランドメゾンの開発が複数進んでいる。
黒門の唐人町駅から徒歩3分の場所では「グランドメゾン大濠公園PREMIUM」の開発が進む。RC造(一部S造)・地上9階建、総戸数15戸で、設計は(株)Gデザインアソシエイツが、施工は前田建設工業(株)がそれぞれ担当。竣工は26年6月を予定している。
大手門1丁目の赤坂駅から徒歩5分の場所では、「グランドメゾン福岡鴻臚館前」の開発が進む。RC造(一部S造)・地上27階建、総戸数は97戸で、設計は鉄建建設・手島建築設計事務所設計共同体が、施工は鉄建建設(株)九州支店がそれぞれ担当。竣工は27年2月を予定している。
荒戸3丁目の大濠公園駅から徒歩6分の場所では、九電不動産(株)および三菱地所レジデンス(株)と共同で「グランドメゾンOne 大濠 Park」の開発が進む。RC造(一部S造)・地上29階建、総戸数は162戸で、設計は(株)IAO竹田設計が、施工は前田建設工業がそれぞれ担当。竣工は27年10月を予定している。
さらに現在、大濠2丁目では「(仮称)グランドメゾン大濠2丁目計画」の開発も進行中。RC造・地上5階建、総戸数は10戸で、設計は(株)司建築設計事務所、施工は松尾建設(株)がそれぞれ担当している。このほか、大濠公園からはやや距離があるものの、唐人町2丁目で進む「こども病院跡地活用事業」でも積水ハウスを代表とし、(学)福岡大学で構成されるグループによる再開発が進められていく予定のため、ここでも新たなグランドメゾンが開発される可能性が高いだろう。
新たなマンションが続々と
九電も“億ション”参戦
積水ハウスのグランドメゾン以外にも、大濠公園周辺エリアでは続々と新たなマンションの開発が進んでいる。
大濠公園の北側に位置する荒戸3丁目では現在、3つの分譲マンションの開発が進行中。まず大濠公園駅から徒歩7分、唐人町駅からも徒歩7分の場所では、三井不動産レジデンシャル(株)による「パークホームズ大濠公園ミッド」の開発が進んでいる。RC造・地上14階建で、総戸数は104戸。施工は若築建設(株)が担当し、竣工は27年5月を予定している。同じく荒戸3丁目の唐人町駅から徒歩4分、大濠公園駅から徒歩7分の場所では、(株)ラ・アトレによる「ラ・アトレ レジデンス大濠公園」の開発が進んでいる。RC造・地上15階建で、総戸数は26戸。設計は(株)JIN建築設計が、施工は共栄建設(株)がそれぞれ担当し、竣工は27年5月を予定する。さらに荒戸3丁目の唐人町駅から徒歩8分、大濠公園駅から徒歩12分の場所では、(株)オープンハウス・ディベロップメントによる「イノバス大濠公園」の開発が進む。RC造・地上10階建で、総戸数は25戸。設計は(株)マサキ設計事務所が、施工は広成建設(株)がそれぞれ担当し、竣工は26年5月を予定する。
黒門の唐人町駅から徒歩4分の場所では、(株)大京による「ザ・ライオンズ大濠公園レジデンス」の開発が進んでいる。RC造・地上7階建で、総戸数は15戸。設計は(株)日企設計が、施工は(株)金子建設がそれぞれ担当し、竣工は26年2月を予定している。
地行1丁目の唐人町駅から徒歩2分の場所では、(株)LANDICによる「DEUX・RESIA 大濠 並木通り」の開発が進む。RC造・地上14階建で、総戸数は62戸。設計は(株)エヌプラスアーキテクトデザインオフィスが、施工はアスミオ.(株)がそれぞれ担当し、竣工は27年4月を予定している。
草香江2丁目の六本松駅から徒歩10分の場所では、東宝住宅(株)による「フリーディア大濠公園レジデンス」の開発が進んでいる。RC造・地上6階建で、総戸数は11戸。設計は(株)マサキ設計事務所が、施工は(株)今林工務店がそれぞれ担当し、竣工は26年7月を予定している。
さらに、九州電力(株)も同エリアにおける高級マンション開発に参戦する。九州電力とその子会社である九電不動産は25年11月、共同でハイエンドレジデンスブランド「GROUNDI(グラウンディ)」を立ち上げることを発表した。そして、そのフラッグシップとなる第1号物件として現在、大濠1丁目で開発を進めているのが「GROUNDI OHORI(グラウンディ大濠)」だ。グラウンディ大濠はRC造(一部S造)・地上9階建で、総戸数は10戸のスモールラグジュアリーレジデンスで、最上階プレミアムルームは3層構造・250m2超となる計画。施工会社は現時点で未定だが、竣工は28年3月を予定している。
九電グループが満を持して送り込む新たなハイエンドレジデンスブランドが、その第1号の地として大濠を選んだ。これにより、高級住宅街としての大濠ブランドイメージのさらなる強化につながるのかが注目される。
六本松エリアでも
マンション開発が活発化
大濠公園からはやや距離があるが、南側に位置する六本松周辺エリアについても触れておこう。
六本松には09年まで九州大学六本松キャンパスが存在し、かつては学生街として栄えていた。その九大キャンパスが去った後は、約6.5haの跡地を中心とした再開発がスタート。駅前には、福岡市科学館、九州旗艦店の蔦屋書店、九州大法科大学院などが入った複合施設「六本松421」が17年9月にオープン。隣接地には分譲マンションや有料老人ホームが誕生し、六本松421の南側には、裁判所、検察庁、弁護士会館が新設されるなど、新しい街として生まれ変わった。23年3月には、福岡市地下鉄七隈線が博多駅まで延伸開業したことを受けて、六本松駅周辺でも住宅需要が増加。六本松エリアでも現在、新たなマンション開発が相次いでいる。
梅光園1丁目の六本松駅から徒歩4分の場所では、西武ハウス(株)による「モントーレ六本松 ザ・マーク」の開発が進んでいる。RC造・地上14階建で、総戸数は33戸。設計は(株)K・Tプランニングが、施工は上村建設(株)がそれぞれ担当し、竣工は26年12月を予定している。
同じく梅光園1丁目の六本松駅から徒歩4分の場所では、(株)福岡地行による「アクロス六本松ラ・クラス」の開発が進んでいる。RC造・地上11階建で、総戸数は30戸。設計は(有)井上長年設計事務所が、施工は成和建設(株)がそれぞれ担当し、竣工は25年12月を予定している。
さらに梅光園1丁目では、分譲ではなく賃貸マンションではあるが、JR西日本不動産開発(株)による「ジェイグランコート梅光園」の開発も進んでいる。RC造(一部S造)の地上14階・地下1階建で、賃貸マンションのほか店舗も入る予定で、総戸数は123戸(ワンルーム90戸含む)。設計および施工を広成建設(株)が担当している。
谷1丁目の六本松駅から徒歩9分、桜坂駅から徒歩7分の場所では、JR西日本不動産開発による「ジェイグラン六本松レジデンス」の開発が進んでいる。RC造・地上5階・地下1階建で、総戸数は34戸。設計は(株)サニム建築事務所および広成建設が、施工は広成建設がそれぞれ担当し、竣工は25年11月を予定する。
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今回取り上げたように大濠公園周辺エリアは現在、歴史と芸術・文化を核とした大規模な再編の途上にある。また、この大規模な文化的集積と、長年培われてきた高級住宅街・大濠としての強力なブランドイメージが相まって、周辺のマンション開発はこれまで以上に激化してきている。“都心のオアシス”である大濠公園の周辺は今後も、その大規模な再編のなかでエリアとしての魅力と価値をさらに高めながら勢いを増し、福岡市の都市力をさらに押し上げていく推進力となっていくだろう。
(了)
【坂田憲治】

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