武雄アジア大学が初のオープンキャンパスを開催~開学後に問われる教育と経営の責任

 4月に開学を予定する武雄アジア大学(佐賀県武雄市)は3月20日、完成したばかりのキャンパスにて初のオープンキャンパスを開催した。学長予定者による大学の理念説明や体験授業、キャンパス見学などが行われ、来場者に教育内容や施設の全体像が紹介された。

※オープンキャンパス開催に先立ち、司会者より、「オープンキャンパスの模様についての写真・動画撮影および録音は禁止します」という異例の注意喚起がなされたため、記事中ではオープンキャンパスの模様は画像を掲載しない。ただし合わせて司会者より、「お友達との撮影や、自慢のキャンパスについてはどんどん撮ってSNSなどにアップしてくださいね!」という催促もあった。よって本記事ではキャンパスの写真のみ掲載する。

 オープンキャンパスの冒頭では、学長予定者である小長谷有紀氏が大学の基本構想を説明し、武雄という地域を教育のフィールドとして活用しながら、アジアを視野に入れた人材育成を目指す「グローカル」な教育モデルを掲げた。 同大学の学部は「東アジア地域共創学部」の1学部のみで、経済学・経営学を基盤とし、地域課題の解決と国際理解を組み合わせた教育を行う。具体的には、1年次からPBL(課題解決型学習)を導入し、地域企業や自治体と連携したフィールドワークを展開する。学生は地域の課題調査や企画提案などに取り組み、実践と理論を結びつけた学びを進めるという。3年次からは「観光・地域マネジメントコース」と「東アジア・メディアコンテンツコース」の2コースに分かれる。観光ビジネスや地域ブランド戦略、ITマーケティングなどを学び、地域産業やコンテンツ産業で活躍できる人材育成を目指すという。

ガラスが多用された明るい空間が印象的だ
ガラスが多用された明るい空間が印象的だ

体験授業 地域経済とコンテンツビジネス

 オープンキャンパスでは体験授業も行われ、参加者は4つの講義のなかから2つを選んで受講した。記者が体験した2つの講義を紹介する。

体験授業1:なぜ地元に“働きたい会社”が少ないのか 担当:梅村仁氏

 この授業では地域経済を活性化させる方法について講義が行われた。梅村氏は「エコノミック・ガーデニング」という考え方を紹介。大企業の誘致に頼るのではなく、地元企業を育てて地域経済を強化していく手法であるが、現状の地方の課題として、地方から都市へ人材が流出することで企業が求める人材が地域に残りにくい構造が生まれ、それが地方企業のミスマッチにつながっていると指摘した。

 また武雄アジア大学が文部科学省の認可を得た背景として、国が「地域を変える大学」を求めているという視点も提示され、大学の役割を考える講義となった。

体験授業2:ディズニーランドに学ぶコンテンツ 担当:大木裕子氏

 大木氏による授業では、ディズニーランドを例に人を惹きつけるコンテンツの仕組みが解説された。ディズニーランドのリピーター率は9割以上とされるが、その理由は偶然ではなく、来場者の行動を細部まで設計した「世界観のデザイン」にあるという。トイレに鏡を置かない、ゴミ箱を適切な位置に配置するなど、来場者を現実に引き戻さない仕掛けが紹介された。また、働く人の9割がアルバイトでありながら高いサービス水準を維持できるのは、彼らが自らを「キャスト」として演出者の役割を担っているからだと説明された。

 コンテンツとは単なる映像やゲームではなく、人の感情を動かし行動を変える「設計」であるという視点は、観光やメディア分野を志す学生にとって示唆に富む内容だった。

御船山をモチーフにしたキャンパス

 プログラムの最後でキャンパスツアーが行われた。キャンパス設計を担当した建築家・宗本晋作氏(立命館大学教授)も参加し、学長とともにキャンパス内を引率して回った。

 宗本氏は、武雄アジア大学のキャンパスの一番の特徴について、「武雄の象徴である御船山の稜線をモチーフに屋根をデザインした。御船山と向き合うもう1つの『人工の御船山』として建物が地域の風景の一部となるように設計した」と語り、大学が地域と連続した空間として機能することを意図したという。

御船山をモチーフにした屋根が特徴の校舎
御船山をモチーフにした屋根が特徴の校舎

 そしてキャンパスのもう1つの売りといえるものは、西側に向かって広く開かれた大きなガラス面のファサードだ。透明感のあるガラス壁面によって、キャンパス内部からは御船山を望む景色が大きく切り取られ、建物の内部空間と周囲の自然が視覚的に連続する。大学から御船山を望むだけでなく、建築の内部にも山の景観が取り込まれる設計となっている。

校内のいたるところから拝める御船山
校内のいたるところから拝める御船山

大学を開設するという重い責任

 これまで同大学をめぐっては、学生募集について懸念の声が出ていた。現時点での入学者数を確認しようとしたが、最終の入学試験が3月23日に行われる予定で、入学予定者数はまだ確定していないとのことだった。同大学の入学式は4月4日に予定されており、遅くともそのときには入学者数が明らかになる。

 ところで、武雄アジア大学についてはどうしても入学する学生の数に関心が向きがちだが、開学後に大学が負う責任はそれだけではない。大学には最大限の教育機会を提供するという責任が始まる。学生は自らの人生の数年間をその大学に託すことになる以上、大学側には質の高い教育環境を整え、その学びを社会につなげる努力が求められる。

 まず重要なのは教育内容である。体系的なカリキュラムと充実した授業を通じて、学生が専門知識と問題解決能力を身につける機会を提供しなければならない。また、教員との対話や学習環境の整備など、学生が主体的に学べる環境づくりも不可欠だ。とりわけ新設大学の場合、教育体制は開学後も継続的に整備していく必要がある。

 現在のところ、武雄アジア大学にとってキャンパスは大きな魅力の1つだ。しかし教育環境の本質は建物ではなく、教職員と学生との関係によってかたちづくられる。もし入学者が少人数であれば、教員と学生の距離が近い教育や個別指導など、密度の高い教育を実現できる可能性もある。開放的なキャンパスでの教育が真に充実したものとなるかどうかは、こうした「ソフト面」の充実にかかっている。

 さらに大学には、学生のキャリア形成を支える責任もある。大学は就職予備校ではないが、インターンシップや企業連携などを通じて、学生が将来の進路を主体的に考える機会を提供することは重要な役割の1つである。一方で、就職活動に偏りすぎて大学本来の学びが損なわれないよう、教育とのバランスも求められる。

 こうした学生への責任を担うのは、まず大学を運営する(学)旭学園(本部・佐賀市、内田信子理事長)だ。ただし武雄アジア大学の開学は武雄市の支援なしには実現しなかった。同大学には総事業費約36億円のうち、公的支援として総額19億5,000万円(武雄市約13億円、佐賀県約6億5,000万円)が投入されている。また、キャンパス用地も2030年まで無償貸与となっている。このように多額の支援を行っている以上、その成否は武雄市の政策判断の評価にもつながる。

 旭学園が教育と経営という2つの責任をどのようにはたしていくのか。武雄アジア大学の挑戦は、4月の開学から本格的に始まることになる。

【寺村朋輝】

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『佐賀県、人口減少社会に直面した新大学構想の混迷』(23年12月26日掲載)

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