イトーヨーカドーはなぜ中国で相次いで撤退しているのか

中国経済新聞 2026年2月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。

 伊藤洋華堂(イトーヨーカドー)は、日本を代表する小売大手であるセブン&アイ・ホールディングスの傘下企業として、1997年に中国市場に進出した。初の店舗は四川省成都市で、当時は日系小売の先駆者として注目を集めた。しかし近年、同社は中国で相次ぐ店舗閉鎖を強いられ、北京市場からの実質的な撤退を決断した。2026年2月時点で、中国での店舗数はわずか6店舗に縮小し、主に成都地域に集中している。イトーヨーカドーはなぜ中国市場で相次いで撤退しているのか?

市場競争の激化とシェアの喪失

 中国の小売市場は、過去10年で劇的な変化を遂げた。eコマースの台頭と地元企業の台頭が、日系小売の伝統的な強みを削いだのが主な要因だ。イトーヨーカドーは、1997年の成都進出以降、生鮮食品や日用品を中心とした総合スーパー(GMS)業態で差別化を図ってきた。初期の成功は、日本式の品質管理とサービスが中国消費者の心を捉えたからだ。しかし、2010年代後半から、アリババ傘下の「盒馬鮮生(フーマー)」やウォルマート会員店「サムズクラブ」などの新興勢力が急成長した。これらは、デジタル化されたサプライチェーンと低価格戦略で市場を席巻した。

 例えば、2025年の資料では、成都イトーヨーカドーの相次ぐ閉店が指摘されており、原因として「サプライチェーン効率の低さ、組織内の連携不足、激しい市場競争の三重の圧力」が挙げられている。高回転の生鮮食品部門は強みを発揮したが、日用品部門の低迷が全体のコストバランスを崩した。フーマーは産地直送とオンライン統合で価格競争力を高め、ウォルマートは会員制で高品質商品を低価格で提供する。イトーヨーカドーの伝統的な代理サプライヤーメカニズムは、これらに比べて柔軟性が不足し、中間マージンの不透明さが活力の衰退を招いたと分析されている。また、北京市場では、2014年以降の店舗閉鎖が続き、2026年までにイトーヨーカドーの株式を地元企業に売却した。これは、競争環境の変化に追いつけなかった結果だ。2016年の資料では、北京イトーヨーカドーの閉店原因として「売上低下」と「客足の減少」が挙げられ、地元スーパーやオンラインへの客の流れが指摘されている。

 さらに、朴朴超市(Pupu)のような即時配送サービスが普及したことで、実店舗の優位性が失われた。イトーヨーカドーの店舗数はピーク時の20店舗超から急減し、2025年には9店舗に縮小。競争激化は、シェア喪失の直接的原因であり、同社の挫敗の基盤となった。

消費者ニーズの変化への対応遅れ

 中国消費者の嗜好は、経済成長とともに急速に多様化した。初期のイトーヨーカドーは、中高級志向の消費者を対象に、日本製商品や高品質生鮮で差別化を図ったが、近年は「コスパ」の重視とデジタルシフトが顕著だ。2022年の資料では、成都眷煕店閉店の背景として、「損益分岐点を超えられない」と指摘され、消費者ニーズの変化に適応できなかったとされる。北京イトーヨーカドーの閉店でも、「商品とサービスが、顧客の変化し続けるニーズに応えられなかった」ことが主因と分析されている。

 具体的に、若い世代のオンライン購買増加が実店舗の客流を減少させた。2025年の分析では、イトーヨーカドーの品類構造は「全体的なコスパが低下」し、SKUの効率化が追いついていない。例えば、北京の亜運村店は2026年に総合スーパーから食品スーパーへ転換したが、これは遅きに失した対応だ。成都地域でも、華府大道店の閉鎖は、周辺の競合商業施設の影響を受けた結果である。消費者調査では、中国人は高価な日本ブランドより、地元産の新鮮で安価な商品を好む傾向が強まっており、イトーヨーカドーの「高級志向」が逆効果となった。 

 また、チーム運用メカニズムの習慣も問題だ。28年間の運営で形成された日本式管理が、中国の速い変化に対応しきれず、「自己反省と問題解決が難しい体質」が指摘されている。この対応遅れは、内部文化の硬直性が原因であり、失敗を加速させた。

運営コストの上昇と収益圧迫

 中国の経済環境では、コスト上昇が慢性化している。家賃、人件費、物流費の高騰が、伊藤洋華堂の収益を圧迫した。2016年の北京イトーヨーカドー閉店では、「家賃や人件費などを含む管理コストが絶えず上昇している」ことが明確に原因として挙げられている。北京市場では、店舗数が減少するなか、残存店舗のサプライチェーンコストが増大し、単店リスクが高まった。 

 成都でも同様で、2025年の金融城店閉店は、コロナ後の回復遅れとコスト増が重なった結果だ。親会社のセブン&アイは2025年3月にスーパー事業をベインキャピタルに売却し、コンビニ事業に注力する戦略転換を発表。これにより、中国事業の投資が抑制され、閉店が加速した。売却後も35%の株式を保有するが、「スーパー事業の優先度低下」が明らかだ。コスト構造の硬直性が、中国市場の変動性に耐えられなかった典型例である。

戦略的誤算と業態転換の失敗

 イトーヨーカドーの戦略は、初期のGMS成功に依存しすぎた。2019年の「成都伊藤広場」(ショッピングセンター業態)進出は、タイミングの悪さで失敗した。開業直後にコロナ禍が発生し、運営経験の不足が露呈。周辺競合の増加(アウトレットモールなど)などが重なり、2024年に閉店した。伊藤洋華堂がショッピングセンターを試みたタイミングが悪かったことが主因だ。

 北京では、百貨業態のアップグレード失敗が目立つ。十里堡店はミドル・ハイグレードの生鮮に特化したものの、百貨部門のブランド不足が問題となった。全体として、日本式の「ワンストップ満足」が、中国のチャネル細分化に適応できず、事業の陳腐化が指摘されている。2025年の戦略転換として「店舗網を絞り込んでの攻勢」を掲げ、食品に注力したが、客数減少を客単価向上で補うにも限界がある。

 外部要因も無視できない。コロナ禍後の個人消費停滞とネットスーパーの台頭が、2025年の閉店を招いた。また、地政学的緊張(日中関係の悪化)がインバウンドやイメージに影響を与えた。経済全体の「巻き込み」(過度競争)が、業界大手の閉店ラッシュを誘発している。

 イトーヨーカドーの失敗は、中国市場のダイナミズムに適応できなかった内部要因が主だが、外部の競争・経済変動がこれを増幅した。今後、成都6店舗への集中と食品特化が鍵だが、デジタル化の遅れを克服しなければ、さらなる縮小は避けられない。中国市場の教訓は、日系企業全体に適用されるだろう。


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