【クローズアップ】健康寿命30位台の福岡を変える桜十字が描く「ウェルビーイングキャピタル」
桜十字グループは2026年9月10日、福岡市中央区渡辺通の商業施設「BiVi福岡」7階に「桜十字先端イノベーションセンターSACRA(Sakurajuji Advanced Center for Research and Application)」をリニューアルオープンした。オープンイベントでの取材を基に、グループの歩みと(医)福岡桜十字での構想、センター再出発の狙いを追った。
病院再生からウェルビーイングへ
桜十字グループの出発点は2005年、熊本市にあった641床の病院を承継したことにある。翌06年には診療報酬改定によって医療収益が20%落ち込み、経営危機に直面したが、運営体制の見直しを進めながら立て直した。10年には、患者、地域、職員の3者の幸せを追求する「ハッピースパイラル」を経営理念として掲げた。
その後は、民事再生や私的整理を経た病院の再生にも取り組み、現在は27施設、3,734床を運営するまでに規模を拡大した。同グループによると、病床数は九州で最多となっている。25年12月に受審した病院機能評価では13項目でS評価を獲得した。桜十字病院が日本医療機能評価機構の公開データを独自集計したところ、S評価数は慢性期病院で全国最多、全病院では5位だった。病院の建替えや設備更新だけでなく、医療・看護の質まで高めることを重視してきた。
事業領域も広がった。病院、高齢者住宅、予防医療、在宅サービスに加え、歯科、障害福祉、人材、コンサルティング、ホテル、スポーツ・エンターテインメントなどへ展開している。高齢者住宅は全国30施設・1,838室、予防医療は19施設で年間約40万人が利用する。障害福祉も全国45施設を運営するなど、病院を起点としながら、生活のさまざまな場面へ接点を広げてきた。
売上高は創業時の40億円から25年度870億円へ増え、都道府県別では福岡県の比率が最も高い。病院事業はいまも同グループの中核だが、売上高に占める比率は約半分となり、事業構造は「医療グループ」から、人の暮らしや人生全体に関わるグループへ変化している。
桜十字グループでは現在、事業領域を「Medical」「Experience」「Solution」の3つに整理した。医療・介護・予防医療を中核としつつ、人生を楽しむ体験や、事業運営を支える人材・コンサルティングまで含めてウェルビーイングを支える構造を描いている。
成長都市・福岡に潜む健康課題
創立20周年を機に掲げた新たなビジョンが「ウェルビーイングフロンティア」だ。病気を治すことだけでなく、身体、心、社会とのつながりまで含め、人が健康で自分らしく生きられる状態をつくることを目指す。その重点地域の1つが、同グループ内で最大の売上比率を占める福岡である。
グループ全体の方針に基づき、同グループ傘下で福岡での事業を牽引している(医)福岡桜十字が掲げる将来像は「ウェルビーイングキャピタル福岡」。そこには、アジアを代表する健康と幸せのモデル都市へ福岡を変えていくという意味と、健康そのものを都市の「資本」として捉える意味を込めた。
一方、成長都市として注目される福岡にも課題はある。同グループの発表では、福岡市は40年ごろに人口がピークを迎える一方、35年ごろから高齢化が加速する。介護にともなう離職や生産性低下、子どもの発達支援、働く世代の健康問題などを経済的損失に換算すると、40年には年間約2,600億円、1日あたり約7億円に上るとの試算を示した。
もう1つ注目するのが、発症前の「一次予防」に対する意識の低さだ。最新の22年値では福岡県の健康寿命は男性72.20年で32位、女性75.28年で35位。胃がん検診受診率は47.3%で、全国平均48.4%を下回り、特定健診実施率は53.1%で全国36位となっている。「病気になっても福岡なら何とかなる」という安心感の裏側で、病気になる前に行動する習慣が十分に根付いていないとの問題意識だ。
健診・在宅・生活習慣から
福岡モデルを
こうした課題への対応として、子ども世代の「バイタリティ」、働く世代の「ロンジェビティ」、高齢世代の「ヒューマニティ」という3領域を掲げる。子どもの運動・栄養・睡眠への支援から、働く世代の健康づくり、人生の最終段階まで尊厳を重視する医療まで、生涯を通じて健康を支える考え方だ。
なかでも具体化が進むのが予防医療である。BiVi福岡8階には27年春、新たな健診施設を開設する予定で、胃カメラは1日最大180件を受け入れる体制を整える。健診を受けて終わりではなく、当日の保健指導や二次検査への接続まで含め、継続的な健康管理につなげる。既存の天神、博多の拠点と合わせ、福岡で予防医療の受け皿を広げていく方針だ。
在宅医療も大きな柱となる。25年12月には愛媛県松山市で在宅医療に取り組む(医)ゆうの森がグループ入りし、26年3月には「在宅医療フロンティアプロジェクト2040」を始動した。今後、医療を受ける場が病院から自宅へ移る流れを見据え、質の高い看取りを持続的に提供できるモデルを、まず福岡で構築する考えだ。
さらに健康づくりでは「食う・寝る・歩く」を基本に据える。早期発見・早期治療だけでなく、栄養、睡眠、歩行など日々の生活そのものを改善し、健康を「守る」段階から「つくる」段階へ進める。高齢者医療では、病気を治すことだけを目的とするのではなく、患者本人がどう生きたいかという尊厳を重視する「Beingの医療」を打ち出している。
熊本の1病院から始まった桜十字は、病院再生で蓄積した医療と経営のノウハウを、予防、在宅、生活支援、地域づくりへと広げてきた。福岡で目指すのは、個々のサービスを増やすことだけではない。子どもから高齢者まで、それぞれの人生の段階に必要な支援をつなぎ、健康を地域の価値そのものへ変えていくことだ。「ウェルビーイングキャピタル福岡」は、福岡桜十字が次の10年に向けて描く地域戦略の核となる。
【岩本願】
<COMPANY INFORMATION>
(医)福岡桜十字
理事長 :今村博孝
所在地 :福岡市中央区渡辺通3-5-11
設 立 :2009年1月
事業収益:(25/3)76億1,478万円
<INFORMATION>
桜十字先端イノベーションセンター
所在地:福岡市中央区渡辺通4-1-36
開 設:2018年4月
URL:https://sj-sacra.jp/









