東電11兆円投資の全貌 脱炭素と賠償を背負う10年の賭け

11兆円という異例の投資規模

東京電力ホールディングス イメージ    東京電力ホールディングス(東電HD)は、今後10年間で11兆円超という巨額の新規投資を計画している。これは2015〜24年度の従来計画における投資額約7兆円から約1.5倍に膨らむもので、福島第一原発事故にともなう廃炉・賠償という重い責任を背負いながら、成長企業への転換を図ろうとする極めて野心的な構想だ。

 では、この11兆円は具体的にどこへ向かうのか。計画の中身を見ていくと、東電HDが置かれた立場と、描こうとしている将来像がより鮮明になる。

脱炭素・原発・送配電網、3つの柱

 投資の中核に据えられているのは、脱炭素と電力インフラ強化である。再生可能エネルギーでは洋上風力や太陽光の開発を加速させ、40年度までにグループの電源構成に占める脱炭素電源の比率を60%超に引き上げる目標を掲げる。

 一方で、柏崎刈羽原発の再稼働は収益確保の柱と位置づけられ、26年1月には6号機の再稼働が進められている。原発が安定稼働すれば、1基あたり年間約1,000億円の収支改善効果が見込まれ、これが投資原資となる。さらに、AI需要の拡大で急増するデータセンター向け電力供給や、変動の大きい再生可能エネルギーを効率的に送るため、送配電網の大規模な更新と高度化にも多額の資金が投じられる。

 これらはいずれも個別に見れば必要性が理解できる施策だが、同時並行で進めるとなれば、投資規模が膨張するのは避けられない。

「守り」から「攻め」へ 東電を取り巻く環境変化

 こうした巨額投資が必要とされる背景には、東電HDを取り巻く環境が「復興・賠償を最優先する守りの局面」から、「GX(グリーントランスフォーメーション)を軸にした攻めの局面」へと移行している現実がある。しかし、問題は方向性よりも、その実行手段にある。東電HDは現在も福島への賠償・廃炉費用として年間約5,000億円を確保し続けなければならず、11兆円を自社単独で賄うのは困難だ。

11兆円をどう賄うのか 外部資本と原発収益

 そのため同社は、再生可能エネルギー部門や販売部門の子会社に外部資本を導入する共同投資モデルを採用し、原発再稼働による収益改善を組み合わせて資金を捻出する方針を示している。

 ただし、これらの前提条件が1つでも崩れれば、計画全体が揺らぎかねない。この投資計画は政府認定を受ける次期総合特別事業計画に盛り込まれる予定であり、柏崎刈羽原発の安定稼働が実現するか、事故後の信頼回復と地元同意を維持できるかが成否を左右する。

成否を分ける柏崎刈羽と地元同意

 そして、この成否は東電HD内部の問題にとどまらず、最終的には私たちの暮らしにも跳ね返ってくる。この11兆円投資は、電気料金や電力供給の安定性に直接的な影響を及ぼすからだ。

 結論からいえば、短期的には電気料金を押し上げる圧力となる一方、長期的には日本の産業と暮らしを守るための必要経費という側面をもつ。その理由を分解すると、いくつかの具体的な負担構造が浮かび上がる。

電気代はどう変わるのか 値上げ圧力と抑制要因

 送配電網の更新や強靭化にかかる費用は、託送料金として電気料金に反映されるため、じわじわと負担増につながる可能性が高い。再生可能エネルギーの開発費も最終的には電気料金に転嫁されるが、海外の化石燃料価格に左右されない自国エネルギーを増やすことは、エネルギー安全保障の観点では合理的だ。一方で、原子力発電の再稼働は唯一の値下げ要因とされ、輸入燃料への依存を減らすことでコスト抑制効果が期待されている。もっとも、11兆円投資の影響は「価格」だけにとどまらない。

AI時代に「停電させない」投資

 安定供給の面では、AI時代に対応した「停電させない」投資の意味合いが大きい。千葉や印西などでデータセンターが急増するなか、既存の送電網は老朽化と容量不足が指摘されており、電力の高速道路を太く、かつデジタル化して賢くする必要がある。これが遅れれば、新たな工場やデータセンターの立地が制約され、日本の経済成長そのものが阻害されかねない。

 また、台風や地震といった自然災害に備えた設備強化は、停電しやすい地域を生まないための保険でもある。加えて、蓄電池への投資が進めば、太陽光発電の出力制御によって捨てられてきた電力を有効活用し、昼間の安い電気を夜に回すといった効率的な運用も可能になる。こうした将来投資を進めながら、同時に過去の事故処理を背負い続ける点に、東電HD特有の難しさがある。

稼いでも自由になれない 東電の究極のジレンマ

 東電HDが抱える最大の特徴は、「稼ぐために11兆円を投じなければならないが、稼いだ資金はまず福島の賠償と廃炉に充てなければならない」という究極のジレンマにある。その是非を判断するには、投資規模の大きさだけでなく、その成果と負担の分配を見極める必要がある。

 この投資計画は単なる企業拡大ではなく、事故の責任をはたしつつ、20年以上先の日本の電力インフラを維持できるかを問う試金石だ。今後は、投資の中身と成果がどの程度電気料金に影響するのか、月額ベースでどれほどの負担増になるのかといった点について、より透明で具体的な説明が強く求められることになる。

【青木義彦】

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