現在、企業の採用選考やインターンシップにおいて、学生等の求職者に対して精神的・身体的苦痛を与える「就活ハラスメント」が、極めて深刻な経営リスクとなっています。厚生労働省の調査では、求職者の約30%が被害を経験したと回答しており、もはや一部の不適切な企業に限られた問題ではありません。かつては「採用の自由」の名の下、ある程度の踏み込んだ質問や厳しい選考が許容される風潮もありましたが、現代においては「人権侵害」として厳しい目で見られることになります。
法改正と指針が求める企業の義務
2022年4月の労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止法)にともない、厚生労働省の指針では、自社の従業員のみならず、採用応募者に対してもハラスメント防止の措置を講じることが「望ましい」と明記されました。また、22年10月施行の改正職業安定法により、求職者の個人情報の収集は「業務の目的達成に必要な範囲」に限定することが厳格化されています。応募者の能力や適性に関係のない「本籍地」や「宗教」「家族構成」などを尋ねることは、就職差別につながる恐れがあるだけでなく、行政指導の対象にもなり得ます。
また、セクハラに関しては、25年6月の法改正により、26年10月1日からハラスメント禁止の方針明確化、相談窓口の整備、再発防止策の策定などの雇用管理上講ずべき措置が企業に義務付けられます。なお、パワハラについては今回の法改正による義務化の対象ではありませんが、前述の通り厚生労働省の指針では、引き続き「適切な対応を行うよう努めることが望ましい」とされています。
具体的な問題類型と法的リスク
とくに注意すべきは、以下の行為類型です。
セクシュアルハラスメント:交際相手の有無を尋ねる、オンライン面接で不必要に「全身を見せて」と要求する、食事やデートに執拗に誘うなどの行為
パワーハラスメント・オワハラ:威圧的な「圧迫面接」による人格否定や、内定と引き換えに他社の選考辞退を強要する「オワハラ(就活終われハラスメント)」が含まれる
個人情報の不適切利用:採用担当者が個人の携帯メールやSNS(LINE等)で学生に私的な連絡を取ること
これらの行為が発生した場合、企業は「使用者責任(民法715条)」に基づく損害賠償義務を負う可能性があるだけでなく、SNSなどでの拡散による社会的信用の失墜、応募者の減少、さらには既存社員のモチベーション低下や離職といった、甚大な経営的損失を招く可能性があります。
実務的な4つの防止策
トラブルを未然に防ぐため、以下の措置を社内で徹底することを推奨します。
①方針の明確化と周知:全従業員(とくに採用担当者やリクルーター)に対し、求職者へのハラスメントを一切禁止する方針を明確に示し、違反者には懲戒処分など厳正に対処する旨を周知する。
②面接官教育とマニュアル策定:リクルーターやOB・OGを含めた担当者に対し、求職活動等に関するルール(面談時間および場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定等、面談等を行う際の規則等)などについて、継続的な研修を実施し啓発する。
③選考の「脱・密室化」:面談は原則として複数名で対応し、オンラインも含め、不透明な1対1の接触が発生しないよう物理的なルールを確立する。
④相談窓口の設置:求職者向けの相談窓口を設置し、募集要項などで周知する。早期に問題を把握することが、紛争の深刻化を防ぐカギとなります。
選ばれる企業であるために
採用活動は、企業が応募者を選ぶ場であると同時に、学生からその「企業の品格」が評価される場でもあります。ハラスメント対策を単なるリスク管理と捉えず、誠実な選考を通じて「人を大切にする企業」であることを示すことが、これからの時代、優秀な人材を獲得し続けるための最良の経営戦略です。
<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所
所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/
<プロフィール>
岡本成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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