【新春トップインタビュー】福岡から日本のクリスマスをアップデートする アドベントが切り拓く、新しい冬の文化

(株)サエキジャパン
代表取締役 佐伯岳大 氏

 福岡を拠点に「クリスマスアドベント」を立ち上げ、日本のクリスマス文化をアップデートし続ける(株)サエキジャパン。2025年の上野公園での成功を踏まえ、26年はさらなる規模拡大と文化創造へ挑む構えだ。単なるイベントではなく、「光と音とアートが織りなす世界」を追求し、世界一のクリスマスを実現するための展望について、同社代表取締役の佐伯岳大氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)

上野開催で全国認知の拡大
福岡モデルが証明した価値

(株)サエキジャパン 代表取締役 佐伯岳大 氏
(株)サエキジャパン
代表取締役 佐伯岳大 氏

    ──2025年は活動の転換点になったようですが、その1年をどう振り返り、そこから目標やスタンスがどのように変化しましたか。

 佐伯岳大氏 (以下、佐伯) 25年を振り返ると、これまでは「福岡のクリスマスを世界一にしたい」という思いで、ずっと福岡を中心に取り組んできました。正直、これまで福岡に軸足を置いて取り組むなかで他地域への広がりはまだ具体的には描いていなかったのですが、福岡や九州、さらには東京をはじめ全国からも多くの人に来てほしいという気持ちはいつもあり、「ぜひ来てください。福岡のクリスマスはすごいですよ」と発信し続けてきました。

 しかし、昨年から発想を変え、「来てください」ではなく「こちらから行こう」という考え方に切り替えたんです。福岡のクリスマスの魅力を、私たちが外へ届けにいく──という方向に舵を切りました。

 その結果、上野公園でもクリスマスアドベントを開催することになり、上野の地域の皆さんをはじめ東京や関東一円の方々に大変喜んでいただけました。規模こそ初年度でまだ大きくはありませんでしたが、この上野での成功によって「福岡のクリスマスはすごい」という認知が広がり、多くのメディアでも取り上げられるようになりました。

上野恩賜公園 袴腰広場で開催されたクリスマスアドベント
上野恩賜公園 袴腰広場で開催された
クリスマスアドベント

    さらに、東京でクリスマスアドベントを行ったことで県外での認知度が上がり、「では福岡にも見に行ってみよう」という方が増え、著名な方々を含め多くの方が実際に福岡を訪れる流れが生まれました。1年目としては、非常にうまくいったと感じています。

 これまでは「福岡のクリスマスを世界一にする」という目標とともにしてきましたが、新たに「日本のクリスマスをアップデートしよう」という目標が加わりました。 日本のクリスマスをもっと良くすることで、クリスマスシーズンがよりすばらしい、笑顔が溢れる日々になれば良いかなと。 それを福岡発でやっていきたいという感じです。

 ──「見に来てもらう」というスタンスから「こっちから行く」というスタンスに変わった、そのきっかけは?

 佐伯 きっかけとしては、各地から「ぜひ取り組んでほしい」というご相談や期待の声をいただく機会が増えてきたことがあります。その一方で、福岡を世界一にすることを目指して取り組んできた自分たちが、東京でクリスマスアドベントを行うことについては葛藤もありました。

 しかし、福岡には非常に良いモデルケースがあります。そのモデルを磨き上げながら福岡を世界一にし、同時にその成功例を全国へ広げることで、日本のクリスマス全体をより良いものにできるのではないか―そう考えるようになりました。

マーケットからアドベントへ
日本のクリスマス観の転換

上野恩賜公園 袴腰広場で開催されたクリスマスアドベント
上野恩賜公園 袴腰広場で開催された
クリスマスアドベント

    ──東京・上野公園での展開について、依頼のきっかけから準備の裏側についてうかがえますか。

 佐伯 もともと上野観光連盟の方々からお声がけをいただいており、上野でもクリスマスの魅力を高めたいというご相談が以前からありました。そうしたご縁がきっかけで、上野公園での展開につながっていきました。そこで、総合プロデューサーというかたちで関わっていますが、単年の関わりではなく、長期的に上野公園のクリスマスをまずはしっかりと盛り上げていきたいと考えています。

 そのうえで、実際に動き出すにあたっては、本来、その年に実施する案件であれば3月中には決めておかなくてはいけません。しかし、上野公園については、8月15日に上野の皆さまと東京で打ち合わせをして、そこで決めました。9月、10月、11月の実質2カ月少々でやり遂げたかたちです。

 これは、福岡で長年イベントを運営してきた余力というか、いろいろな会場をもっていること、そして取引先とのネットワークがあることで、その協力を得て何とかできたと思っています。

 ──従来の“クリスマスマーケット”ではなく、“クリスマスアドベント”という概念を掲げている理由と、その文化をどのように育てていきたいのか教えてください。

 佐伯 私たちが活動を始めた13年前は、「クリスマスマーケットをやりたい」と言っても、多くの人にとってはまだ馴染みのない言葉でした。しかしこの10年で、イルミネーション中心だった日本のクリスマスは、次第に“マーケット”というスタイルへと広がり、今では福岡に限らず全国で一般化しています。

 ただ、各地で行われている従来型のクリスマスマーケットは、主に物販が中心のスタイルが多いのが現状です。私たちはそこからもう一歩踏み込み、より“体験としてのクリスマス”を届けたいと考えています。そこで提唱しているのが「クリスマスアドベント」という概念です。これは、光・音・アートを3つの柱に構成する、体験型のクリスマスのかたちです。たとえば「光」では、イルミネーションやプロジェクションマッピング、「音」ではクラシック音楽のステージ、そして「アート」では、伝統工芸とのコラボレーションやサーカスなど、多彩な表現を取り入れています。

 すでに“クリスマスマーケット”が当たり前になった今だからこそ、私たちはその先にある、新しいクリスマス文化―より美しく、幻想的で、地域性や文化を映し出す“アドベント”という世界観を広げていきたい。10年後には「日本のクリスマスといえばアドベント」といわれるような文化へ育てていきたいと考えています。

光・音・アートという三本柱
人との関わりが起業の原点

 ──光・音・アートを柱としたクリスマスづくりに至るまでの背景や、活動の源泉、そして運営の仕組みについてうかがえますか。

 佐伯 12月上旬にもヨーロッパにクリスマスを見に行っていましたが、たびたび海外のイベントを視察するなかで、日本にはまだない規模にいつも圧倒されます。それらの体験がきっかけとなり、本場でもあまり見られないショーを取り入れたいと考えました。そこで、福岡では昨年から、サーカスのショーを導入しました。

 私たちのコンテンツは「光・音・アート」の三本柱で構成しています。「光」では、貴賓館を中心にイルミネーションやプロジェクションマッピングを展開し、「音」では世界的なバイオリニストや若手ピアニストを招いた福岡クラシック音楽祭を実施しています。そして「アート」では、人形作家である中村信喬さんと伝統工芸とのコラボレーションに加え、サーカスなど多彩な表現を取り入れています。

 もともと、最初にクリスマスマーケットを見たのは07年にドイツに行った時でした。 寒い冬空のなか、みんながホットワインを飲みながら体を寄せ合って過ごす姿を見て、「こんなクリスマスが福岡にもあればいいな」と思ったのがきっかけです。

 私は学生のころ、大学1・2年で多くのバイトをやっていたのですが、2年生のときにたまたま貿易会社の社長と出会い、「起業してみないか」と言われたのが、本当に軽いノリで始めたきっかけです。 その後、就職するかどうか悩んだ時に、「自分でやっちゃおう」と思い、就職せずにずっと事業を続けています。

 若いころは自ら若者向けの会を主催しており、いずれも大きな反響を呼び、一度の開催で1,000人以上が集まることもありました。トヨタ自動車(株)の張富士夫氏(当時・取締役副会長)や、ソニー(株)の出井伸之氏(元代表取締役会長兼社長)が、当時25歳だった私の会にお越しくださいました。張さんとは、ある場でお話しする機会があり、そこで私のことを気に留めてくださったのが最初のご縁でした。ほどなくして「今度福岡に行くから会おう」とお声がけいただき、その後、経団連の会合で福岡を訪れた際に連絡をくださりお話する機会をいただきました。その流れで、わざわざ福岡にきて講演までしていただきました。

 張さんにはその後もご自宅にうかがうなど、本当に温かく接していただきました。そのご縁が広がり、財界のトップが集まる東京の会合にも何度も呼んでいただき、非常に貴重な経験をさせてもらいました。そうした若いころの経験を通じて、「多くの人が関わり、支えることで文化や場は育っていく」という感覚が、自然と自分のなかに根付いていったように思います。

 現在取り組んでいるクリスマスアドベントも、その延長線上にあります。収益構造自体は比較的シンプルで、テナントによる売上や賃料などの会場収入と、協賛金や広報枠といったスポンサーシップの収入という、大きく2つの柱で成り立っています。イベントとしては、この「会場」と「スポンサー」の二軸を中心に運営しています。

 ただ、こうした仕組み以上に、私にとって何よりの原動力になっているのは、多くの人に支えていただいているという実感です。コロナ禍でも「灯りを消さないように」と続けてこられたのは、来場してくださるお客さまや、応援してくださる企業の存在があったからこそでした。

 素敵なクリスマスを届けたい、世界一のクリスマスで笑顔になってもらいたい──そんな思いで活動していますが、振り返ると、一番大きなプレゼントをもらっているのは私自身だと感じています。人に喜んでもらうことが好きでなければ続けられない仕事ですし、そういう意味では少し“自己満足”の部分もあるのかもしれません。それでも、その思いに甘えることなく、より良いものを届けるために、高い目標を持ち続けることが大切だと考えています。

クリスマスがもつ“マジック”
ビジネスではなく文化を育てる

 ──ビジネスを超えて“文化づくり”としてクリスマスに向き合っていると話されていましたが、その背景にある想いや、季節そのものがもつ特別な力についてどう感じていますか。

 佐伯 私は、いわゆるビジネス優先の経営者というよりも、クリスマス文化を育てていきたいという想いの方が強いです。やはりクリスマスって楽しいじゃないですか。自分が頑張れば、多くの人がクリスマスアドベントに来てくれて、みんなが笑顔になって、素敵なクリスマスを過ごしてもらえるということに、心の豊かさや充実感を得ています。

 我々の事業は、すべてが「世界一のクリスマスをつくるためにあったほうが良いな」という発想で動いています。 たとえば、電気工事を安くしたいから自分で電気工事会社をつくってみたり、警備で困ったから警備会社をつくってみたりと、すべてが世界一のクリスマスをつくるという目的に集約されています。

 私がここまでクリスマスに思い入れをもつのは、この季節が人の心を少しだけ柔らかくするからです。クリスマスという時期には、マジックのようなものがあります。11月、12月は、基本的にみんな幸せな時期なんですよね。 年末に近づくと「今年もいろいろあったね」と、皆で労い合う時期だからです。

 同じイルミネーションでも、12月に見るイルミネーションと1月に見るイルミネーションでは、きれいさがまったく違います。 それは、イルミネーションが変わったのではなく、見る人の心が「来年はいい年にしようね」と希望をもっているからでしょう。 年が明けるとマインドが変わりますから、同じ光でも輝きが違って見えるのです。

 この幸せな12月という季節に、より楽しいことをやるからこそ、みんなの協力が得やすかったり、成長速度も早いのだと思います。今、約300社の協賛企業がいますが、皆さまが毎年応援してくださるのも、福岡を愛する思いをたくさんいただいているからだと感じています。

 ──26年以降の展開と、日本のクリスマス文化をどうアップデートしていきたいか、今後のビジョンを聞かせてください。

 佐伯 26年は、まず上野公園でのクリスマスアドベントを複数の広場を使い、現在の数倍の規模に広げたいと考えています。東京・関東で新たに2会場を追加し、合計3会場で“福岡発のアドベント”を楽しめる体制も整えます。福岡でも会場を広げていき、“店舗数世界一”を実現することで、冬の福岡が一番ワクワクする街になるよう挑戦を続けたいですね。

上野恩賜公園 袴腰広場で開催された ​​​​​​​クリスマスアドベント
上野恩賜公園 袴腰広場で開催された
クリスマスアドベント

    最終的には、光・音・アートで構成する“クリスマスアドベント”という文化を全国に広げ、「クリスマスといえばアドベント」といわれる存在にすることが目標です。派手さだけでなく、日本の人の心に根付くクリスマスの在り方をつくり、将来的には世界から見に来てもらえるような、福岡発の新しいクリスマス文化を育てていきたいと思っています。

【文・構成:和田佳子】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐伯岳大
所在地:福岡市中央区清川3-21-10
設 立:2007年8月
資本金:300万円


<PROFILE>
佐伯岳大
(さえき・たかひろ)
1981年4月1日生まれ、福岡県鞍手町出身。2007年8月、(株)サエキジャパンを設立。13年から「福岡クリスマスマーケット(現・クリスマスアドベント)」を立ち上げ、総合プロデューサーとして携わる。現在では、福岡の冬を象徴する催しとして広く親しまれている。

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