アイユーコンサルティンググループ
生成AIによる定型業務や知識処理の代替が進み、士業のビジネスモデルが根本から揺らいでいる。「作業」の価値が低下するなかで、これからの税理士には何が求められるのか。相続・事業承継案件に特化した税理士法人を中核とするアイユーコンサルティンググループ代表・岩永悠氏に話を聞き、AI時代を生き抜くための新たな士業像を探る。
AIが代替できない「人間力」
生成AIの普及により、税理士をはじめとする士業の仕事は大きな転換点に差しかかっている。税額計算や資料整理、申告書作成、仕訳、財務分析といった業務では、すでにAIやRPAによる効率化が進んでいる。これまで専門家の価値を支えてきた「正確に処理する力」や「知識量」だけでは、差別化が難しくなりつつある。そうした変化を前提に、相続・事業承継案件に特化した(税)アイユーコンサルティングを中核に事業展開するアイユーコンサルティンググループ代表の岩永悠氏が強調するのは、AIでは代替しきれない「人間力」の重要性だ。
代表・岩永悠氏
岩永氏によれば、とりわけ相続や事業承継は、「人」の関与する余地が残りやすい分野だという。相続は、多くの人にとって一生に一度か、多くても三度ほどしか経験しない出来事であり、当事者自身が何を相談すべきか、どこに論点があるのかを十分に整理できていないことが多い。税額計算や必要書類の整理はAIで代替できても、家族間の感情、後継者の意思、経営者本人の迷いをくみ取りながら、現実的な着地点を探していく過程は定型化しにくい。そこでは、専門家側から問いを立て、相談者自身も気づいていない「本質的な課題」を掘り起こす力が必要となる。
一方で、資料が揃った後の工程について、岩永氏の見立ては明快だ。申告までの作業、会計処理、さらには分析まで、かなりの部分は生成AIやAIエージェントで代替・効率化できる。これまで士業が報酬の根拠としてきた「作業量」は、もはやそれ自体では価値にならない。AIが客観的な分析結果を出し、複数の選択肢やメリット・デメリットまで整理してくれる時代に、人に残る役割は、顧客に寄り添いながら、AIが導いた結果をどう受け止め、最善の意思決定を後押しできるかという部分だ。そこに「人間力」が求められている。
ここで岩永氏がいう「人間力」とは、漠然とした精神論ではない。第一に、対面のやり取りや場の空気、表情、言葉の間から相手の悩みを読み取る「察する力」。第二に、顧客を外から分析するのではなく、同じ目線に立って課題を受け止める「当事者意識」。第三に、AIが示した客観的な情報を踏まえたうえで、担当者自身も責任をともに引き受ける覚悟で最終判断を後押しする「決断させる力」である。
顧客の決断を支えるのは、データの妥当性ではない。「この人が共に歩んでくれるなら」という担当者への信頼こそが、最終的な意思決定を左右する。士業の価値は、知識を一方的に提供することから、顧客の隣に寄り添い、時に決断の背中を押すことへと重心を移している。
「『共に考える』ブルーカラー」
という実務家像
こうした変化を、岩永氏は「『共に考える』ブルーカラー」という言葉で表現する。ここでいうブルーカラーは、単なる肉体労働の比喩ではない。単に知識や客観的事実を並べるのではなく、顧客と同じ視座に立ち、解決の道筋が見えるまで共に悩み、泥臭く歩みを止めない「実務家」としてのスタンスを指している。
従来の士業は知的労働者、すなわちホワイトカラーとして語られてきた。しかし岩永氏は、税理士の仕事の大半はもともと作業的性格をもっており、それを高度なホワイトカラー業務として捉え続けること自体に違和感があると語る。AIがその作業部分を引き受けるようになった今、パソコンの前に張り付くデスクワーカーでいるだけでは価値を出せない。差がつくのは、現場に出て、顧客と向き合い、状況を踏まえて判断を後押しできるかどうかである。
この発想は、同グループの採用や人材育成の在り方にも影響を与えている。従来は、税務知識が豊富な有資格者を重視してきた。もちろん、高度な専門知識が不可欠であることに変わりはない。しかしAIが定型業務を担う時代には、知識を土台としつつも、高いコミュニケーション能力や営業感覚をもち、顧客との信頼関係を築き、意思決定を支えられる人物かどうかがより重要となる。
同社ではそのための体制づくりとして、今年4月に社内研修制度を再整備した。実務の基礎を学ぶ「アイユーアカデミー」と、コンサルタントとしての高度な対応力やマインド、ノウハウを学ぶ「特別研修」の両輪により、伴走力と人間力の強化を図っている。
ただ、研修による学びは、現場での実践があって初めて血肉となる。そこでカギを握るのが、AIによる徹底した効率化だ。すでにAI活用などで年間8,000時間以上の削減に成功している同社だが、今後さらに作業工程を徹底して効率化していく方針だ。研修で得た学びを、AIによって生み出した現場の時間ですぐさま実践する。このサイクルを高速で回すことこそが、アイユーコンサルティンググループ流の人間力育成の要となっている。
「『共に考える』ブルーカラー」という言葉には、事務的な作業をAIで効率化し、人間にしか担えない領域へ深く踏み込むという、役割の再定義と覚悟が込められている。分析や選択肢の提示はAIが担えるようになっても、その先にある決断の支援、伴走、信頼形成は、生身の人間だからこそ担える役割である。岩永氏の語る士業像は、AIに脅かされる専門職の防衛論ではない。むしろ、士業が本来の価値を取り戻していくための方向性を示している。これからの士業に求められるのは、「何を知っているか」以上に、どれだけ深く顧客に寄り添い、その決断に確信を与えられるかである。
【松下森音】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:岩永悠
所在地:福岡市博多区博多駅前4-15-6
設 立:2015年4月








