イラン戦争後の世界の見取り図(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 2月に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃(オペレーション・エピック・フューリー)を経て、世界の勢力図は「米一強」から「多極化」と「ブロック化」へ決定的に移行しました。日本は同盟の深化と多角的外交のバランスを問われる立ち位置となっています。言うまでもなく、イラン戦争後の世界勢力図は多極化の加速が避けられません。当然のことながら、米国の影響力は大きく変容するでしょう。

米国の求心力低下と多極化の加速

 トランプ政権による電撃的な軍事行動は、中東諸国や欧州との足並みの乱れを露呈させました。米国はエネルギー覇権を背景に依然として強力ですが、中東関与のコスト増大により、インド太平洋など他地域へのリソース配分に制約が生じています。今回のイラン戦争において、トランプ政権は議会への事前説明なしに攻撃を断行したため、内外から厳しい批判を浴びました。 結果的に米国は「内向き」となり政権への信頼も低下。戦争の長期化によるガソリン価格の急騰(レギュラーガソリン16.8%上昇)や家計負担増を受け、トランプ政権は2026年11月の中間選挙への配慮から早期終結を模索せざるを得なくなっています。

 その影響は多方面におよんでいます。たとえば、「法の支配」の揺らぎです。安保理常任理事国が国際秩序の根幹を揺るがす軍事行動を繰り返すことで、国連を中心とした既存の秩序は形骸化し、中国やインド、グローバルサウス諸国が独自の影響力を行使する多極化が加速しつつあります。

 また、中露の影響力も拡大中です。国連安保理での制裁再発動をめぐる対立などを通じ、中露はグローバルサウス諸国への働きかけを強めています。中国は米国との関係を最優先しつつも、イラン情勢を米中交渉のレバレッジとして活用する動きを加速させています。

 加えて、経済のブロック化と供給網の再編も起きています。ホルムズ海峡の封鎖(世界の海上貿易額の約2%が影響)により、エネルギーや半導体の供給網が寸断されてしまい、信頼できる同志国間でのサプライチェーン構築が国家戦略の核心となっています。

問われる日本の立ち位置と現実的対応

 そんななか、日本の立ち位置が問われています。26年3月の高市・トランプ首脳会談では、緊迫するイラン情勢への対応が焦点となりました。日本は国益とエネルギー確保に向け、「軍事貢献の代替としての経済・エネルギー協力」と「法整備を含めた独自の防衛力強化」の二段構えで取り組む姿勢を打ち出しています。 

 首脳会談で高市首相は、現行法の制約(憲法9条や自衛隊法)を丁寧に説明し、戦闘継続下のホルムズ海峡への自衛隊派遣について具体的な約束を避けました。一方で与党内からは、日本関係船舶だけでなく他国船の護衛も可能にするための「特別措置法」の制定を求める声が上がっており、今後の情勢次第では自衛隊の迅速な派遣に向けての議論が本格化しています。高市首相は「できること」と「できないこと」をトランプ大統領に詳しく説明して納得を得たと発言。では「できること」とは何でしょうか。防衛省は、イラン当局の許可を前提とした機雷除去活動など、現行法の枠内で可能な貢献策の検討を急いでいます。

 実際にイランがホルムズ海峡に機雷を敷設しているかははっきりしていません。とはいえ、海自の機雷掃海の技術力は世界的にも高いことで知られ、太平洋戦争で日本周辺に日米両軍がまいた機雷約7,000個を処理したほか、湾岸戦争後の1991年にペルシャ湾で34個の機雷を処理した実績もあります。防衛省幹部は「高い技術をもち、エネルギー輸入で深刻な影響を受ける以上、調査を含めて自衛隊を出すべきだ」と強調。このアプローチは対米交渉の切り札になるかもしれません。

 現在、中東情勢の激変による原油高と供給不安に対し、日本は調達先の多角化を加速させています。中東依存を減らすため、米国アラスカ産原油やLNG(液化天然ガス)の調達拡大と、米国での原油増産分を日本で共同備蓄する案をトランプ大統領に伝達しました。

日本の外交・防衛戦略と
イランの将来像

 今後取り組むべき外交・防衛戦略も忘れてはなりません。まずは、独自の仲介外交です。日本は伝統的な親イランの立場を生かし、米国との橋渡し役(バックチャネル)として事態の早期沈静化に向けた外交努力を継続すべきです。

 さらに重要なことは、「戦略的不可欠性」の確保です。米国の技術(ITクラウドやAI)を活用しつつ、日本が目指す「デジタル主権」の確保や、ミサイル共同開発などの防衛協力を進めることで、多極化する世界において米国からも他国からも「必要とされる存在」であり続けることが、長期的な国益につながります。

 さて、今後の展望と注視点は下記の通りです。最初に注目すべきは、2026年11月の米国中間選挙。この結果が、トランプ政権の対外政策の持続性や、さらなる内向き志向を左右する最大の分岐点となります。次が経済成長の源泉でしょう。 26年の世界経済はAI投資や構造変化に支えられ底堅いと予測されていますが、インフレと地政学リスクが最大の懸念材料です。

 ところで、イランは未来の大国となるのでしょうか? イランが短期間で「世界的な大国」となる可能性は、現状では極めて限定的です。とはいえ、資源大国の実力は過小評価すべきではありません。石油(世界3位)、天然ガス(世界2位)の埋蔵量を誇る資源大国としての潜在能力は非常に高いからです。

 しかし、米国の軍事攻撃によりインフラや軍事施設が壊滅的な打撃を受けており、経済成長率は27年以降も1.0〜1.5%程度の低水準にとどまると予測されています。26年時点で人口は約9,300万人に達しており、中東最大級の現役兵(約60万人)を有していますが、経済制裁と戦後復興の重荷が将来の発展を阻んでいます。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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