トライアルの西友買収をはじめ、小売業界では提携やM&Aが相次ぐ。だが、その背景にあるのは成長余地の拡大ではなく、立地、商圏人口、業態寿命という従来型小売の限界である。人口減少とオンライン浸透が進むなか、求められるのは規模の拡大そのものではなく、業態を捨てる決断と変化への対応力だ。
M&Aラッシュが示す小売立地の限界
トライアルの西友、イズミのサニー、イオンのマルナカ、パン・パシフィックのオリンピック、イオン九州のトキハインダストリーの買収など全国各地で、小売業の提携、M&Aの話題が尽きない。そんなM&Aラッシュが物語るのは、立地と商圏人口という小売店成立条件の枯渇だ。
もちろん、これから先、そんな商環境が好転する余地はない。少子高齢化、人口減少という傾向が亢進するからだ。加えて、リアル店舗を圧迫するオンラインという業態が時間の経過とともに消費社会にますます浸透する。オンラインは消費者が居ながらにして、世界中の商品を比較、検討、購入することができるシステムだ。スマホ1つで完結する新たな購買手段はかつてカタログで消費をけん引したアメリカのニューウェイブを彷彿とさせる。
1920年代、通販で成功し、実店舗に舵を切ったシアーズはそれから半世紀を過ぎたあたりで、世界最大の小売業の地位を手にした。しかし、それから半世紀が過ぎた今、その姿はない。我が国も同じだ。戦後から高度成長の半世紀、小売業界を席巻した日本型GMSもシアーズと同じ轍を踏んだ。何とか生き残っているのがイオンリテールだが、祖業の小売部門の利益は極めて厳しい。金融、不動産デベロッパー、複合小売、その他サービスで巨大組織を構成する企業のなかでGMS業態、とくに衣料、住関連は消費者の支持を完全に失っている。
そんなイオンは小売売上で世界のトップテン入りを表明してずいぶん経つが、ドル換算で見るといまだに20位あたりに低迷している。円安の影響もあるが、主因はリテール業態が年老いたからだ。誕生からすでに50年が過ぎ、賞味期間切れだ。
かつてイオンは都心型多層階店を捨てきれなかった同業を尻目に、郊外型合同店舗に舵を切った。SC型への切り替えだ。
イオンが背負い続けるGMSの老い
そこには捨てる勇気と冷徹なM&A視点がある。イオンはその名称を三度変えている。岡田屋からジャスコ、そしてイオンだ。ジャスコとはジャパン・ユナイテッド・ストアーズ・カンパニー。1969年、フタギ、シロ、岡田屋の三社でのスタートだった。その後、大小さまざまの合併を繰り返し、半世紀が過ぎた。現在、イオンをグリップするのは岡田屋ルーツのトップだ。それが冷徹なM&Aと表現した理由だ。
かつての王者ダイエー、マイカル、寿屋など少なくない日本型大手GMSがイオンに組み込まれた。そのグループ売上は今や10兆円を超える。それでもリテール部門の利益は低迷を続ける。
低迷の理由は新聞、テレビと同じだ。それらはいま、オールドメディアと揶揄される。オールドとは時代に添い寝する機能をなくしてしまうことだ。好きなときに、好きなモノを、より短時間で手に入れる。好きな番組を録画し、コマーシャルはスキップし、気に入らなければ消去する。YouTubeなどのニューメディアはそんな顧客ニーズに添い寝する。
小売も同じだ。時代が変わるとき、過去の成功手法は満開の桜と同じで、いかに手を尽くしても、花は蕾に戻らない。
イオンは捨てる勇気と新たな試みで現在まで生き延びた。しかし、捨てられなかった祖業のGMSで苦戦する。GMSの改善に余念がないが、その効果はほぼ皆無だ。解決法はただ1つ。業態を捨てるしかない。
世界上位企業が示す変化と集中の論理
モノを売るという基本は時代や古今東西、何ら変わることはない。モノをつくり、運び、集め、売場をつくる。商業という仕事の基本は古来、不変だ。だが、その手法は時代とともに変化する。
「間口三間」「戸板一枚」。戦後に成功した経営者の幾人かから聞いた言葉だ。いわゆるニッチからの出発だ。そんな彼らの何人かは小さなスタートから、あっという間に大企業をつくり上げた。その典型が日本型GMSだった。
そんなGMSも文字通り風前の灯火だ。この20年、グローバル10を標榜してきたイオンの昨年の実績は世界の小売ランクで20位程度だ。トップはウォルマート。アマゾン、コストコ、クローガーといった企業がそれに続く。ウォルマートの売上はイオンの10倍超。彼らの背中はいまだに遠い。というより、ますます遠ざかる感すらある。アマゾンの我が国売上もすでに5兆円近くまできているというから、もうすぐイオンに並ぶ。
世界の小売上位が年間販売額、数十兆円を超えてもなお成長を続ける原動力は変化と集中だ。ウォルマートはリアル店舗を起点にしたオンライン販売が毎年、高い伸びでその売り上げ構成も全体の20%を占めるまでになった。オンラインの専用施設をつくることなく、すでに全米に張りめぐらした既存店舗を効果的に活用しているから、新規出店無しで売り上げ増を生み出す。加えてオンラインによる顧客アプローチは店舗との相乗効果も期待できる。出店投資に代えてオンラインに大きな支出を割く、したたかな対アマゾン戦略だ。そのアマゾンの強みは消費者との窓口の広さと世界中を市場にする無限の商圏だ。併せて、ホールフーズ、アマゾン・ゴーなどリアル小売にもしつこく挑戦を続ける。
スーパーマーケット最大手のクローガーもアルバートソンズなどの同業M&Aに加えて英国のオンライン専門スーパーマーケットオカドと提携した自動倉庫配送システムという新手法を実験した。ロボット利用の大型配送倉庫を利用したオンライン事業だが、全米をくまなく網羅するウォルマートや地方の雄フロリダのパブリックス、テキサスのH-E-Bなどの堅固な牙城を崩せないでいる。クローガーの新たな試みはおそらく失敗だ。我が国では同じ試みをイオンが行っている。
(つづく)
【神戸彲】








