【鮫島タイムス別館(43)】「つなぎ役」だった維新──高市政権が動かした年末政局の力学

定数削減に賭けた維新の誤算──連立合意の“切り札”が空転するまで
自民党との連立に飛び込んだ日本維新の会と、維新に出し抜かれた国民民主党。この年末、連立与党の座を争ってきた両党は明暗を分けた。維新が沈み、国民が浮かんだのだ。
維新が強く求めたのは衆院議員定数削減法案の今国会成立。連立合意の柱として「今国会で成立を目指す」と明記されていた。与野党でつくる衆院の協議会で協議するものの、1年後に合意に達しない場合は「小選挙区25、比例20の削減」を自動発動するという前代未聞の法案だ。
維新は「連立離脱」をちらつかせて自民党との共同提出にこぎつけた。これに対し、国民を含む野党は一斉に反発。立憲民主党が委員長ポストを握る衆院政治制度改革特別委員会で審議入りするメドさえ立たなかった。参院で与党は過半数を割っており、今国会成立は絶望的な状況だった。
このような局面で、維新の吉村洋文代表(大阪府知事)は国会会期末の前日である12月16日、高市早苗首相に会期延長を訴えるため、大阪から上京した。けれども高市首相は応じず、来年の通常国会へ先送りに。吉村氏のメンツは丸潰れになった。
それでも吉村氏は自民党を批判せず、怒りの矛先を野党に向けた。高市首相のことは「非常に難しい法案を自民党でまとめていただいたことに、感謝を申し上げた」と持ち上げる一方、野党については「法案を提出したのに審議すらされずに国会が終わるのは非常に残念」と酷評したのだ。
それでも怒りは収まらない。吉村氏はその夜、藤田文武共同代表と一緒にYouTube緊急生配信を断行。民主党が2013年に定数80削減法案を提出したことを強調し、法案提出者の名前を次々に読み上げた。
野田佳彦、岡田克也、安住淳、枝野幸男、辻元清美…今の立憲の面々に交えて「玉木雄一郎」の名もあげたのだ。立憲だけではなく、国民への宣戦布告といってよい。
だが、野党ばかりを批判する姿勢には無理がある。定数削減には自民党内にも異論が強く、今国会で成立させる意思がまるでなかった。自民党内は法案提出をもって「成立を目指す」という約束ははたしたという空気に包まれていたのである。
連立合意の10月当時、高市氏は公明党が連立離脱したため、国会の首班指名を勝ち抜くメドが立たなかった。麻生太郎副総裁は国民との連立を当てこんでいたが、国民は連合の反発で踏み切れず、高市政権誕生は幻に終わる危機に直面していた。そこで、麻生氏のライバル・菅義偉元首相や高市氏と総裁選を争った小泉進次郎氏と親しい維新と組むしかなくなった。維新が連立入りの条件にあげた定数削減を受け入れるしかなかった。高市氏が国会で首相に指名されるまでは、維新の立場がはるかに強かったのだ。
維新から国民へ──高市政権が描く連立組み替えのシナリオ
けれども高市政権が誕生し、両者の力関係は早くも逆転した。自民と維新を足しても衆参両院で過半数には届かない。維新と組むだけでは安定政権は実現しない。維新は首班指名を乗り切り、高市政権を誕生させるまでの「つなぎ役」でしかなかったのである。
自民党は早速、維新に離党届を提出して除名されたばかりの衆院議員3人を自民会派に迎え入れ、衆院では「自民+維新+維新離党組」で過半数をギリギリ回復した。連立パートナーの顔に泥を塗る「なりふり構わぬ多数派工作」である。維新を軽んじる姿勢はこの時点ではっきり出ていた。
参院では自民と維新を合わせても過半数に6議席足りない。ところが衝撃的なことに、自民と国民を合わせるとギリギリ過半数に届く。
高市首相が高支持率を背景に解散総選挙に踏み切れば、衆院は自民単独過半数を回復できる可能性が十分ある。その場合、維新はもはや不要だ。ただし、参院は28年夏の参院選まで議席を増やすことができない。維新を切り捨て、国民と連立を組み直して参院の過半数を回復したほうが、国会運営ははるかに安定するのである。
吉村氏が上京した12月16日、国会では補正予算案が参院で可決され、成立した。自民と維新の与党に加え、国民と公明の野党も賛成したのである。維新の価値はさらに暴落した。維新抜きでも国民と公明の賛成を得て、予算案や法案を通していくメドが立ったからだ。
この日を境に維新党内で「連立離脱」の声は一気にトーンダウンした。連立から抜けたいのなら、いつでも出ていっていいよ──自民党内の空気がひしひしと伝わってきたからである。連立離脱カードは無力化したのだ。
そして国会が閉会した翌12月18日、高市首相は国民の玉木代表と会談し、国民悲願の「年収の壁の178万円への引き上げ」で合意した。高市首相は「両党の間で何とか関所を超えようということで、2年越しで知恵を絞っていただいた結果だ」と胸を張ったのである。
維新から国民へ。連立パートナーを切り替えていく高市政権の姿勢はもはや隠しようがない。そもそもキングメーカーの麻生氏の本命は国民だった。維新は「急場しのぎの代役」に過ぎなかった。
早ければ1月、遅くても来年の通常国会中には衆院解散に踏み切り、自民党が単独過半数を取り戻す。それを機に維新との連立を解消し、総選挙後に国民と連立を組み直して、参院も過半数を回復する──それが、高市政権の2026年戦略だ。維新と国民が明暗を分けた年末政局は、新年の政局の行方を暗示している。維新に反撃の糸口は今のところ見当たらない。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。
▶ 新しいニュースのかたち│SAMEJIMA TIMES
▶ Samejima Times YouTubeチャンネル
▶ 鮫島タイムス別館(NetIB-NEWS)








