国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
高市早苗首相とソフトバンクグループの孫正義会長の接近は、日米外交の舞台でも注目を集めている。トランプ大統領との関係を背景に、孫氏の対米AI投資は外交カードとしての意味を帯び始めた。一方、ソフトバンクグループは過去最高益を発表しながらも、海外投資家からは巨額投資にともなう流動性リスクや格付け懸念を指摘されている。
孫氏は日米外交の「経済カード」
本年3月19日に行われた高市首相とトランプ大統領の日米首脳会談後の公式夕食会において、孫会長はトランプ大統領のすぐ隣に同席。トランプ氏が高市首相をもてなす場に孫氏を招いたことからも、3者の距離の近さがうかがえます。
高市早苗首相とソフトバンクグループの孫正義会長は、現在「日米外交のパイプ役」として極めて緊密な連携関係にあります。高市首相がトランプ大統領との交渉に際し、トランプ氏と深い信頼関係を持つ孫氏に「攻略法」やアドバイスを求めたというのは事実のようです。孫会長は、トランプ大統領が1期目の当選を決めた直後の2016年から直接交渉を行うなど、トランプ氏から「マサ」と呼ばれ絶大な信頼を得ている数少ない日本人ですから。
一方で国内的には火種も抱えています。政治思想や国内政策において、高市政権が外資参入や景観破壊が問題視される「メガソーラーの補助金廃止や監視厳格化」へ動いているため、かつて再エネ普及の旗を振った孫氏とは国内ビジネスにおいてある種の緊張関係にあると思われます。
何かと話題の絶えないトランプ氏は「巨額の投資」や「目に見える成果」をその場で要求する傾向があります。孫氏に対しても15兆円の投資表明時に「倍にしろ」と無茶振りをしていました。孫氏がトランプ氏をあしらってきた「その場で安易に断らず、かつ決定的な約束もせず、前向きに検討する姿勢を見せながら実利を勝ち取る」というディール技術を高市首相側も参考にしたとされています。
対米AI投資が外交の盾に
孫会長は「総額78兆〜80兆円規模の対米投資計画」を進めています。これは「スターゲート計画」と称するもので、トランプ大統領、OpenAIのアルトマン社長、オラクルのエリソン会長、そして孫会長の4人が連携して進める巨大プロジェクトです。高市首相はこの「民間による巨額の対米貢献」をバックボーンに、トランプ氏からの不条理な防衛費増額要求や関税圧力をかわす「盾」として活用しようとしています。
高市首相が掲げる「経済安全保障」や半導体・AIでの日米同盟強化において、OpenAIの主要株主であり英アームを率いる孫氏の情報網やアドバイスは、米側の意向を正確に把握するうえで不可欠なものとなっています。
要は、高市首相にとって孫正義氏は、「トランプ大統領という猛獣をコントロールするための最高のナビゲーターであり、外交を有利に進めるための経済的カード」に他なりません。両者は単なる一過性の相談相手ではなく、現在進行形で強力なタッグを組み、日米関係のハンドリングを行っていると言っても過言ではありません。
最高益の裏で警戒される財務リスク
ところで、この5月13日に発表された2026年3月期連結決算において、ソフトバンクグループは純利益5兆円と過去最高益を達成し、投資家の期待に大きく応える結果を出しています。
とはいえ、海外の機関投資家や大手投資ファンド、欧米の市場アナリストは、孫会長の対米AI投資に対して「将来的な爆発力は認めつつも、足元の借入拡大にともなう流動性リスクを非常に警戒している」という二面性をもったシビアな評価を下しています。これは要注意で、具体的には以下の3点が問題視されています。
第1に、「含み益」と「巨額借入」のミスマッチです。これは、非上場資産への過度な依存への懸念であり、ソフトバンクグループの利益の大部分が、OpenAIをはじめとする「未上場株の評価益(含み益)」である点が危惧されているのです。ファンド資産がすぐに現金化できない非上場企業に眠っている一方で、ソフトバンクグループはOpenAIへの追加出資やデータセンター投資のために、短期のブリッジローンやアーム株を担保にした巨額の融資を積極拡大。万が一、AI市場が冷え込んだ場合、担保価値の目減りによる追加担保(マージンコール)要求に直面するリスクが指摘されているわけです。
第2に、約320億ドルに上る「資金ギャップ」への懸念です。短期的な債務償還負担が問題視されており、ソフトバンクグループは今後2年間で既存の社債償還やコミット済みの買収・出資を実行するために、約5兆円規模の資金ギャップ(必要資金と手元現金の差)に直面すると見積もられています。4月に米ドル建て・ユーロ建ての普通社債を発行してブリッジローンの一部を借り換えるなど手回しは早いものの、債務の自転車操業的な側面が強まっている点は要注意です。
第3に、格付け「ネガティブ」化による調達コスト増の懸念です。3月に米S&Pグローバル・レーティングが格付けを「ネガティブ」に引き下げたことを受け、海外の債券ファンドからは「ソフトバンクグループが将来的にプレミアム(上乗せ金利)を払わなければ資金調達できなくなるリスク」が意識され始めています。S&Pの算出ベースでLTV(負債比率)が33%程度まで急上昇している点は、財務の健全性を重視する欧州系ファンドを中心に警戒感を強めさせる要因です。
OpenAI上場に託される流動性リスク
なお、OpenAIが今後予定している歴史的な新規上場が実現すれば、ソフトバンクグループが抱える流動性リスクは一気に解消され、天文学的なキャッシュが転がり込むことへの期待感もありますが、はたしてどうなるものでしょうか。
仮に資金が逼迫しても、過半数を握るアームやTモバイルUSなどの超優良な上場株式が大量にあるため、「本当に危険になれば売却して一瞬でキャッシュをつくれる」という防衛力の高さが評価を支えている点は強みです。海外ファンドの見方は、「孫会長の目の付け所(OpenAIやアーム)は完璧だが、レバレッジのかけ方が危険水域に近い。OpenAIが上場するか、データセンターが稼働して現金を生むまでは、株価は本来の価値より割引して評価せざるを得ない」という、慎重論といえます。
長らく赤字要因だったビジョン・ファンド事業の投資利益が前の期から16倍の6兆9,918億円に激増し、孫会長の「AI集中投資」の正当性が数字で証明されたわけで、好材料と受け止められてはいるようです。孫会長が掲げる保有株式価値は47.7兆円(2026年5月時点)に達しています。実際の時価総額(約14兆円〜20兆円規模)を大きく上回っており、依然として投資家からは「割安(あるいは将来のAI投資リスクへの警戒)」と見なされているため、気が抜けません。
AI投資はクラウドから物理インフラへ
今後の業績は、これまでの「ネット上でのAI投資(クラウド)」から、半導体やデータセンターといった「物理インフラ」への移行とその成否がカギを握るはず。ポジティブな見通しとしては、日米欧での天文学的なインフラ投資が注目されています。 先に述べた米国オハイオ州での80兆円規模のAIデータセンター構想に加え、直近ではフランスへも最大1,000億ドル(約15兆円)の投資を検討中と報じられているほどですから。また、ソフトバンクグループが株式の過半数を持つ半導体設計アームは、主要ハイパースケーラー向けCPUの約半数を占めるまでに成長しており、安定した収益基盤として機能しています。
と同時に、ネガティブな見通しも忘れるわけにはいきません。利益の多くが「OpenAI等の未上場株の評価益(含み益)」に依存しているため、市場でAI投資への不信感が強まったり、OpenAIの上場が遅れたりした場合、再び巨額の評価損を出す「ボラティリティ(乱高下)リスク」を孕んでいます。
初期投資の重荷も指摘されています。半導体やデータセンターなどの「AIコンピューティング事業」セグメントは、投資先行により1,372億円の赤字(前の期から赤字拡大)となっており、これらが実際のキャッシュを生むまでには時間がかかるはずです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








