地場ハウスビルダーにとって大きな転換点となった熊本地震

(株)Lib Work / (株)アネシス

 2016年に発生した熊本地震は、復旧・復興の過程でさまざまな事業者に苦難を強いた。暮らしの場である住宅を供給するハウスビルダーは、発災直後から多大な役割を担ったが、その際の課題や教訓を成長戦略に結びつけた、(株)Lib Workと(株)アネシスの事例を紹介する。

住まい・まちづくり
業務改善のきっかけに

 震災直後に直面したのは、これまでの常識が通用しないという厳しい現実であった。(株)アネシスの専務取締役COOである薮内真由美氏は、「被害が広範囲、甚大であったため、社員が個別にオーナーを訪問して情報を収集する従来の手法が限界に達していました」と振り返る。(株)Lib Workの代表取締役社長・瀬口力氏は、「建物そのものの損壊はもちろん、電気、水、ガスといった生活インフラの断絶が暮らしに与える甚大な影響を痛感しました」と述べている。

(株)Lib Work 代表取締役社長・瀬口力氏
(株)Lib Work
代表取締役社長・瀬口力氏

    こうした教訓により、まず住宅のハード面の強化が図られた。Lib Workでは、震災以降「住まいの復元力」を最優先事項に掲げ、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた自立型エネルギー住宅の提案を加速。さらに、震度7の揺れにも耐え得る温水器の固定金具や配管の強化など、目に見えない付帯部分に至るまでレジリエンスの追求を徹底した。

 アネシスでは耐震性の向上にとどまらず、気候変動にともなう新たなリスクへの対応を見据えている。敷地内に降った雨水をほぼ100%浸透させる「雨庭(あめにわ)」という手法の導入は、その象徴。これは道路の側溝への急激な流入を防ぎ、排水能力を超えたオーバーフローを抑制する「減災」の取り組みであり、雨水対応を行うグリーンインフラとしての家づくりを推進している。

 企業の組織運営や事業継続計画(BCP)の面でも、劇的な変化が見られた。震災時の初動対応における混乱を教訓に、Lib Workでは外部コンサルタントと連携してBCPを全面的に見直した。現在では、震度5強以上の地震が発生した際、1時間以内に全社員の安否確認と情報集約を完了させ、経営判断を下す仕組みが整えられている。瀬口氏は、「震災を原点に守りのレジリエンスを強化しましたが、今は3Dプリンター住宅への取り組みなど、攻めのDXへと発展させています。AIや科学的管理手法を住宅業界以外にも広げ、停滞する産業を再生する構想もあります」と強調する。

 アネシスは、災害対応の改善をDX化の推進に生かし、即座に被害状況を確認・集約できる体制へと進化させた。薮内氏は、「オーナー自身がスマートフォンから被災情報を入力し、それが本部に集約されて見積もりから工事、支払いまでをデータで一貫して連携させる仕組みは、迅速かつ漏れのない復興支援を可能にしています」と話す。災害対応をCSR(企業の社会的責任)の延長ではなく、経営の中核に位置づけることで、組織としての強靭化を図ったのだ。

 ハードウェアやシステムだけでなく、そこに住まう人々のコミュニティという「ソフト面」にも変化が見られる。アネシスでは、緑を共有するような外構計画を通じて隣人同士が自然に挨拶を交わし、緩やかにつながる仕掛けを施している。「震災時に井戸水を分け合い、カセットコンロを譲り合った経験から、いざというときの互助こそが究極の安全保障であるとの認識が深まった」(薮内氏)ためである。同社では、新たな経営ビジョン「豊環(TOYOWA)」に基づき、美しくメンテナンスされた街並みが地域の資産価値を高め、それが住民の豊かさにつながるという循環の構築を目指している。

歴史的な転換期にある熊本の住宅市場

(株)アネシス 専務取締役COO・薮内真由美氏
(株)アネシス
専務取締役COO・薮内真由美氏

    ところで、この10年の間に熊本の住宅市場は、TSMC進出という歴史的な転機を迎えた。当初、行政などは移住者の多くが賃貸住宅を利用すると予測していたが、薮内氏は「実際には“熊本の豊かな自然のなかで一戸建に住みたい”というニーズが確実に存在することが明らかになりました。また、台湾の住宅価格高騰を背景に、日本での住宅取得を資産分散や地政学的リスクへの備え、一種の安全保障として捉える層が、東京や大阪に加えて熊本を選択肢に入れています」と分析している。

 進出が決まった当時は、バブルの様相を呈していたが、今は「比較的落ち着いた状況」(薮内氏)とのこと。なお、台湾人の顧客は風水を非常に重視し、デザインや品質の高さに加え、インターナショナルスクールへの通いやすさといった教育環境も重視する傾向にあるという。こうした状況に対応するため、アネシスでは現地法人「熊本未来」を設立し、移住支援や中国語でのコミュニケーション支援など、住宅販売の枠を超えた包括的なサポートを展開している。

 瀬口氏は、半導体産業の集積は熊本にとって歴史的な転機であり、関連企業や研究機関の集積が進み、都市の姿そのものが変わり始め、それは住宅市場も例外ではないとしている。そのうえで、「短期的には供給不足や賃料上昇などの課題があり、長期的には人口流入と雇用創出が進む可能性がありますが、私たちは20年、30年という時間軸で地域の成長を見据え、事業に取り組んでいます」と述べた。

 具体的には、従来の新築一辺倒から、既存ストック活用も重視し、(株)アダストリアの「niko and ...」との提携を軸に、今後はリノベーション再販事業(中古住宅を買い取り、デザイン性を高めて再生)の強化にも乗り出す計画だ。このほか、建設業界の2024年問題に対して、工程管理をコントロールセンターに集約し、現場監督の負担を軽減。遠隔管理やデータ活用によって、品質管理を効率化している。

 甚大な被害を出した熊本地震からの復旧・復興の過程で得た経験や教訓を、その後の成長や事業内容の改善のきっかけとした2社の取り組みから、学ぶところは多い。

【内山義之/田中直輝】

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