現場を知る経営者の視点 人材育成で次の成長へ|曙設備工業所

(株)曙設備工業所
代表取締役 蒲生和紀 氏

(株)曙設備工業所 代表取締役 蒲生和紀 氏

 福岡市を拠点に、給排水衛生設備や空調換気設備、消防設備などの設計から施工までを一貫して手がける(株)曙設備工業所。1982年2月の設立以来、福岡都市圏の分譲マンションを中心に、公共施設や商業施設など幅広い建物の設備工事を担ってきた。ゼネコンや設計事務所に対し、設備設計と施工提案を一体で行う独自の営業スタイルを強みとし、地場建設業界で実績を積み重ねている。社長就任から4年目を迎えた蒲生和紀氏に、経営者としての変化、人材育成、今後の展望について聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

社長就任4年目 現場から経営を見る立場へ

 ──社長就任から4年目を迎えました。

 蒲生和紀氏(以下、蒲生) 会社全体を見る立場になって、考えることが増えました。社長になる前から覚悟は必要だと思っていましたが、実際に就任すると、想像していた以上にその重みを感じています。

 私は長く現場で仕事をしてきました。現場では自分の担当を確実にこなすことが第一ですが、社長になると、会社全体を見ながら判断しなければなりません。現場にいたころとは、見える景色がまったく違います。

 ──最後は社長が判断する立場になります。

 蒲生 そうですね。今は相談できる環境もありますが、最終的には自分で決めなければなりません。会社を前に進めるためには、私が覚悟をもって判断することが大切だと思っています。判断にともなう責任の重さは日々感じています。一方で、会社をどう前に進めていくかを考え、決めていくことは、経営者としてのやりがいでもあります。

50億円台の売上基盤 大型案件が業績を下支え

 ──直近期の業績を振り返ってください。

 蒲生 直近期は売上高約57億円となりました。福岡市東区で施工した500戸超の大型マンションが大きく寄与しました。大型案件が1本入ると、売上全体に与える影響は大きくなります。当社は人員を一気に増やせる会社ではありませんので、限られた体制のなかで、まとまった案件を確実に進めていくことが重要になります。

 加えて、近年は建築工事全体の単価も上がっています。同じような仕事であっても、以前より工事金額は大きくなっていますので、売上面ではその影響も出ています。ただ、それは当社だけの力ではなく、市場全体の動きでもあります。そうした要因も踏まえながら、自社の力を冷静に見ていく必要があると感じています。

 ──大型案件は経営面でどういった意味をもつのでしょうか。

 蒲生 1億円規模の現場を5件こなして5億円をつくるのと、5億円規模の現場を1件担当するのでは、効率がまったく違います。現場ごとに必要な段取りや管理はありますので、件数が増えれば、その分だけ負担も増えます。一方で、大型案件であれば、1つの現場に人員や協力会社を集中させながら、一定の売上を確保できます。その意味では、売上規模だけでなく、施工体制や人員配置の面でも大きな意味があります。

 今期は前期の反動で売上は少し落ちる見込みですが、それは以前からわかっていたことです。当社は竣工ベースで売上を計上するため、完成時期によって多少の増減があります。そのため、単年度の売上だけを見て一喜一憂するのではなく、複数年でどう推移していくかを見る必要があります。単年度だけを見れば波はありますが、来期、再来期まで含めた3期で見れば、50億円前後の売上基盤は維持できると考えています。

福岡市の開発需要 市場環境が事業を後押し

 ──福岡市内では大型開発が続いています。

 蒲生 福岡は本当に恵まれた市場だと思います。当社だけの力ではなく、街全体が動いているなかで仕事をいただいているという感覚です。

 大型開発は1社だけで完結する規模ではありません。当社も一部でも関わることができれば、大きな仕事になります。一方で、案件があるからといって何でも受けられるわけではありません。人員や現場の状況を見ながら、無理のないかたちで取り組んでいきたいと考えています。

竣工写真(櫛田神社駅)
竣工写真(櫛田神社駅)

    ──福岡市場の動きは、今後も追い風になりそうです。

 蒲生 そう思います。福岡市内では中心部や駅周辺を含め、大型の開発計画が続いています。設備工事は、建物があって初めて仕事が生まれる業種ですので、街全体が動いていることは非常に大きいです。

 ただ、開発需要があるからといって、すべてを受けられるわけではありません。案件の規模が大きくなれば、工期も長くなりますし、現場に入る人数や協力会社との調整も増えます。受注する以上は、最後まで責任をもって施工しなければなりません。市場環境に恵まれているからこそ、当社の体制で確実に対応できる仕事を見極める必要があると考えています。

人材育成を重視 若手の定着が将来を左右

 ──人材確保は業界全体の課題です。

 蒲生 人材の確保は簡単ではありません。だからこそ、入社してきた社員にどう定着してもらうかが重要になります。入社時には、「何かあれば1人で抱え込まず、まず相談してほしい」と伝えています。本人がよく考えたうえで別の道を選ぶのであれば、それは尊重します。ただ、何も話さないまま会社を離れてしまうのではなく、まずは話をしてほしいという思いがあります。

 ──社長ご自身が社員と向き合うことを大切にされているのですね。

 蒲生 そうですね。社員とは、できるだけ率直に話すようにしています。直接向き合って伝えることが、人を育てるうえでは必要だと思っています。

 今いる20代、30代前半の社員が、5年後、10年後に会社を支える存在になっていかなければなりません。設計、積算、施工管理の各部署で、仕事を任せられる人材を育てていくことが重要です。ただ、設備工事の仕事はすぐに覚えられるものではありません。現場で経験を積み、先輩から仕事の進め方を学びながら、少しずつ力をつけていく必要があります。

 外部の力を借りる場面はありますが、やはり自社の人間が核にならなければ、先の見通しは立てにくいと思っています。すぐに結果が出るものではありませんが、若い社員を早く一人前に育てることが、会社の将来を考えるうえで一番大事だと感じています。

 ──AI活用についてはどのように考えていますか。

 蒲生 AIは今後必要になってくるだろうと思います。使わないで済むものではないでしょうし、業務の効率化につながる部分もあると思います。ただ、現時点では、それ以上に人を育てることのほうが先だと考えています。

 現場で判断することも、社内でどう動くかという感覚も、最初は人に教わりながら覚えていく部分が大きいです。若い社員や新しく入ってきた社員を早く一人前にするには、会社として教えることに力を入れなければなりません。AIを使うにしても、仕事の流れや判断の基準がわかっていなければ、十分に生かすことはできないと思います。

 便利なものは取り入れていく必要がありますが、会社の中心になるのはやはり人です。まずは若い社員を育て、現場で判断できる人材を増やしていくことが大切だと思っています。

本社社屋
本社社屋

現場力を維持 無理のない施工体制を築く

 ──現在の施工体制についてはいかがでしょうか。

 蒲生 今の人員体制で50億円台の売上をこなすのは、かなり上限に近いと思っています。営業だけを考えれば受注を増やすこともできるかもしれませんが、現在の体制では難しい面があります。無理をすれば、現場でエラーが出ます。

 実際、「なぜそこに気づかなかったのか」と感じることもありますが、これは担当者だけの問題ではなく、余力が少ない状態で仕事をしていることも影響していると思います。だからこそ、売上だけを追うのではなく、今の体制で確実に施工できる範囲を守ることも大切です。

 ──協力会社との連携も欠かせません。

 蒲生 そうですね。当社だけで仕事をしているわけではありません。協力会社の皆さんに支えていただいています。長く一緒に仕事をしてきた関係があるからこそ、今の施工体制が成り立っています。

福岡市場を追い風に着実な経営を続ける

 ──今後の経営方針をお聞かせください。

 蒲生 まずは50億円台の売上基盤をしっかり維持することです。無理に規模を追うのではなく、人を育て、現場に余力をもたせながら、着実に仕事を続けていきたいと考えています。

 福岡は本当に恵まれた市場です。九大箱崎跡地の再開発など、今後も大型開発の動きは続くと思いますし、当社としても関われる部分があれば関わっていきたいという思いはあります。ただ、案件があるからといって、すべてを受けられるわけではありません。人がいなければ現場は動きませんし、今の体制で無理をすれば、現場に負担が出ます。だからこそ、どこまで対応できるのかを見極めながら、確実に施工できる仕事を積み重ねていくことが大切です。

 これからも、社員を育て、協力会社との関係を大切にしながら、1つひとつの現場を確実に納めていきたいと思っています。市場の勢いに流されるのではなく、現場力を土台に、安定した経営を続けていくことが当社の基本方針です。

【文・構成:松下森音】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:蒲生和紀
所在地:福岡市早良区田村4-15-10
設 立:1982年2月
資本金:6,000万円
売上高:(25/12)57億7,577万円
TEL:092-801-7247
URL:https://kk-akebonosetsubi.com


<プロフィール>
蒲生和紀
(がもう・かずのり)
1975年7月生まれ。長崎大学水産専攻科卒業後、99年4月に(株)曙設備工業所に入社。現場管理などの経験を積み、取締役営業部長に就任。2022年10月に代表取締役に就任した。趣味はスポーツ観戦。

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