米国によるベネズエラ攻撃の狙いとその背景(前)

鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗

 米国は1月2日深夜から、ベネズエラへの大規模な軍事攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を逮捕、拘束して米国内に連行しました。
 そこで、今回はこの米国によるベネズエラ攻撃を取り上げて、その狙いと背景を考えてみたいと思います。

1.ベネズエラでいったい何が起きたのか? 

 米軍は1月2日夜に作戦名「絶対的決意」を開始した。20カ所の米軍拠点から150機超の爆撃機や偵察機を投入し、ベネズエラ軍の行政区域や通信施設、空軍基地、港湾施設などに対し、ステルス機による精密爆撃を行った。

 米軍はベネズエラ軍が保有するロシア連邦製地対空ミサイルをジャミングによって無力化していたため、カラカスには低空飛行を行う有人軍用機や無人航空機が抵抗を受けることもなかった。また、米軍による送電網の破壊やサイバー攻撃により大規模な停電が発生した。

 米軍はカリブ海に展開済みの空母ジェラルド・フォードからアメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースをヘリコプターでカラカス市内に送り込み、就寝中だったマドゥロ夫妻を拘束して米国へ移送した。

 今回の米国によるベネズエラ攻撃によって、13年間続いたマドゥロ政権は事実上崩壊した。

 トランプ政権は作戦計画の開始時期を明確にしていないが、ロイター通信が関係者を引用した情報によると、2025年8月に小規模なCIAチームをベネズエラに派遣し、マドゥロの生活パターンの把握に努めていたという。これは、空母ジェラルド・フォードをカリブ海に派遣して石油タンカーの拿捕(だほ)を始めた時期と重なる。

 また、CIAはマドゥロ大統領の付近に工作員を配置しており、正確な位置情報を把握することができた。その間、米陸軍のデルタフォースはマドゥロ大統領の隠れ家を忠実に再現した模型で訓練を実施していた。

 マドゥロ大統領逮捕につながる情報提供者には、74億円という法外な懸賞金までかけていた。こうした裏付けや準備に基づいて衛星画像に見られる空爆や拘束作戦が行われたものとみられる。

 トランプ大統領は記者会見で、これを「麻薬戦争の大勝利」として祝った。ピート・ヘグセス国防長官は「南米における我々の優位性を再確認した」と述べた。

 ベネズエラ政府は、国家非常事態を宣言し、国連安全保障理事会緊急会合の招集を要求した。

 米紙ニューヨーク・タイムズは4日、ベネズエラ当局の発表として、米軍によるベネズエラ攻撃で死者数は80人に上ったと報じた。

 キューバ政府は同日、米軍の攻撃でベネズエラ軍や警察で任務に就いていたキューバ人32人が死亡したと発表した。その多くは、米国に拘束されたマドゥロ大統領の警護チームのメンバーであったという。

 一方で、米軍の軍事作戦は、米陸軍の精鋭部隊デルタフォースが、米連邦捜査局(FBI)の部隊の支援を受けて実施した。情報筋によると、数人の兵士が銃弾や破片によるけがを負ったが、いずれも軽傷だったという。

 今回のベネズエラ政変(体制転覆)は、米国が過去数十年で洗練させてきた「制裁戦略」の典型例だ、という指摘もある。この戦略は、①制裁:経済的レバレッジの恐るべきメカニズム、②内部の買収、③政権転覆の実行、という3つの段階から成る({大統領が『拉致』される時代──ベネズエラ介入が暴く米国の真の姿}:オルタナ図書館—Alzhacker 26年1月4日)。

「デルタフォースが2人の兵士だけでカラカスに入り、マドゥロを捕まえて出てきた。これは台本通りだ。彼らは警備された宮殿を攻撃したわけではない。すべてが事前に調整されていた」(スコット・リッター、元国連大量破壊兵器査察官)。

 つまり、ベネズエラの国防大臣、内務大臣、そして軍の主要人物たちは、すでに米国に買収されていたのだ。マドゥロ大統領は孤立し、守る者もいない状態で「引き渡された」と考えられる。

 いずれにしても、今回の米軍による軍事作戦・行動は、事前に米連邦議会の承認を得ていない憲法違反の違法行為であり、主権国家である他国への一方的な軍事介入は明らかな国際法・国連憲章違反の暴挙であることだけは間違いない。

2.米国のベネズエラ攻撃の狙いは何か

 それでは、なぜ米国は、今回のような軍事介入に踏み切ったのであろうか。
 これまでに出ているさまざまな情報から、以下のような理由が考えられる。

①ベネズエラから米国への麻薬(コカイン、フェンタニル)流入の阻止

 トランプ政権は、ベネズエラへの軍事介入の理由を「麻薬との戦い」、米国民を守るための「正義の作戦」だとしている。そして、マドゥロ大統領を「麻薬王」として描いてきた。

 確かに、ベネズエラ経由でコカインやマリファナが流れているのは事実だが、それは地理的な位置によるものである。コカインの生産地はコロンビアとペルーであり、ベネズエラは麻薬の主要生産国でもない。

 マドゥロ政権やマドゥロ大統領が、麻薬取引に積極的に関与していた証拠はない(18年に米国国務省の「国際麻薬・法執行局」が発行した年次報告書)。

 そして米国で本当に問題になっているのは、コカインではなく、中国製のフェンタニルだ。この合成麻薬は中国で製造され、メキシコのカルテルを経由して米国に流入している。ベネズエラとはまったく無関係だ。

 トランプ政権は、マドゥロ大統領が「太陽のカルテル」と呼ばれる組織を率いていると数カ月にわたり虚偽の主張を続けていたが、そのような組織は存在しない。米国司法省は現在、この嘘をひっそりと撤回し、それが捏造であったことを暗黙のうちに認めている。

②ベネズエラの石油利権への野心~中露(とくに中国)排除とイラン攻撃の思惑も

 「麻薬戦争」は、表向きの口実に過ぎない。本当の目的は、世界最大の石油埋蔵量をもつベネズエラを支配し、米国のエネルギー安全保障と地政学的優位性を確保することであった。

 ベネズエラの石油は、特定の硫黄含有率をもち、メキシコ湾岸の米国製油所が処理するのに最適な品質である。米国は、ベネズエラの石油なしでは、自国の製油所を効率的に運営できない状況に陥っていた。

 作戦完了後に行われた記者会見でトランプ大統領は、石油資源の確保による米国への利益を強調した。膨大な埋蔵量を誇りながら十分な資金と深海油田の掘削技術のないベネズエラに代わり、米国がこれを主導してその利益を得るメリットは大きいというわけだ。

 トランプ大統領は1月3日の記者会見で、「ベネズエラは一方的にアメリカの石油を奪取して売り、我々に何十億ドルもの損害を与えた」「米企業がベネズエラの石油インフラを修復し事業を再建する」と主張した。ここには、トランプ大統領のあからさまな「石油利権」確保の本音が示されている。

 トランプ大統領のもう1つの動機は、チャベス時代にベネズエラが石油関連施設を国有化したことに対する「報復」である。1999年に就任したチャベス大統領は、反米主義を打ち出し、石油から得た利益を貧困層へ分配するために石油の国有化を実施した。これによって、石油メジャーが締め出されるなど石油利権が奪われたため、米国は、2005年からベネズエラに対し経済制裁を開始していた。

 一方、中国にとって、ベネズエラのマドゥロ政権は、「反米」をキーワードに結ばれた南米における最大の関係国であり、中国はその最大の後ろ盾となっている。ベネズエラは1990年代に反米・社会主義国になり、マドゥロ氏は2013年に大統領になった。中国は、米国などの制裁で経済が破綻状態のベネズエラを積極支援してきた。

 中国の政府系企業、そして民間企業が競うように、ベネズエラの油田の開発・精製に、資金・技術両面で協力している。中国の国営企業がベネズエラのインフラ整備を進めてきた。ベネズエラ政府は、膨らんだ中国の債務の多くを、原油で支払うかたちだった。

 ベネズエラの全歳入の95%を石油収入が占め、その最大(産油量の約8割)の輸出先が中国であった。中国はエネルギー資源の確保を目的に、米国に対抗するかたちでベネズエラに資金提供を行った。さらに中国は山東半島に重質油精製用の製油所を建設しており、今回の米国の軍事作戦には、この石油供給ルートの遮断と中国排除という狙いがあったと考えられる。この結果は、中国政府の主要同盟国であるロシアにも間接的に打撃を与えるであろう。

 中国は、トランプ大統領が主要な石油供給路を遮断することで自国経済を麻痺させることを容認できないだろう。中国がドルを投じて金を購入し、通貨を切り下げる可能性もある。もし中国が米国へのレアアース(希土類鉱物)の販売を永久に停止すれば、電子機器や電気自動車、さらには軍需産業にも影響がおよぶことは間違いない。

 ロシアについても同様のことが当てはまる。ロシアは中国と並び、ベネズエラの石油産業に巨額の投資を行い、防空ミサイルや戦闘機などの高性能兵器を購入するための融資も提供してきた。18年には、核兵器搭載が可能な戦略爆撃機Tu-160を派遣し、軍事的存在感を誇示した。

 また、プーチン大統領は昨年12月11日に、マドゥロ大統領と電話会談し、ベネズエラ国民との連帯を示すとともに、マドゥロ政権の政策への支持を改めて示した。しかし、米国がベネズエラ支配の確立に動くなか、ロシアは西半球における戦略的な足場を失う恐れがあり、同国の石油産業に投じてきた数十億ドル規模の投資も危機にさらされている。

 また、今回のベネズエラ攻撃は、米国の中東政策、とくに対イラン政策とも関連している。もし米国がベネズエラの石油を支配できれば、米国とイスラエルがイランを攻撃した場合に、ペルシャ湾からの石油供給が途絶えてもアメリカは対処できる。それに対して中国などはダメージを受けることになる。イスラエルや親イスラエル派が、ベネズエラへの軍事侵攻を支持している理由もそこにある。

 ノーベル平和賞受賞者のマリア・コリナ・マチャド氏は、ベネズエラへの軍事侵攻を求めると同時に、イスラエルのハマス攻撃を支持している。マージョリー・テイラー・グリーン下院議員も今回のベネズエラに対する軍事作戦とイスラエルの関係を指摘していた。

 トランプ大統領が最近、SNSを通じてイランに対し、米国は「準備万端」であり、イラン国内で起きているデモが米国側の定義する「文明的な方法」で処理されなければ介入する用意がある、と警告したことも注目される。

「イランへの攻撃を計画するなら、ホルムズ海峡が封鎖されるリスクがある。そうなればペルシャ湾からの石油が止まる。ベネズエラの石油を確保することで、少なくとも部分的な安全網を得られる」(スコット・リッター)。

☆参考文献
{大統領が『拉致』される時代──ベネズエラ介入が暴く米国の真の姿}
オルタナ図書館—Alzhacker 2026年1月4日

☆関連動画
学カフェ2026年1月8日(上野康弘):米国によるベネズエラ攻撃の狙いは何か?【時代の奔流を読むby木村朗】※編集済み完全版

(つづく)

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