とにかく「軽く」て「浅い」福岡!(後)問われる都市の品格と将来像

 ずいぶん前になるが、2005年に数学者、藤原正彦の『国家の品格』がベストセラーとなった。国家の品格が語られるならば、当然『都市の品格』もありだろう。

都市の品格

 中学生の頃だろうか、確か太平洋側(表)に面した都市には多くの工業地帯が形成され、新幹線が東京から大阪、岡山、博多と西へ次々に結節して行くさまを覚えている。同時に、その反対側の日本海側を「裏日本」と呼んでいた。しかし現在、ある意味、経済発展から取り残された裏日本の萩、松江、金沢、富山、酒田といった都市は、多くの歴史的遺産があり、実に趣があり、アレックス・カーの言葉を借りれば「ディープ」な日本を代表する都市である。

 金沢はいうまでもなく「深い」。スケールが程よく、高く評価される工芸が金沢美術工芸大学をはじめ卯辰山工芸工房などで継承されている。また、金沢は谷口吉郎、吉生という親子(共に故人)の稀代の現代建築家を輩出している。父親の吉郎は、鹿鳴館の解体・消失を嘆き歴史的建造物を守るために明治村をつくり初代館長であった。息子の吉生はモダン建築の鬼才であり、ニューヨークの現代美術館をはじめ国内外に多くの美術館・博物館などを設計している。

 「杜の都」と評される仙台。青葉城から都市部へ延びる街路樹は圧巻であり、見事な緑陰をつくり、都市空間の快適さを増している。城の背後にある東北大学はまさに樹木に埋もれてキャンパスがある。「卓越大学」に選定されるに相応しいと勝手に評価してしまう。「深く」て「濃い」のだ。グリーンは壁紙ではない。福岡市役所の壁面を覆うグリーン、壁面緑化のなんと軽々しいことか。思いつきのような政策で表層を覆う、「軽く」て「浅い」のである。

 信州松本も「重く」て「深い」。国宝松本城は廃藩置県で崩壊寸前のお城を市民が資金を拠出し合って購入・再生したと聞く。根拠の薄い天守閣を無理筋で再現するのとは訳が違う。市内には多くの歴史的建造物が保存されている。旧制松本高校、国宝旧開智学校をはじめ、現代建築も見事に範を踏襲して設計されている。作家・北杜夫、辻邦夫、芸術家・草間彌生など多くの文化人が輩出されたことに納得が行く。品格があるのだ。

 決して福岡に歴史がない、などというつもりはない。しかし、日常生活でも、外からきた人を連れて行く場所がない、と本音を呟いているではないか。「軽く」て「浅い」は、今を楽しんでいる。フローこそが福岡を特徴づけている。

福岡空撮

夢想のなかの福岡

 20XX年、福岡市長選挙が行われ若干40歳の若い市長が選ばれた。小学校までアメリカで過ごし地元S高校、T大学のSchool of Design(デザイン学部)を卒業している。このT大学のデザイン学部は、10年前に創設されまったく新しい入試制度やAI台頭のなかで次世代の価値観をもった学部として理三を超える偏差値で注目されていた。

 その市長が従来の行政の垣根を越えて次々と新しい政策を打ち出している。

夢想の政策1:新たな「公」を問う

 さすがに人口増加の先頭を走っていた福岡も人口減少に直面している。「軽く」「浅く」が許され、いつまでも「成長」を自慢する時代は終わった。初めて広義の成熟を問う「デザイン」の価値が評価されている。この分野に最も縁遠い行政でも「デザイン企画部」「アート・デザイン・文化部」などが次々と編成され、職員は高度に専門化し、主要な事業は「プロジェクト」として部局を離れて職員が数年にわたり専従することが可能となった。資本主義の限界は長く言われていた。そのなかで貨幣に置き換えられない「公」の価値とは何か次世代を担う市長は模索してきた。新たなデザインに裏打ちされた「公」である。「医療」「教育」「福祉」「文化」そして公共施設の「維持管理」である。これらは、成長や利益では測れない人や地域に根ざした必要不可欠な分野である。行政は、これらの分野に限定して人材や公金を集中的に投じて、新たな「公」の意味を問い直そうとしている。世界の地域課題の最先端を行き、日本を後追いしているアジアの諸外国にとって公のビジネスモデルとなって注目されている。「北九州のように、いたらんことをせんでいい!」やっと気づいた公の価値である。

夢想の政策2:世界に誇るアートとデザインの拠点

 福岡県には公立大学法人として3つの県立大学、福岡市には4つの市立高校がある。ともに少子化にともなって厳しい経営状況が続きAIの劇的な進化によって再編がせまられてきた。T大学のデザイン学部は従来の大学教育を超えて「人」の存在の意味を問う「先端技術」と「リベラルアーツ」を中心としたSTEA(ART)M教育で高く評価されてきている。

 その出身である若い市長は大胆な提案を実行した。国、県に呼びかけて某大学芸術工学部の敷地に国立、県立、市立、民間の壁を超えて既存教育機関を集約し、沖縄(OIST: 科学技術大学院大学)のような現代アートとデザインの世界最先端の高等研究開発拠点設置に動き出した。この拠点は研究のみならず、AIとアートが融合した高次のデザインのビジネス化、少子化、過疎、環境問題など日本が世界に先駆ける課題に向けた画期的な組織として注目され、行政の次世代シンクタンクとして世界から創造的な人材が次々と福岡に集まってきている。

夢想の政策3:世界レベルの観光

 今や外国となった東京を逃げ出す若い経営者が目をつけたのは福岡、しかも能古島であった。わずかフェリーで10分、都市の喧騒からのデトックスが可能な南斜面は、海外ならば「セレブの島」である。

 市長は市街化調整区域を徐々に解除し、かつての最盛期までの人口増加を認めた。そこに注目し、海外富裕層を対象としてきたRホテルが島にわずか10部屋のヴィラを開設すると発表した。市内でチェックインした富裕層は、専用クルーザーで能古島のヴィラへ、そこから山頂のヴィラへ移動。夜景は海を隔てた絶景、プライベートなテニスクラブも併設されている。

 Rホテルは、第2弾として英彦山に目をつけた。江戸時代の宿坊を再生し、富裕層に修験道体験を提供している。第3弾は星野村であり、福岡県全体に「丸く」「賢く」繋いで展開し超富裕層を確実にネットワークで捉えている。

 ・・・・うーむ、15分寝たか、事務所での昼寝は、高齢者にとって実に快適だ。もう少し寝たかった・・・・・

 私自身、仮に若かったとしても今さら東京で仕事をしたいとは思わない。ワーク・ライフ・バランスを考えれば、福岡ほど住みやすい都市はないだろう。その福岡が東京を後追いしている。同時に金融資本主義に引きずられて日々変化するフローとしての都市の姿に対して、どこまで持続性があり、次世代のモデル都市となるかと言われれば大きな疑問符がつく。

 斎藤幸平のベストセラー『人新世の資本論』の人新世は人類の活動が地球の地質、生態系に計り知れない影響を与え、それを新たな地質年代とするものである。この始まりをいつにするかさまざまな意見があるが、私が生まれた1950年代からの「大加速度時代」を始まりとする考えがある。人類の歴史からすれば、瞬きのような時間である。この速度がさらに加速すれば、つまり「成長」を追い求めれば「ポイント・オブ・ノーリターン:引き返すことができない地点」が来るといわれる。

 今こそ、少しは地に足をつけた将来像を考えようか。もし、私が30歳若かったら市長選挙に立候補するなあ・・・・・・・・これも夢の続きか・・・。

(了)


<プロフィール>
佐藤俊郎 環境デザイナー

1953年(昭和28年)熊本県水俣市生まれ。修猷館、九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)修士課程終了。
国内外の著名デザイン事務所、建築設計事務所勤務。大学非常勤講師、デザイン専門学校理事長などを歴任。アメリカンドリームの再構築(共訳、勁草書房1991年)、場所の力(共訳、学芸出版2002年)、漂浪建築(一粒書房2025年)などがある。2011年東日本大震災復興計画私案論文で最優秀賞(朝日新聞主催)

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