村上大祐嬉野市長の配湯事業引き受け表明を問う(1) 誰の利益のための会見だったのか

村上市長の臨時記者会見、配湯事業の引き受け姿勢を表明

 2025年12月23日、嬉野市の村上大祐市長は臨時記者会見を開き、嬉野温泉で温泉の配湯事業を行っている嬉野温泉配湯(株)(以下、配湯会社)が市に対して事業の売却を申し出ていることを明らかにした。そのうえで村上市長は、事業の引き受けを前向きに検討する姿勢を示した。

 配湯会社は自社の源泉からくみ上げた温泉を、配管を使って嬉野温泉街にある温泉事業者の6割に当たる22施設と170戸程度に対して供給している。だが敷設から何十年も経過した配管は老朽化しており、多くの漏湯が発生している。昨シーズンに嬉野温泉の源泉水位低下が表面化した際には、その要因の1つとして配湯会社が汲み上げる湯量1日当たり約1,000tのうち6割が漏れていると報道された。

 配湯は源泉をもたない温泉事業者にとって命綱だ。また、配湯会社が引き起こしている膨大な漏湯は1日当たり適正揚湯量が2,500tとされる嬉野温泉の温泉資源そのものを危険にさらしている。しかし、配湯会社自身に問題を解決する力がないことから、温泉事業者らからは行政の介入を求める声が上がっていた。

 そのような状況のなか、12月18日に配湯会社から事業譲渡の申し出があったとして、23日の村上市長の会見となった。

配湯事業引き受け表明は一体だれの利益のためになされたか

 しかし、この村上市長の配湯事業引き受け姿勢表明は、市として正式な検討を行う前の表明だ。このタイミングで記者会見を行った理由について村上市長は、28日に自身のFacebookを更新し、次のように述べている。

村上市長のFacebookの12月28日の投稿

配湯会社が12月18日に「嬉野温泉の存続のために」と、市に事業売却の意向を示しました。市長選・市議選などの政治日程も考慮し、当初は選挙終了後に方針決定を行った上で公表する予定でしたが、風聞が広がる中で事実と異なるものも散見されたため、12月23日に記者会見を開いて説明をいたしました。

 しかし、この村上市長の説明には大いに疑問がある。たしかに19日の段階で関係者の間には「配湯会社が市に売却を申し出た」という情報が共有されたが、それだけでなく「この件で村上市長が23日に臨時記者会見を行う」という情報も含まれていた。そして実際にその通りになったのだ。つまり、遅くとも19日の時点で、23日の記者会見が決まっていたと見るのが自然だ。

 なぜ村上市長はこのような言い訳をするのだろうか。他でもない。「配湯事業の引き受け表明」が、今月の市長選に向けたアピールであることを隠そうとしていたに過ぎない。配湯事業の引き受け方針を打ち出すことは、配湯会社に命綱を握られている温泉事業者に対して大きなアピールになるからだ。

 28日のFacebookで村上市長はさらに「市としての決定事項ではない」といいつつも、「以下は、『村上だいすけ』としての将来構想としてお読みいただけると幸いです」「仮に嬉野市として事業化に取り組む場合、以上の3つをお約束します」として配湯事業の引き受け構想を述べたうえで、「『村上だいすけ』の構想力、実現力に期待をしていただきたいと思います」と結んでいる。これが選挙利用でなくて何だろう。

 また、報道によると配湯会社は18日に市に対して「売却を申し出た」となっているが、実際には、必ず売却することを約束するという「誓約書」を提出している。報道では「譲渡額は未定」(佐賀新聞)となっていたが、誓約書でも譲渡額には触れられていない。条件が決まっていないのに売却誓約書を提出するのも奇妙だが、この誓約書は市として正式決定前に村上市長が独断で引き受け方針を発表するために配湯会社が提出した担保ではないか。さらに誓約書中では、「この文書の公表を、令和7年12月31日までに行う」となっており、実際には市長による記者会見となったものの、誓約書が提出された18日の段階で年内の発表が想定されていたことが分かる。

現時点での引き受け表明に嬉野市の利益は何もない

 後に詳しく述べるが、この配湯会社は100%民間企業であり、純然たる営利企業だ。しかも、嬉野の関係者には知られたことだが、前身企業の時代に別事業で膨大な負債をつくっている。その企業が配湯事業の譲渡を市に対してもちかけている。譲渡がはたして配湯事業のみなのか、負債を抱える企業そのものの譲渡なのか不明であり、そのための公費負担がどの程度になるのかもまるでわからない。にもかかわらず、村上市長は詳細な検討前に、配湯事業引き受け姿勢を表明した。いくら市としての決定事項ではないと留保をつけても、これは実質的に嬉野市の政策の方向性を縛ることになりかねず、民間の営利企業である売却主との今後の交渉において嬉野市を不利にするものだ。12月23日時点で引き受け方針を示すことは、まったく嬉野市の利益にならない。村上市長は自身の選挙アピールという個人的な利益を優先して記者会見を行ったのである。嬉野市長の記者会見が、村上氏個人と配湯会社という2者の思惑と利益を優先して行われたことについて、村上市長の責任は大きい。

 この不可解な記者会見実施の経緯をただすべく、当社は村上市長に対して質問状を送付したが、期日までに回答は得られなかった。

特権的配湯会社に縛られた嬉野温泉の特殊性

 村上市長が記者会見を行った12月23日、嬉野温泉はいよいよ書き入れ時だ。しかし、昨シーズンのような節湯要請が出るかもしれず、温泉事業者は一抹の不安を抱えるなかで営業を行っている。とくに自社で源泉をもたずに温泉の供給という「命綱」を配湯会社に握られた事業者の不安は大きい。ここには嬉野温泉の極めて特殊な事情がある。「源泉所有者」という特権的事業者が存在し、そのうちの1社である配湯会社が多くの温泉事業者の「命綱」を握っている。過去にはそのことが政治的に大きな威力をもってきたという歴史的な背景もある。今はその形骸だけがのこり、嬉野温泉が飛躍するために必要な事業者の一致団結を阻害する要因となっている。嬉野温泉の特殊な事情と歴史的な背景、そして配湯会社については、続く記事で追々、触れていく。

 嬉野温泉特有の事情のもと、弱い立場にある温泉事業者が不安をかかえているときに、村上市長は「市としての決定事項ではない」段階で、事業者の期待をつなぎとめるための選挙アピールとして拙速に受け入れ方針を表明した。これは嬉野市の行政責任者として不誠実な姿勢であり、このような形で選挙に利用する村上市長は、これから嬉野温泉の問題の解決に真摯に取り組まねばならない嬉野市のリーダーとしては、不適格というほかない。

(つづく)

【寺村朋輝】

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