『和』の共創が拓く22世紀のアフリカ戦略──相互信頼を基盤とする普遍的発展の論理と実践──
声楽家・心身健康科学修士号
音声心身健康研究家
松木貴子マリア
現代の国際政治経済において、グローバルサウス、とりわけアフリカ大陸の持つ潜在的な役割と未来への影響力は日増しに高まっている。これにともない、主要国によるアフリカへのアプローチや支援の在り方をめぐっては、多角的な戦略論が百出している。その多くは、インフラ投資の規模やマクロ経済的な利害の等価交換、あるいは形式的な枠組みの構築に主眼が置かれがちである。しかし、真に永続し、双方の社会に幸福をもたらす国際プラットフォームを構築するためには、目に見える資金や技術という形式を整えるだけでは不十分である。その根底に、相手国に対する深い敬意と、目に見えない文化的なつながりへの想像力という「血の通った実体」が流れていなければ、いかなる壮大な構想も確固たる信頼関係を結ぶことは難しい。
中川十郎先生が提唱する「CHINDIA戦略」および「AACI戦略」は、21世紀から22世紀という超長期の歴史的・世界的な地殻変動を見据えた、極めてダイナミックかつ緻密な大局観に基づいている。本論では、筆者が2019年に西アフリカのコートジボワール共和国を訪問した際の実体験を基に、中川氏が提示するアフリカとの真の「共創関係」の本質を学術的・実践的な視座から検証し、日本が世界に示すべき国際貢献の在り方としての「和」の論理を考察する。
アフリカの世紀を見据えた未来投資
中川氏は、21世紀後半から22世紀にかけて「アフリカの世紀」が到来することを明確に見据え、未来の大市場としてのアフリカ攻略を提言している。この超長期的な時間軸の重要性は、限定的な経済予測にとどまらず、医療や福祉、人口動態の最前線において極めて重要な意味をもっている。筆者は19年、コートジボワールのドミニク・ワタラ大統領夫人の招聘を受け、夫人自らが創設された最先端母子医療施設にて奉納奉仕のコンサートを行う機会を得た。この非常に立派な母子病院の全責任者として職務を全うしていたのが、現地医師のソン氏であった。ソン氏は大統領夫人の命によって来日し、日本の医療界で最先端の技術と体制を学んだ人物である。夫人の絶大な信頼のもと、ソン氏は7年もの歳月をかけて構想を練り、日本の最先端医療機器を導入して同施設の医療体制を整え、オープンへと導いたのである。
ここで注目すべきは、ソン氏が語った未来への深い視座である。現在、日本は深刻な高齢化社会の真っ只中にあるが、アフリカにその大きな波が押し寄せるのは「50年後」であるという。大統領夫人やソン氏らは50年後の人口動態と社会構造の変化をあらかじめ見据え、次の世代を守り育てるための強固な基盤として、この母子病院を創設した。さらに、同施設では小児がんなどの重篤な病を患う子どもたちとその家族が、共に寄り添って生活できる施設のモデルをエチオピアに求め、その具現化に向けて動いていた。心理学的配色を施した小児病棟の思想は、欧州のホスピス精神とも深く通じるものであり、アフリカの地でこれほど高次元な生命尊厳の思想が息づいている事実に、筆者は深い感銘を覚えた。
これは、中川氏が論文で指摘する「人財育成」や「民間投資の促進」が、一過性のビジネスに終始することなく、半世紀先の社会構造を見据えた「血の通った未来投資」でなければならないことを雄弁に物語っている。未来の社会課題を予見し、それに寄り添う支援の在り方こそが、真の共創の土台となるのである。
現場で築かれる日本への信頼
国際社会における日本の貢献度は、現地の人々の生の声のなかにこそ真実がある。筆者がコートジボワール共和国滞在中、現地の日本大使館やJICAを訪問した際、舗装道路や高速道路、港、橋といった社会基盤の整備に尽力する多くの日本人の姿を目にした。毎日34度を超える厳しい酷暑のなか、現地の開発のために、肌を真っ黒にして、手ぬぐいを腰に下げ、首に巻いて汗を流して働く日本の技術者や現場の方々の姿は、1人の日本人として非常に美しく、誇り高いものであった。彼らは机上の論理だけで人を動かしているのではない。自らの身体を投げ打ち、現地の人々とともに土にまみれて汗を流していた。このような誠実な歩みがあるからこそ、現地の空港に降り立った際にも、空港職員をはじめとする現地の人々から「日本に感謝」という温かい賛辞の言葉が直接自然に贈られるのである。
筆者は滞在中、マザー・テレサが深く関わった修道院にも足を運んだ。そこは生命の灯火が消えゆく人々や、傷つき逃れてきた母子が身を寄せる、祈りの空間であった。隣接するモスクからコーランが厳かに鳴り響くなか、筆者は修道院の中庭で、魂の平穏を願い「Ave Maria」などを歌った。宗教や文化の境界を超え、人々の瞳に涙が溢れたあの瞬間こそ、音楽という目に見えない響きがもたらす無私の共鳴であった。
孤児院で出会った武道と平和の精神
さらに、ワタラ大統領夫人が運営する孤児院を訪れた際にも、驚くべき精神の共鳴に出会った。そこでは16歳までの多くの子どもたちが勉学に励む傍ら、日本武道を基本とする「南部武道(Nanbudo)」を取り入れ、心身を鍛えていた。この孤児院に暮らす子どもたちの多くは、かつての内戦によって親を失った厳しい背景を背負っている。彼らは17歳になる年にこの施設を巣立てねばならないが、社会に出た後も、決して武器を手にすることなく、誠実に勉学や仕事に励むことができるよう、この武道を通じて平和の精神が厳格に指導されているという。
自己紹介の折、筆者が子どもたちに向けて「ここでは美しいお日様が象牙海岸の水平線に沈みますが、私は日の出る国、日本から参りました」と語りかけると、純粋な瞳をした子どもたちは、口々に「日本へ、いつか自分たちも行ってみたい」と夢を熱く語ってくれた。一生懸命に演武に励む子どもたちの清らかな瞳に触れたとき、筆者は深い感動を覚えるとともに、現地の教育担当代表者が語った次の言葉に、日本の国際貢献のあるべき姿を再認識させられた。
「日本は、橋や道路、港をつくる技術やハイテクノロジーがすばらしいだけではない。それを支えるこうした精神があることを忘れてはいけない。皆さんも日本武道で心身を鍛え、日本の精神を学び、努力していきましょう」
筆者はこのとき、日本の伝統である小舞「盃」を舞い、扇子を前に置いてお辞儀をし、お茶を点てて全員に振る舞った。日本武道を通じてすでに日本の精神性を知っている子どもたちには、「器はあなたの心そのものである」という目に見えない美徳の文化がすんなりと通じ、最後は「天地(あわ)のうた」や「君が代」の響きのもと、阿波踊りで言葉の壁を越えて全員が1つになって踊り、心の底から共鳴し合った。技術や資金という形式を渡すだけでなく、それを支える「精神(心)」が響き合って初めて、真の国際協力という動的実体が完成するのである。
「債務の罠」と日本の「和」の違い
しかし、現代の国際社会におけるグローバルサウスへのアプローチには、これとはまったく異なる発想も存在する。近年、アフリカ諸国やアジアの途上国において多大な議論を呼んでいる、いわゆる「債務の罠」にみられる一方的な手法がその一例である。これは、不透明な条件で巨額のインフラ融資を行い、相手国が返済の困難に直面した際、その交換条件として港湾や鉄道といった国家の重要インフラの運営権を長期間にわたって租借するという経済合理性に基づいた手法である。相手国を対等なパートナーとしてではなく、自らの枠組みや利益を拡大するための資源として扱うアプローチは、結果として現地の社会に反発と不信を招く傾向にある。
ここに、日本の「和」の発想との決定的な違いがある。日本の伝統的な精神性における「調和」とは、他者を自らの都合の良い形式に当てはめてコントロールすることではない。聖徳太子が定めた「十七条憲法」の第一条「和を以て貴しと為す」は、個々人が誠実を尽くし、目に見えない配慮と真心をもって互いに響き合うことで生まれる高次元の秩序を意味する。
これは、国歌「君が代」の歌詞に内包される精神性にも通じる。そこには、自己の覇権を拡張しようとする意図はなく、さざれ石が巌となりて苔の生すまで、「生きとし生けるものすべてが、千代に八千代に、共に手を取り合って栄えていくこと」への、広大無辺な祈りと調和の世界観が宿っている。相手を一方的に動かそうとする手法に対し、日本が示すべきは、酷暑のなかで共に汗を流した技術者たちの誠実さであり、大統領夫人の信頼に応え、日本の先進医療を母国の50年後の未来のために活かそうとするソン医師のような恩返しの連鎖である。
血の通った共創関係こそ日本の使命
中川氏が論文の行間で示されている「経済的な利害計算にとどまらない、他国への深い敬意と情愛、あるいは血の通った共創関係」の本質は、まさにこの日本の伝統的な「和」の精神にほかならない。どれほどスマートに見える組織論や政策提言であっても、他者をコントロールしようとする利害計算に終始するものは、その外枠が崩れた瞬間に永続性を失う。本当に世界から求められ、発展し続けるプラットフォームとは、関わる全員がその主体性を尊重され、互いの果実を認め合う「和」の循環によってのみ達成される。
筆者がコートジボワールの地で五感を通じて確信したのは、目に見える形式の大きさではなく、そこに通う血の温かさと、相手への深い敬意という実体こそが、最終的に人の心を動かし、本物の発展へと導くという事実である。中川氏が提示された、アジアからアフリカをも包み込む「AACI戦略」という壮大な未来の進路に対し、日本は自らのもつ「和の精神」と「誠実な地域実践の知見」をもって貢献すべきである。外側の権威や目先の利害計算に囚われることなく、万物の繁栄を祈る気高き日本の在り方に誇りをもち、世界規模の大きなビジョンを共に支えていくことこそが、混迷を極める現代の国際社会における日本の真の使命である。
※画像は、ワタラ大統領夫人創設の母子最先端医療病院と孤児院を訪問した時と、松木貴子マリア氏の公演時の様子。
<プロフィール>
松木貴子マリア(まつき・たかこ・まりあ)
声楽家、心身健康科学修士号(人間総合科学大学大学院)。昭和音楽大学在学中に歌の道へ進み、ウィーンやミラノなどで声楽を研鑽。国連本部やカーネギーホール等の舞台に出演を重ねる。各地の社にて慰霊と祈りの歌を奏上し、古代出雲国日本初之宮の須我神社では【神魂(かもす)歌手】の名を拝命。現在は、発声による心身の健康増進や自然治癒力の活性化を目指す独自のボーカルメソッドを提唱する。日本学術会議協力学術研究団体・アジア民族造形学会理事、日本ビジネスインテリジェンス協会健康・文化担当理事。








